実はこっそりあいつに溺れてますが、何か?

らいち

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最終章

前編

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  今日は学園祭の初日で明日が最終日だ。だから本当なら明日の後夜祭に花火が上がるはずだったんだけど、業者の方の都合が悪いということで、今日花火を上げることになったらしい。

「どこ行くの? これから花火が上がるらしいよ。みんなもう外に出てる」
「ちょうどさ、花火がよく見えそうな教室があるんだよ。ごちゃごちゃと皆と見るより、二人で見る方がいいだろう?」
「…………」
「ん?」

 神の言葉に、私たちの世界が既に変わっていたことに気が付いた。それに恥ずかしいけど感動して、神をポケッと見つめた。
 返事を催促し甘く私を見つめるその表情も、もう気まぐれだなんて思わないでいいんだね。

「うん……」

 待ち焦がれていた関係だけど、その願いが叶った途端やっぱりなんだか恥ずかしくて。私はらしくなく小さな声で返事をし、こくんと頷いた。

「ほら、こっちだ」

 神は私の手を取って、その教室へと私を導く。電気が消えた教室が多い中、薄暗い廊下を一緒に歩いているのがなんだか不思議だった。

 神が連れて来たのは、グラウンドに面した美術室だ。もちろん辺りには誰もいないので、シンとしていてとても静か。
  手を繋いだまま何も言わない状況が居心地悪くて顔を上げると、神とぱちりと目が合った。

 もしかして私のこと、さっきからずっと見てた? 慣れないなあ。やだ、ドキドキしてきた。

 ……ん? でも、あれ? 確か神に聞かなきゃいけないと思っていたことが……。

「あっ、そうだよ神! 桜、桜とはどういう関係なのよ! 何で今日一緒に回ってたの?」

 ずっとモヤモヤいらいらしていた原因だ。これを聞かなきゃ納得いかないという思いで神を見ると、彼は不服そうに眉間に皺を寄せる。

「せっかくいい雰囲気なのに、今聞く?」
「聞くよ、聞くでしょ? あんな桜なんて超絶可愛い子と一緒に歩き回って! まるでみんなにお似合いでしょってアピールしてるみたいに!」
「加代子……」
「もしかしたら神の本命なのかもって、私そう思ってたんだよ……」

 思い出しただけで悔しくて涙が出てきた。神に見られるのが嫌で下を向いたら、突然ぎゅっと抱きしめられる。

「ごめん、悪かったよ。……本当は、今日は加代子と一緒に回ろうと思ってた。だけど、どうしても断り辛い状況になっちゃって」
「断り辛い状況って……?」

 神に抱きしめられたまま喋っているので、私の声はもごもごと聞こえる。
 聞こえたのか心配だったので、顔を動かそうとちょっと身じろいでみたんだけど、なぜが神にさらに強く抱きしめられた。そしてその状態で、「実はさ――」と事の詳細を教えられた。

「……大丈夫なの?」

 モデルとか芸能界とか、神にとてつもなく似合いそうな話しを持ち掛けられていることを知り不安になった。神の背中のシャツをギュッと握りながら言うと、何が可笑しいのか神が笑う。

「なに、笑ってるのよ?」
「うん? 可愛いなあと思って」
「はあっ?」

 素っ頓狂な声を上げる私に、神は笑いながら体を離した。

「僕はそんな物に興味はないよ。最初は断ったんだけどね、だけど桜が学校の行事に一度も参加できなかったって聞いて可哀想になっちゃって」

「神……」
「それにさ、偶然いい所で芳樹に会って、その話は芳樹に丸投げしてきた」
「えっ? それって、従兄の?」
「そう」

 そう言って神はにやりと笑った。

「たまにはあの人も役に立つんだね」
「ええっ?」
「だって、神の女の子好きはあの人の影響でしょ?」
「あはは、そうかもな」
「もうー」

 ドドーン!
 大きな音と共に、ぱあっと急に明るくなった。花火だ! 

「見たか?」
「ちゃんと見れなかった!」
「僕も。……あっ、次来るぞ!」

 神の言う通り、ヒュルヒュルと昇った花火がボンボンッと大きな音を立て、夜空に大きな花を散らす。

「綺麗!」
「そうだな」

 パラパラと舞い散る火の粉を見ながら、次の花火を身を乗り出して待った。そんな私の掌を、神が上からそっと握りしめる。そして彼は私の手を持ち上げて、そこに何かを通した。

「……神、これ」
「僕の彼女にプレゼント」

 神はそう言って、ちゃめっ気たっぷりに笑う。

 私の手首には、オレンジや黄色をベースにしたあのキャンディーのようなブレスレットが付けられていた。
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