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第二章

デートの約束3

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四月二十九日、ゴールデンウイーク初日。
僕にはそんな楽しい行事には関係なく、厳しい稽古が待っている。

そして劇団員のみんなは、来月の3日から6日まで隣町にある劇場での舞台が控えていた。
本来なら僕もその舞台に上がるのだが、高校を女装して通う事を決める際に万が一の事を考えて、遠方じゃなければ舞台には上がらないという条件を付けたので、今回は僕は公演には参加しない事になっている。
とは言え、代わりに厳しく稽古をする様に厳命され、その期間は親父の連れてきた踊りのお師匠さんに付いて習う事になっている。

皆が舞台の稽古に追われている中、僕はお師匠さんに付いて厳しく指導を受けていた。

「少し休憩しましょう」
師匠の前田さんからやっと休憩の言葉を貰った。

前田さんは三十代そこそこといったところだろう。
中肉中背で、均整のとれた体つき。いつも穏やかな笑みをたたえている印象だけど、芸事には妥協の無い厳しい人だ。親父が連れてくるだけあって、僕にはなかなかハードな練習になっていた。

ようやく休憩できるとあって僕はホッとした。

「何か飲み物入れてきます」

僕は稽古場を後にして台所に向かう。台所では団員の向井さんが、冷たい麦茶を入れていた。

「あれ? 姉さんは?」

姉さんは、現在短大の一年生で保育士を目指している。

親父は本当は、劇団の方に本腰を入れてほしいと思っていたようだったのだが、姉さんが子供が大好きで、自分の天分は保育士だと説得し、とうとう親父が折れたといった格好だった。

それでも姉さん自身、芝居が嫌いというわけでは無いので、今のところは自分の時間を上手く使って舞台に立つことを了承していた。
そのための稽古もちゃんとこなしている。わが姉ながら、頑張り屋だと本当に思う。

「千代美さんなら買い出しに行ってくれています。本当は俺が行くべきだと思ったんですけど、座長が千代美さんに行かせるからと言われて」

「ああ、そっか。でもたいした買い物ではないって言ってたから、向井さんは気にする事ないですよ。それより、向井さん彼女いましたよね? せっかくのGWなのに遊びに行けないってごねられませんでした?」

「ハハ。大丈夫です。公演のチケット渡したんで、向こうで少し会う時間も設けるつもりですし」

うーん、なるほど。それは良いかも。

向井さんの惚気?を聞きながら、僕も夏休みの公演の時には、梓も誘えると良いなーと考えていた。
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