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第六章
戸惑い 1
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宇野とは結局それ以上の話しをすることはなく、僕の休憩時間が終わり稽古を終了して振り返った時には、もうそこに宇野の姿は無かった。
何だかなあ…。
別に悪い事をしているわけでもないのに、もやもやした気分だ。宇野があんな顔をするなんて、思ってもみなかったんだよな…。
「はあーっ」と、大きなため息を吐いていると、パカンと頭を叩かれた。振り返ると姉さんが新聞を丸めて立っていた。
「何ため息ついてんのよ。幸せが逃げていくわよ?」
「迷信だろそれ。ため息はそれなりに体に意味のあるものなんだよ」
「そうなの?」
「そうなの」
「で?」
「…何」
「辛気臭い顔の理由」
「辛気臭いって…」
僕は起こした体をまた、バフンとテーブルに突っ伏した。
「なあ」
「うん?」
姉さんの手が、僕の髪を優しく撫でている。その手があまりにも気持ちよくて、少しだけ僕の心は浮上していく。
「…気持ちってさ、素直に全部ぶつけるのが正解なのかな…?」
「――どういうこと?」
「…だいぶ前に好きだから付き合ってくれって言われて、その時ちゃんと断ったんだけど、最近になってまた諦められないみたいなこと言われてさ…。でも今梓と付き合ってるから、きっぱりと断らなきゃって思ったんだけど…」
一旦言葉を区切り、僕は頭を上げて「ふうっ」とため息をこぼした。
「相手を傷つけちゃったかなって思った?」
「…うん」
姉さんは僕の顔を覗き込み、ほほ笑んだ。
「仕方ないんじゃない?」
「…え?」
「きつい言葉を言うのはどうかと思うけど、だからと言って相手を傷つけるのを怖がって、曖昧で気を持たせるような事は言っちゃだめだと思うし」
「そう…だよな」
「うん。その子に心ない優しい言葉でごまかすのは梓ちゃんにも悪いし、その子にだって結局は辛い思いをさせることになると思うよ」
「だよ…な」
もしも梓が、こないだ会った椎名とかいう奴にまとわりつかれているって想像しただけでも、はらわた煮えくり返ってくるもんな。
多少冷たい態度になってしまったとしても、僕がぶれてちゃいけないって事なんだ。
何だかなあ…。
別に悪い事をしているわけでもないのに、もやもやした気分だ。宇野があんな顔をするなんて、思ってもみなかったんだよな…。
「はあーっ」と、大きなため息を吐いていると、パカンと頭を叩かれた。振り返ると姉さんが新聞を丸めて立っていた。
「何ため息ついてんのよ。幸せが逃げていくわよ?」
「迷信だろそれ。ため息はそれなりに体に意味のあるものなんだよ」
「そうなの?」
「そうなの」
「で?」
「…何」
「辛気臭い顔の理由」
「辛気臭いって…」
僕は起こした体をまた、バフンとテーブルに突っ伏した。
「なあ」
「うん?」
姉さんの手が、僕の髪を優しく撫でている。その手があまりにも気持ちよくて、少しだけ僕の心は浮上していく。
「…気持ちってさ、素直に全部ぶつけるのが正解なのかな…?」
「――どういうこと?」
「…だいぶ前に好きだから付き合ってくれって言われて、その時ちゃんと断ったんだけど、最近になってまた諦められないみたいなこと言われてさ…。でも今梓と付き合ってるから、きっぱりと断らなきゃって思ったんだけど…」
一旦言葉を区切り、僕は頭を上げて「ふうっ」とため息をこぼした。
「相手を傷つけちゃったかなって思った?」
「…うん」
姉さんは僕の顔を覗き込み、ほほ笑んだ。
「仕方ないんじゃない?」
「…え?」
「きつい言葉を言うのはどうかと思うけど、だからと言って相手を傷つけるのを怖がって、曖昧で気を持たせるような事は言っちゃだめだと思うし」
「そう…だよな」
「うん。その子に心ない優しい言葉でごまかすのは梓ちゃんにも悪いし、その子にだって結局は辛い思いをさせることになると思うよ」
「だよ…な」
もしも梓が、こないだ会った椎名とかいう奴にまとわりつかれているって想像しただけでも、はらわた煮えくり返ってくるもんな。
多少冷たい態度になってしまったとしても、僕がぶれてちゃいけないって事なんだ。
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