お姉ちゃんはぼくのせいにしている

らいち

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第四章

小川君の頑張り

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 コートの数の都合もあり、私たち一年三組の女子バレーの試合は十時を予定していた。まだ時間があるということで、ここにいる数人は男子のドッジボールを見にいくことになった。

 ドッジボールって、小川君も出るんだよな。男子は女子と違って人数が少ないから、補欠がいないんだよね。

「ああ、もうやってるみたい。って、さすが男子、すごい迫力」

 ぶつける方もマジだ。あれ絶対、当たったら痛いやつだ。小川君なんてすぐにやられてそう。

 運動神経のいい人たちはしっかりボールをキャッチして相手を狙う。それがこのゲームの面白いところなんだけど……。
 って、あれ? 小川君、まだ残ってる!

 よく見ると、決してボールを取ろうとしない小川君はやっぱり狙われているみたいだった。だけどそれを、なんと小川君はすべて器用によけているのだ。

 意外。反射神経はいいんだ……。

「ねえ、あれ。小川君を狙ったボールに、別の人たちがやられてない?」
「みたい……」
 なんとも珍妙な状況だ。

「あっ、香川かがわがボールキャッチしたよ!」
「本当だ。いけいけ香川ー!」

 当の香川は、楽しんでいるのか怒っているのか分からない表情で勢いよくボールを投げた。それを相手チームがキャッチし損ねたので、こちら側は大いに盛り上がる。

「もしかしたらこれ、勝ち上がれるんじゃない?」
「どうかなあ」
「あっ!」

 みんなの目が一方向に釘付けになった。小川君が、なにを思ったのかボールをキャッチしにいったのだ。
 うまく取れずに不格好にボールをお手玉している。そして最後には、なんとかボールを胸の前で抱きとめることができた。

「はあ~っ。焦ったぁ」
「びっくりした。小川君がキャッチしたよ……」
 佳奈が、呆けたように呟いた。

「うん、驚いたね。でも男の子だったらあれくらい……」
「なに言ってるの? 小川君って、本気でびっくりするくらい運動神経鈍いんだよ」
「…………」 

 そういえば私に、助けてもらったとか言ってたな。覚えてないけど。

「一生懸命頑張ったのかな」
「……え?」
「だって小川君無神経だけど、頑張り屋みたいじゃない」
 ああ……。
「そうかも」

 試合は最初は劣勢かと思ったのだけど、後半うまい男子たちが巻き返し、勝ち進むことができた。

 小川君は奇跡的にボールをキャッチしたあの後、思いっきりボールをぶつけられてしまってアウトになっていた。だけど運動音痴な彼の頑張りが香川君を奮い立たせたのは事実なようで、試合が終わってすぐに、香川君は小川君にハイタッチをしにいっていた。

 うれしそう。

 自分は運動神経なんてないからと頭を掻いていた小川君を思い出して、胸の中がちょっぴりホッコリと温かくなった。
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