お姉ちゃんはぼくのせいにしている

らいち

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第四章

親友のピンチ

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 二試合目は午後からだった。女子のドッジボールも勝ち進んでいたので、互いに応援はできない。みんな頑張ろうと言い合って、それぞれの試合に向かった。

「気合い入るねー」
「だねー」

 明るく話しながら前を歩く佳奈に、少し違和感を覚える。

「佳奈?」
「なに?」
 佳奈が振り返る。
「なんか……大丈夫?」
「えっ?」

 ハッとした表情の佳奈に、やっぱりいつもの佳奈となにかが違うと思った。

「か……」
「中山さん、なに言ってるの? 大丈夫か気になるのはそっちでしょう? ……まあ、出番はないだろうけどね」
「……ちょっと、言い方!」
「だって本当のことじゃない」

 あいかわらず私に厳しい吉田さんに、佳奈が注意をしたけれど聞く耳を持つ気配はなかった。
 佳奈が庇えば庇うほど、吉田さんには嫌われていくような気がする。なんであんな奴が友達なんだって、そう思われていそうだ。


 試合が始まりコートに並ぶ面々を見て、五組は体育会系の人が多いというわけが分かった。立ち姿もシャンとしているし、なによりみんな表情が明るい。これから始まる試合にワクワクしているといった感じだ。

 強そうだな。

「五組、なんかすごいね」
 美穂さんが、おっかなそうに言う。
「そうだね」
「で、でも大丈夫だよね。うちには佳奈さんも吉田さんもいるし」
「うん……」

 そういえば、さっきの佳奈に対する私の違和感はなんだったんだろう。動きがなんだかいつもとちょっと違うような気がしたんだけど……。

 佳奈のサーブは変わらずすごかったけれど、一組の試合のときのように一方的に点数が入る状況にはならなかった。

「やっぱり五組はすごいな」
「うん、強い」

 細井さんが受けたボールを繋いだ吉田さんが、佳奈にトスを上げる。佳奈はそれを受けてスパイクを打った。強烈なそれは先ほどと変わらないように見え、きれいに決まった。

「やった!」

 美穂さんが拳を握って叫んだ。私も手を叩いて声援する。 
 だけどやっぱり……今までの佳奈に比べるとなにか変だ。……軸がぶれている?

「佳奈さんはすごいけど……さっきの試合みたいにすんなり終わりそうにないね」
「うん……時間かかりそうだね」

 ラリーが続いてなかなか点が入らないと同時に、力も拮抗しているのか点差も開かない。おまけに相手チームにサーブのうまい人がいて、あのうまい細井さんが一本受け損ねてしまっていた。

「もうこうなると、佳奈さんと吉田さん頼みかなあ」
「うん……」

 吉田さんもそういう思いが強くなっているのかもしれない。さっきの試合以上に、断然佳奈へのボールの運びが多くなっている。

「あっ!」
 ボールを打ち損ねた佳奈がしゃがみこんだ。

「佳奈? 大丈夫?」

 ここからはよく見えないけれど、佳奈は足を抑えているようだ。ひねったりしているのだろうか。
 実行委員の人も傍によってきて、なにやら話をしている。吉田さんがチラリとこちらを見た。

「ねえ、中山さん」
「うん……やばいかも」

 頑張り屋の佳奈だ。普通なら少々痛くても、あんな態度は見せないだろう。ということは、やっぱりかなりひどいんだろうか。
 細井さんが、私たちの所に駆け寄ってきた。

「佳奈さんがちょっと無理みたいなんだけど、誰か交代してもらえる?」
「えっ? と、とんでもない無理だよ!」

 美穂さんが真っ青になって叫んだ。私もさっきから、いやな感じで心臓がバクバクしている。
 佳奈は脚をさすりながらも、なにやら笑顔で話をしている。私と目が合うと、スッと立ち上がった。

「大丈夫! なんとかできそう」

 えっ?

「本当?」
「うん」
「あ~、よかったー」

 元気そうにふるまう佳奈を見て、一瞬安堵しかけてハッとした。
 ちょっと待って。やっぱそれダメでしょ。今の佳奈にムリさせちゃ……。インハイ予選に出られるかもしれない、大事な時期なんじゃない。

「佳奈!」

 呼ぶと佳奈は、振り返ってニッと笑い私に親指を立ててみせた。だけどほんの少し、左脚を引きずっている。
 いいの? 私、このまま見て見ぬふりをして。
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