上 下
23 / 27
第四章

そういう問題

しおりを挟む
 小川君が向かったのは体育館の裏だった。もちろん誰もいない。佳奈の眉間にますます皺が寄っている。

「こんな所に楓を呼び出してどういうつもりよ」
「いや……実は中山さんに会ってもらいたい人がいて」
「小川君!」

 ハッとして声を上げた。突然大声を出した私に、佳奈が驚いた顔をしている。

「やっぱり、見えていたんだよね」
 見間違いじゃ……なかったんだ。

「声も……聞こえた……」

 唇がわなわなと震え、目からボロボロと涙がこぼれ落ちる。
 ふわりと、なにかが腰の辺りに絡みつく気配がした。

「……っ、翔?」
「うん、そうだよ」
「そう……なんだ」

 ゆっくりとしゃがんで、翔を抱きしめるように腕を回してみた。だけど翔の体の感触はなく、ふんわりとした気配が感じられるだけだ。

「うそっ?」
 佳奈が素っ頓狂な声を上げる。そして私と小川君を交互に見た。

「見えたんだよ試合中に。翔が小川君の隣に立ってるのを。……最初は責められてるんだと思った。だけど……違って……た。翔は、私に頑張ってっ……て言ってくれた……の」

 すぐにでも涙を止めたかった。だけど止めようと思えば思うほど後から後から涙が溢れ出てきて、言葉をうまく出すことができない。
 翔には、言いたいことも聞きたいこともいっぱいあるのに。

「小川君……聞いてもいい?」
 遠慮がちに、佳奈が口を開いた。

「いいよ、なに?」
「もしかして……小川君、けっこう前から翔君のこと見えてた?」
「うん」
「えっ?」

 ……あっ、もしかして。

「翔が見えて、ときどき話してたりしたの?」
「そうだよ」
「いつからなの? 今も……はっきり見えるの? 気配だけじゃなく」
「見えるよ。……中山さんに抱きしめられて、うれしそうだ」
「小川君……」

「……翔君が見えるようになったのは最近なんだ。俺が中山さんに、しつこくなんで運動部に入らないんだって聞いた後からだから」
「え……? それって……」

 翔は、私に部活してもらいたいって思ってたってこと? どうして?

「翔君は中山さんのことをずっと心配してたんだよ。大好きなお姉ちゃんが自分のせいで苦しそうだって」
「そんな……」
「あの、さ。……でもたったらどうして、翔君は楓の前に姿を現さなかったの?」
「そうだよ! 他人な小川君に顔を出すんじゃなくて、私の前に現われてくれればよかったのに……っ」

 佳奈の言う通りだよ。姉弟なのに……!
 ……あっ、でももしかしたら私の前には出にくかったのかな……。約束すら守れなかった私だから……。

「それは仕方ないんだよ。中山さん、霊感ゼロなんだって」
「えっ? 霊感?」
「そっ、そういう問題?」
「大事なことだろ? だって翔君は霊なんだよ」

 あっ……。

 佳奈と二人で顔を見合わせた。
 そうか。私今まで幽霊見たことなんてないもんな。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界転生の日々~現代日本最強の高校生、異世界を駆ける!~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

風の鎮護歌

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

赤ずきんと悪い狼【陰猫(改)Ver.】

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

愛車

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

空欄を埋める

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...