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放っておけない

里奈ちゃんからの誘い

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里奈ちゃんに出会ってから一週間以上たったけど、彼女からの連絡は未だなかった。

今日は久しぶりにいつもの病院にボランティアに芙蓉と出かけ子供たちと楽しく遊んだ俺達は、夕方四時ごろに病院を後にする。
すると携帯電話から着信音。見ると里奈ちゃんからだった。

実はこの携帯も芙蓉が契約してくれている。天使も悪魔も特別テレパシーで会話とかそんな都合のいい能力があるわけでは無いので、支障があると困るからと、芙蓉に強引に渡されたものだった。

どこまでも監視されている俺…。何だか、かなり情けない…。

「もしもし」
「あ、紫温さん、里奈です。この前は有難うございました」

明るくて可愛らしい里奈ちゃんの声、聞いているだけで何だかテンションが上がる。
芙蓉が俺を観察するように見ていた。

俺は芙蓉に手を振って、お前には関係ないとアピールしてみる。先に帰っていいからと。
だけどそんな俺の気持ちに芙蓉は気づいているのかいないのか、俺をじっと見ていた。

「あ、いや、気にしないで。それより何かあった?」
「あ、いえ。あの…」

何だか言いにくそうな雰囲気だ。まさかあのストーカーが、また現れたのか?

「遠慮しないでいいから! 何かあったの?」

「そうじゃないんです。あの…もし良かったら、こないだのお礼に絵画展のチケット貰ったので、一緒に…どうかなと思って…」

里奈ちゃんは恥ずかしいのか言いにくそうにモゴモゴと、しかもだんだんと声が小さくなっていく。
俺の気持ちはそんな彼女の小さな声に反比例して、何だか鰻登りだ。もしや、これはデートのお誘い!?

「もちろん、ぜひっ!」
「あー、良かった。実はかなり緊張してました。あの、明日土曜日ですし、明日で大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫」

そうして俺たちは、待ち合わせの場所と時間を決めて会話を終了した。
電源を切ってほうっと一息つくと、まだ芙蓉はそこに居て、相変わらず俺を観察していた。

「…なんだよ」
「いや、度胸あるなと思って」
「は?」
「本気になると後が辛いぞ」
「…」

俺は二の句が継げなかった。
もしかして芙蓉は俺を心配してくれたのか?

だけどそれを聞いたら、笑い飛ばされて終わりだろう。

「帰るか」
「うん」

歩き出す芙蓉の後に、俺も続いた。
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