復讐からあなたの愛が生まれた

らいち

文字の大きさ
59 / 62
第六章

見守っていてくれたお母さま

しおりを挟む
 日曜日は、お母さまの唯一の休日だ。私もバイトは夕方で終わるので、久しぶりに二人でゆっくりと夕食の時間を過ごしていた。

「お父様の会社、本格的に会社更生法の手続きに入ったようよ」
「そう、なの……」

 あの事件のせいでお父様と浜川という人の過去が明るみに出てしまい、社長であったお父様だけでなく、会社自身も酷いバッシングを浴びるようになった。それで、それ以来今まで上得意だった取引会社が一斉に桜井不動産から手を引いてしまったのだ。おかげで、会社は存亡の危機に陥っていた。

 高遠さんは、どうしただろう。やっぱり、もう既に退職しているのかしら?

「従業員の方々に、迷惑が被らなければいいのだけど……」
「そうね。でも、もう私たちに出来ることは何も無いわ」

 お母さまが、疲れたようにため息を零した。慣れない日々の忙しさや心労が、体に重く圧し掛かっているようだ。

「ねえ、お母さま」
「なあに?」
「私が大学を卒業して就職したら、何か美味しいもの食べに行きましょうね。初のお給料をもらったお祝いで!」
「……そうね。楽しみにしているわ」
「ええ。約束! 私、勉強もちゃんと頑張って、しっかり就職するからね」

 私が力強くそう言うと、お母さまはニッコリと微笑んだ。

 私だってもう、そうそう世間知らずでは無いから、犯罪者の娘というだけで世間の目が厳しいだろうことは容易に想像は付く。恐らく大企業と言われるところでの就職は難しいだろう。
 それでも、諦めてはそこで終わりだ。どんなに小さなところでも、私自身を認めてくれる職場はきっとあると信じて頑張らなければならない。

 もしも本気で就職が決まらないのなら、今のアルバイト先で一生懸命働いて、正社員にしてもらうという手もあるかもしれないし、それが無理ならまたその時に考えればいいのだ。

「桐子? どうしたの、疲れた?」
「あ、いいえ。お母さま。美乃梨さんたちのことを思い出してたの」

 お母さまに余計な心配をさせたくなくて、咄嗟に言い訳をした。お母さまは、美乃梨さんの名前を聞いて、『ああ』と嬉しそうな表情になる。

「桐子は本当に、いいお友達を持っているわね」
「ええ、本当に」

 それからは、お母さまの職場での話を聞いたり、私のアルバイト先の話をしたりした。お母さまの方も私同様、今ではだいぶ仕事に慣れて、一緒にお昼の休憩をとる同僚と、だいぶ親しくなっているようだった。

「今日は久しぶりに、ゆったりした気分になれたわね」
「ええ」

 寝支度をしながら、お母さまがゆっくりと私の方に向き直る。

「ねえ、桐子」
「なあに、お母さま」
「無理はしないでいいわよ」
「え?」
「もし、就職が決まらなくてここでの生活が苦しくなったら、私の故郷のN県に戻りましょう」
「……え?」

「実家の両親は、もう亡くなっているけど、兄が戻って来るなら仕事先も世話してやれるぞって言ってくれてるのよ」

「お母さま……」

「返事は急ぐことは無いらしいから焦ることは無いけど、頭に入れておいて? いざとなったら、何とかなるってことを」

「……ん。分かったわ……」

 どうしてだろう。胸が詰まってしまった。

 お母さまは、何も言わなくてもきっと分かって下さっていたのだ。私が時折感じる焦燥感や、様々な決意を。そして、急かすでもなく諭すわけでもなく、ずっと見守っていてくれたのだ。

 私は、お母さまのその優しさが嬉しくて、ほんの少しだけ目頭を熱くしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】私が愛されるのを見ていなさい

芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定) 公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。 絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。 ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。 完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。  立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)

スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」 唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。 四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。 絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。 「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」 明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは? 虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

還暦妻と若い彼 継承される情熱

MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。 しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。 母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。 同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

処理中です...