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第六章
見守っていてくれたお母さま
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日曜日は、お母さまの唯一の休日だ。私もバイトは夕方で終わるので、久しぶりに二人でゆっくりと夕食の時間を過ごしていた。
「お父様の会社、本格的に会社更生法の手続きに入ったようよ」
「そう、なの……」
あの事件のせいでお父様と浜川という人の過去が明るみに出てしまい、社長であったお父様だけでなく、会社自身も酷いバッシングを浴びるようになった。それで、それ以来今まで上得意だった取引会社が一斉に桜井不動産から手を引いてしまったのだ。おかげで、会社は存亡の危機に陥っていた。
高遠さんは、どうしただろう。やっぱり、もう既に退職しているのかしら?
「従業員の方々に、迷惑が被らなければいいのだけど……」
「そうね。でも、もう私たちに出来ることは何も無いわ」
お母さまが、疲れたようにため息を零した。慣れない日々の忙しさや心労が、体に重く圧し掛かっているようだ。
「ねえ、お母さま」
「なあに?」
「私が大学を卒業して就職したら、何か美味しいもの食べに行きましょうね。初のお給料をもらったお祝いで!」
「……そうね。楽しみにしているわ」
「ええ。約束! 私、勉強もちゃんと頑張って、しっかり就職するからね」
私が力強くそう言うと、お母さまはニッコリと微笑んだ。
私だってもう、そうそう世間知らずでは無いから、犯罪者の娘というだけで世間の目が厳しいだろうことは容易に想像は付く。恐らく大企業と言われるところでの就職は難しいだろう。
それでも、諦めてはそこで終わりだ。どんなに小さなところでも、私自身を認めてくれる職場はきっとあると信じて頑張らなければならない。
もしも本気で就職が決まらないのなら、今のアルバイト先で一生懸命働いて、正社員にしてもらうという手もあるかもしれないし、それが無理ならまたその時に考えればいいのだ。
「桐子? どうしたの、疲れた?」
「あ、いいえ。お母さま。美乃梨さんたちのことを思い出してたの」
お母さまに余計な心配をさせたくなくて、咄嗟に言い訳をした。お母さまは、美乃梨さんの名前を聞いて、『ああ』と嬉しそうな表情になる。
「桐子は本当に、いいお友達を持っているわね」
「ええ、本当に」
それからは、お母さまの職場での話を聞いたり、私のアルバイト先の話をしたりした。お母さまの方も私同様、今ではだいぶ仕事に慣れて、一緒にお昼の休憩をとる同僚と、だいぶ親しくなっているようだった。
「今日は久しぶりに、ゆったりした気分になれたわね」
「ええ」
寝支度をしながら、お母さまがゆっくりと私の方に向き直る。
「ねえ、桐子」
「なあに、お母さま」
「無理はしないでいいわよ」
「え?」
「もし、就職が決まらなくてここでの生活が苦しくなったら、私の故郷のN県に戻りましょう」
「……え?」
「実家の両親は、もう亡くなっているけど、兄が戻って来るなら仕事先も世話してやれるぞって言ってくれてるのよ」
「お母さま……」
「返事は急ぐことは無いらしいから焦ることは無いけど、頭に入れておいて? いざとなったら、何とかなるってことを」
「……ん。分かったわ……」
どうしてだろう。胸が詰まってしまった。
お母さまは、何も言わなくてもきっと分かって下さっていたのだ。私が時折感じる焦燥感や、様々な決意を。そして、急かすでもなく諭すわけでもなく、ずっと見守っていてくれたのだ。
私は、お母さまのその優しさが嬉しくて、ほんの少しだけ目頭を熱くしていた。
「お父様の会社、本格的に会社更生法の手続きに入ったようよ」
「そう、なの……」
あの事件のせいでお父様と浜川という人の過去が明るみに出てしまい、社長であったお父様だけでなく、会社自身も酷いバッシングを浴びるようになった。それで、それ以来今まで上得意だった取引会社が一斉に桜井不動産から手を引いてしまったのだ。おかげで、会社は存亡の危機に陥っていた。
高遠さんは、どうしただろう。やっぱり、もう既に退職しているのかしら?
「従業員の方々に、迷惑が被らなければいいのだけど……」
「そうね。でも、もう私たちに出来ることは何も無いわ」
お母さまが、疲れたようにため息を零した。慣れない日々の忙しさや心労が、体に重く圧し掛かっているようだ。
「ねえ、お母さま」
「なあに?」
「私が大学を卒業して就職したら、何か美味しいもの食べに行きましょうね。初のお給料をもらったお祝いで!」
「……そうね。楽しみにしているわ」
「ええ。約束! 私、勉強もちゃんと頑張って、しっかり就職するからね」
私が力強くそう言うと、お母さまはニッコリと微笑んだ。
私だってもう、そうそう世間知らずでは無いから、犯罪者の娘というだけで世間の目が厳しいだろうことは容易に想像は付く。恐らく大企業と言われるところでの就職は難しいだろう。
それでも、諦めてはそこで終わりだ。どんなに小さなところでも、私自身を認めてくれる職場はきっとあると信じて頑張らなければならない。
もしも本気で就職が決まらないのなら、今のアルバイト先で一生懸命働いて、正社員にしてもらうという手もあるかもしれないし、それが無理ならまたその時に考えればいいのだ。
「桐子? どうしたの、疲れた?」
「あ、いいえ。お母さま。美乃梨さんたちのことを思い出してたの」
お母さまに余計な心配をさせたくなくて、咄嗟に言い訳をした。お母さまは、美乃梨さんの名前を聞いて、『ああ』と嬉しそうな表情になる。
「桐子は本当に、いいお友達を持っているわね」
「ええ、本当に」
それからは、お母さまの職場での話を聞いたり、私のアルバイト先の話をしたりした。お母さまの方も私同様、今ではだいぶ仕事に慣れて、一緒にお昼の休憩をとる同僚と、だいぶ親しくなっているようだった。
「今日は久しぶりに、ゆったりした気分になれたわね」
「ええ」
寝支度をしながら、お母さまがゆっくりと私の方に向き直る。
「ねえ、桐子」
「なあに、お母さま」
「無理はしないでいいわよ」
「え?」
「もし、就職が決まらなくてここでの生活が苦しくなったら、私の故郷のN県に戻りましょう」
「……え?」
「実家の両親は、もう亡くなっているけど、兄が戻って来るなら仕事先も世話してやれるぞって言ってくれてるのよ」
「お母さま……」
「返事は急ぐことは無いらしいから焦ることは無いけど、頭に入れておいて? いざとなったら、何とかなるってことを」
「……ん。分かったわ……」
どうしてだろう。胸が詰まってしまった。
お母さまは、何も言わなくてもきっと分かって下さっていたのだ。私が時折感じる焦燥感や、様々な決意を。そして、急かすでもなく諭すわけでもなく、ずっと見守っていてくれたのだ。
私は、お母さまのその優しさが嬉しくて、ほんの少しだけ目頭を熱くしていた。
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