不思議な縁に導かれました

第二章

変わってきた高科さん

　高科さん自身が片付けという言葉から程遠い人だという事は初日で確認済みだったのだけど、私という他人がいてもちっとも改善されないところはさすがだと思った。

  私と同居してからもう十日ぐらい経つというのに、高科さんは今でもそのまま上着をソファに乱暴に放り投げ、脱いだシャツや靴下をそのまま置きっ放しにしている。それでもそれこそ流石だと思ったのは、新聞とか一般の雑誌とかは片付けもせずに二階に上がっていく癖に、専門誌だけはちゃんと部屋に持ち帰るというところだ。

  ……高科さんらしいところだよね。

  とは言え、元々居候させて貰うにあたって、高科さんの世話をするという事が前提だったから、ちっとも気になっていないし当然だとも思っているのだけど。

「さてと……」

　お味噌汁が出来上がったので、火を止めた。そろそろ起きて来ないかなと二階を窺うと同時に、階段を下りてくるスリッパの音が聞こえて来た。  

「おはよう」
「おはようございます。朝ご飯出来てます。顔を洗ったらご飯にしましょう」
「ああ……」

　寝ぼけ眼のまま返事をした高科さんは、そのまま洗面所へと直行した。それを確認して器に盛り、食卓へと並べる。
　丁度準備を終えた頃に、顔を洗い終えた高科さんがテーブルに着いた。そしてリビングを見回して、ポツリと呟いた。

「……だいぶ綺麗になったよな」
「はい。しっかり掃除してますから」
「すまんな」
「気にしないで下さい。その約束でしたから。それじゃあ、いただきましょうか」
「ああ、いただきます」

　文句を言わず箸を手に取る高科さんを見て、思わず口許がほころんだ。朝からご飯を食べることだけはなかなか克服出来ないようで、いつも渋々と言った感じだったから。

　私だって専門家じゃないからよく分からないけど、でもあんなに頭を使う仕事をしているのだから、しっかり食べないと高科さんが思うような満足いった仕事が出来るとは思えないのよね。それに健康的な面でも、やっぱり朝食は大事でしょう？

「……ご馳走さま」

　え？
　いつもより早いその言葉に、思わず顔を上げて高科さんの食器を確認した。

　びっくり。初めてじゃない？　私より早く、完食しているのは。

「自分でも驚いた。……まさか、朝からご飯が美味しいと思えるなんて」
「……！　よ、良かったです」

　きっとこれが感動と言うものなのだろう。自然と笑顔になって、高科さんの前髪に隠れた顔を見つめる。

　これはここしばらくで一番の感動だ。本当にめちゃくちゃ嬉しい。ダメダメな子供の成長を発見した時の母親って、きっとこんな気分なんじゃないだろうか。

　嬉しさのあまりニコニコと高科さんの顔を見続けていたら、引かれてしまった。高科さんはさっさと席を立ち、「急がないと遅刻するぞ」と言い置いて、そそくさとその場を後にした。