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第三章
急変 2
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「おはようございます」
「……ああ」
いつもより少し遅く起きて来た高科さんは、まだ眠いのかどこか覇気がなかった。ほぼ私の顔を見ずに、洗面所へと向かった。少し気にはなったけど朝はのんびりしている時間が無いので、自分の支度を整えた後ご飯を装う。
高科さんは食卓に着いても素っ気ないままだった。いつものように美味しそうに食べる様子も見せず、ただ下を向いて黙々とご飯を食べ続ける。
「あの……」
「悪いが急ごう。今の研究の事で思いついた事があるんだ。もしそれが生かせれば、先に進めるかもしれない」
「あ、そうなんですか」
研究が大詰めってことなんだろうか。だからまた、前みたいにそれ以外の事は頭に入らなくなっているということ?
「しばらくは帰りも遅くなる。だから俺を待たずに、飯は先に食っててくれ」
「……わかりました」
食事を終えた後、いつものように高科さんの車で送ってもらった。だけど普段とはやっぱり様子は明らかに違っていて、最近感じていた居心地の良い雰囲気はさっぱりない。それどころか、話し掛けるなオーラすら感じてしまう。
この素っ気なさは本当に、研究の事が気になることから来ているものなんだろうか。何だか私には、その他の理由があるような気がしてならない。
だけど私には急に変わってしまった高科さんの理由がどこから来ているのか、全く見当がつかなかった。
「白山さん、どうしたの? 元気ないわね」
「えっ、そんなことないです」
「そ~お? じゃあそのお鍋、いつまでかき混ぜてるの?」
「ええっ? すっ、すみません!」
「いいわよ。でも、これからは注意して」
「は、はい!」
いけない、いけない。いくら高科さんの事が気になるからって、今は仕事中だ。ボーッとしてる場合じゃない。プルプルと頭を振って、私は気持ちを切り替えた。
お昼休みになって大勢の社員が流れ込んで来る頃には、余計なことは頭の中から消えていた。いつものように無我夢中で動いて、目の前の事をこなしていく。そうしている内にピークが過ぎ、高科さんがいつもやって来る時間になっていた。
「これ、お願いね」
出来上がった定食をカウンターで手渡していると、スッと誰かがその人の横に並んだ。顔を上げると宮里さんが立っていて、少し離れた後ろに高科さんが立っている。一瞬ドキンとしたけれど、高科さんはやはりいつもと違っていて私と目を合わそうともしない。
宮里さんが食券を二枚手渡した。彼女の持っているもう一枚の食券は、高科さんの物だった。
「……はい」
心臓がギリッと痛んだ。
宮里さんはすごい上機嫌で、高科さんと並んでテーブル席へと向かって行く。いつもなら相手にしない宮里さんと一緒に来ているという事が、私の焦燥感をさらに煽った。
……私、やっぱり知らないうちに何かしちゃったの?
「何? どうしちゃったの、高科さん。あんなに毛嫌いしていた宮里さんと一緒にいるなんて」
「私にも分かりません」
本当に何が何だか分からない。喧嘩したわけでも無いのに、急に素っ気なくなって。
数日前には私を労うためだって言って、ちっとも興味なんて無い『わんこハウス』にも連れて行ってくれて、あんなに楽しい時間を作ってくれたのに。知らないうちに私の写真まで撮ってくれて、記念はこれでいいとまで言ってくれたのに。
テーブル席の一角では、話し掛ける宮里さんに高科さんが相槌を打っていた。彼の表情はそれほど豊かではないけれど、今までの彼女に対する態度とは違って明らかに柔らかくなっていた。
「彼女に押されちゃったのかしらねえ。でもどうせ無理してるんだろうから、すぐまた元に戻るんじゃない?」
「そうでしょうか……」
「だと思うわよ。だってあの二人、ちっとも似合わないもの」
大谷さんはハッキリとそう言ったけれど、高科さんは翌日もその翌々日も宮里さんと一緒に食堂に現れた。そしてその内、廊下で立ち話をする二人を見掛けるようにまでなっていた。家でも会社でも素っ気なくされている私とは対照的に。
戸惑う私をよそに、二人の仲は急接近しているように見えた。
「……ああ」
いつもより少し遅く起きて来た高科さんは、まだ眠いのかどこか覇気がなかった。ほぼ私の顔を見ずに、洗面所へと向かった。少し気にはなったけど朝はのんびりしている時間が無いので、自分の支度を整えた後ご飯を装う。
高科さんは食卓に着いても素っ気ないままだった。いつものように美味しそうに食べる様子も見せず、ただ下を向いて黙々とご飯を食べ続ける。
「あの……」
「悪いが急ごう。今の研究の事で思いついた事があるんだ。もしそれが生かせれば、先に進めるかもしれない」
「あ、そうなんですか」
研究が大詰めってことなんだろうか。だからまた、前みたいにそれ以外の事は頭に入らなくなっているということ?
「しばらくは帰りも遅くなる。だから俺を待たずに、飯は先に食っててくれ」
「……わかりました」
食事を終えた後、いつものように高科さんの車で送ってもらった。だけど普段とはやっぱり様子は明らかに違っていて、最近感じていた居心地の良い雰囲気はさっぱりない。それどころか、話し掛けるなオーラすら感じてしまう。
この素っ気なさは本当に、研究の事が気になることから来ているものなんだろうか。何だか私には、その他の理由があるような気がしてならない。
だけど私には急に変わってしまった高科さんの理由がどこから来ているのか、全く見当がつかなかった。
「白山さん、どうしたの? 元気ないわね」
「えっ、そんなことないです」
「そ~お? じゃあそのお鍋、いつまでかき混ぜてるの?」
「ええっ? すっ、すみません!」
「いいわよ。でも、これからは注意して」
「は、はい!」
いけない、いけない。いくら高科さんの事が気になるからって、今は仕事中だ。ボーッとしてる場合じゃない。プルプルと頭を振って、私は気持ちを切り替えた。
お昼休みになって大勢の社員が流れ込んで来る頃には、余計なことは頭の中から消えていた。いつものように無我夢中で動いて、目の前の事をこなしていく。そうしている内にピークが過ぎ、高科さんがいつもやって来る時間になっていた。
「これ、お願いね」
出来上がった定食をカウンターで手渡していると、スッと誰かがその人の横に並んだ。顔を上げると宮里さんが立っていて、少し離れた後ろに高科さんが立っている。一瞬ドキンとしたけれど、高科さんはやはりいつもと違っていて私と目を合わそうともしない。
宮里さんが食券を二枚手渡した。彼女の持っているもう一枚の食券は、高科さんの物だった。
「……はい」
心臓がギリッと痛んだ。
宮里さんはすごい上機嫌で、高科さんと並んでテーブル席へと向かって行く。いつもなら相手にしない宮里さんと一緒に来ているという事が、私の焦燥感をさらに煽った。
……私、やっぱり知らないうちに何かしちゃったの?
「何? どうしちゃったの、高科さん。あんなに毛嫌いしていた宮里さんと一緒にいるなんて」
「私にも分かりません」
本当に何が何だか分からない。喧嘩したわけでも無いのに、急に素っ気なくなって。
数日前には私を労うためだって言って、ちっとも興味なんて無い『わんこハウス』にも連れて行ってくれて、あんなに楽しい時間を作ってくれたのに。知らないうちに私の写真まで撮ってくれて、記念はこれでいいとまで言ってくれたのに。
テーブル席の一角では、話し掛ける宮里さんに高科さんが相槌を打っていた。彼の表情はそれほど豊かではないけれど、今までの彼女に対する態度とは違って明らかに柔らかくなっていた。
「彼女に押されちゃったのかしらねえ。でもどうせ無理してるんだろうから、すぐまた元に戻るんじゃない?」
「そうでしょうか……」
「だと思うわよ。だってあの二人、ちっとも似合わないもの」
大谷さんはハッキリとそう言ったけれど、高科さんは翌日もその翌々日も宮里さんと一緒に食堂に現れた。そしてその内、廊下で立ち話をする二人を見掛けるようにまでなっていた。家でも会社でも素っ気なくされている私とは対照的に。
戸惑う私をよそに、二人の仲は急接近しているように見えた。
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