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捕食する瞳
不可解な状況
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そして現在8時5分前、屋上に向かう階段を上っている。
荷物を持って行くのは面倒なので、一旦自分の机にスクバは置いてきた。
屋上の重い扉を開けて、中を窺う。
「沙良……?」
既に2人とも来ていると思ったのに、それらしき人物が見えない。こちらから見えない向こう側にいるのかもしれないと思って足を進め……、信じられない光景に息を呑んだ。
どす黒い霧のようなものが、校舎の下から渦を巻いて立ち上っている。
それを男が両手を上げて、まるで受け止めるかのように立っていた。そしてそれは、男に吸収されるかのように消えてなくなって行く。
男の髪は長く、緩やかなウエーブをなびかせている。顔は見えない。
沙良たちはどこに行ったの……? あれは、誰?
あまりにも奇妙な状況に、知らない内に体がガタガタと震えていた。
あの男に見つからないように、ここから去った方が絶対いい。2人の事は気になるけれど、とりあえず一旦教室に戻ろう。もしかしたらあたしが来る前に、話し合いがすんじゃったのかもしれないし。
見つからないように戻ろうと、足を後ろに引いたその時、男が顔を横にずらした。
「えっ!?」
思わず声が漏れて、慌てて口を両手で押さえる。その横顔は、大石君にそっくりだった。
気が付いた男が、ゆっくり近づいてくる。
何……?
何なの……。なんであんなに大石君にそっくりなの……?
怖さと困惑で動けずに固まっていると、男はあたしの真ん前まで来て足を止めた。
「いづみ」
驚愕で声も出ない。その男の発する声は、大石君の声そのものだった。違うのは髪の長さだけだ。
「来い。ここに居るとまずい。竹原が富良野に殺された」
「えっ!? な……っ、どういう事?」
「説明している暇はない。教師がここに駆け込んで来るぞ」
男が動こうとしないあたしに焦れたように、腕をつかんで引っ張ろうとした。
「待って! 大石君なの?」
頭の中がぐちゃぐちゃで、どうしていいのか判断が出来なかった。沙良が由美を殺すだなんて、信じられない……。だって、ちゃんと話し合いたいからあたしに立ち会いをお願いしてきたって言うのに。
「そうだ」
肯定されたのに、泣きそうになる。余計に頭がこんがらがって、何もかもが嫌になってしまいそうだ。
「来い!」
大石君はあたしの腕を引っ張ったかと思うと抱きかかえて、あろうことか屋上から飛び降りた!
「きゃあ……んんっ」
びっくりして大声を出しかけたあたしの口を、大石君のそれが塞ぐ。あたしは目を見開いたまま、大石君の腕にすがりついて固まっていた。
「……いづみ、いづみ」
優しい呼び声と、ペちぺちと頬を叩く暖かい手にハッとして正気に戻る。見上げた大石君は、髪の長さが元の短さに戻っていた。
ぱちぱちと、何度も瞬きをして確かめても、いつもの大石君だ。
「……夢?」
思わずこぼれた言葉にすかさず否定の声が飛ぶ。
「違う。現実だ」
「…………」
「来い。急いで教室に戻るぞ。今頃、大騒ぎだ」
荷物を持って行くのは面倒なので、一旦自分の机にスクバは置いてきた。
屋上の重い扉を開けて、中を窺う。
「沙良……?」
既に2人とも来ていると思ったのに、それらしき人物が見えない。こちらから見えない向こう側にいるのかもしれないと思って足を進め……、信じられない光景に息を呑んだ。
どす黒い霧のようなものが、校舎の下から渦を巻いて立ち上っている。
それを男が両手を上げて、まるで受け止めるかのように立っていた。そしてそれは、男に吸収されるかのように消えてなくなって行く。
男の髪は長く、緩やかなウエーブをなびかせている。顔は見えない。
沙良たちはどこに行ったの……? あれは、誰?
あまりにも奇妙な状況に、知らない内に体がガタガタと震えていた。
あの男に見つからないように、ここから去った方が絶対いい。2人の事は気になるけれど、とりあえず一旦教室に戻ろう。もしかしたらあたしが来る前に、話し合いがすんじゃったのかもしれないし。
見つからないように戻ろうと、足を後ろに引いたその時、男が顔を横にずらした。
「えっ!?」
思わず声が漏れて、慌てて口を両手で押さえる。その横顔は、大石君にそっくりだった。
気が付いた男が、ゆっくり近づいてくる。
何……?
何なの……。なんであんなに大石君にそっくりなの……?
怖さと困惑で動けずに固まっていると、男はあたしの真ん前まで来て足を止めた。
「いづみ」
驚愕で声も出ない。その男の発する声は、大石君の声そのものだった。違うのは髪の長さだけだ。
「来い。ここに居るとまずい。竹原が富良野に殺された」
「えっ!? な……っ、どういう事?」
「説明している暇はない。教師がここに駆け込んで来るぞ」
男が動こうとしないあたしに焦れたように、腕をつかんで引っ張ろうとした。
「待って! 大石君なの?」
頭の中がぐちゃぐちゃで、どうしていいのか判断が出来なかった。沙良が由美を殺すだなんて、信じられない……。だって、ちゃんと話し合いたいからあたしに立ち会いをお願いしてきたって言うのに。
「そうだ」
肯定されたのに、泣きそうになる。余計に頭がこんがらがって、何もかもが嫌になってしまいそうだ。
「来い!」
大石君はあたしの腕を引っ張ったかと思うと抱きかかえて、あろうことか屋上から飛び降りた!
「きゃあ……んんっ」
びっくりして大声を出しかけたあたしの口を、大石君のそれが塞ぐ。あたしは目を見開いたまま、大石君の腕にすがりついて固まっていた。
「……いづみ、いづみ」
優しい呼び声と、ペちぺちと頬を叩く暖かい手にハッとして正気に戻る。見上げた大石君は、髪の長さが元の短さに戻っていた。
ぱちぱちと、何度も瞬きをして確かめても、いつもの大石君だ。
「……夢?」
思わずこぼれた言葉にすかさず否定の声が飛ぶ。
「違う。現実だ」
「…………」
「来い。急いで教室に戻るぞ。今頃、大騒ぎだ」
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