たとえ神様に嫌われても

らいち

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夏休み

きっと、大丈夫

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「俺、倉橋のこと好きだから」
 
こっそりとついて行った先で、平林君のとんでもない宣言を聞いてびっくりした。

「……へえ」
 
相手にしているのかいないのか、判別できないような抑揚の無い声で大石君が返事をする。

「倉橋が大石と付き合ってることくらい知ってるけど、だからと言って諦める気は無いからな」
「ふうん」
 
相変わらず鈍い反応を示す大石君に、平林君はカチンときたようだ。

「なんだよ、お前! 俺は真剣なんだからな!」
「それがなんだ」
 
大石君が射るように平林君を見て、低い声で突き放す。

「いづみは俺を好きで、俺だってあいつを手放す気は無い。お前がいづみを好きでもそんな事は俺には何の関係もないんだよ」
「大石! おま……」
「一番怖いのは――」
 
平林君の声に被せて大石君が言葉を続ける。

「一番怖いのは、俺が本気でお前のことを憎むことだ」
 
警告――、と言わんばかりの冷たい声音に、平林君の顔が強張る。

その様子を見た大石君は、「もう用はないよな」と言い置いてこちらに向かって歩いてきた。平林君は固まったまま、その場で微動だにしない。
 
大石君は隠れているあたしに気が付いていないようでその場を通り過ぎようとしていた。
とっさにあたしは彼の腕を引く。びっくりしてこちらを向いた彼は、あたしを確認して苦笑した。

「どうした。心配だったのか?」
「……だって」
 
優しい声に、優しい表情。堪らなくなって引いた腕にギュッとしがみつくと、もう片方の腕であたしを抱きしめてくれた。
その暖かさにホッとする。
 
大丈夫。
大石君はあたしとの約束を破ったりなんかしない。信じていればきっと大丈夫。

彼の手をギュッと握って、真奈美たちの待つキッチンへと向かった。
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