たとえ神様に嫌われても

らいち

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夏休み

彼を照らす花火

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3人でカレーを仕上げ、夕飯に皆で食べた。
そして一通り片づけを済んだ頃に根津君が花火をやろうと言い出した。

「花火! 良いね、やろう」
 
ビニール袋の中には噴出し花火と手筒花火が入っていた。

「久しぶりだね。私、もう3年くらい花火してないなあ」
 
真奈美が感慨深げに手筒花火を手に取った。隣では大石君が、首を傾げながら噴出し花火をいじっている。
 
その仕草が、何だか可愛らしい。
多分彼は花火をしたことが無いんだろう。見るのも初めてといった風情だ。
 
念のため、バケツに水を入れて蝋燭とチャッカマンを手に外に出る。
平林君が蝋燭に火を点けてくれたので、さっそく手筒花火に火を点けた。勢いよく火の粉が噴き出す。
 
あたしは人のいない方を向き、円を描いて楽しんだ。千夏ちゃんや真奈美も、後に続く。根津君も武本君たちも、花火を手に蝋燭の方に歩いていった。

「ホラ、大石君も」
 
持っていた花火の火が消えてしまったので、もう一度手筒花火を取って彼にも手渡した。
 
2人で同じ方を向いて、噴出す花火を見つめる。
勢いよく飛び出す火の明るさが、闇夜を明るく照らした。

彼の横顔も照らされて、端正な顔が綺麗に浮かび上がる。
 
戻ってきてくれた。傍にいてくれるんだ……。
 
急にそんなことを実感して、あたしは大石君の隣で幸せを噛みしめていた。



「おーい、ドラゴン点けるぞー。ちょっと離れて見てろよ」
 
根津君のその言葉に皆が彼の方を向く。それを確認した根津君は、ドラゴンを置いて火を点けた。
 
噴水のように舞い上がる火の粉。勢いよく噴出したそれは周りを明るく照らし出す。そこから離れた場所で、今度は平林君が同じように火を点けた。
 
双方から噴き出す花火に皆のテンションが上がり、真奈美も千夏ちゃんもはしゃぎだす。もちろん、あたしも。
 
大石君は、そんなあたしたちを目を細めて見ていた。
 
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