たとえ神様に嫌われても

らいち

文字の大きさ
上 下
57 / 82
異変

十字架が怖い 2

しおりを挟む
「いづみ、大丈夫?」
 
あたしの様子がおかしい事に気が付いて、真奈美と千夏ちゃんが心配して傍に来てくれた。

「うん。大丈夫……。なんだろ、ちょっと疲れてるのかな……」
 
まさかあの十字架で気分が悪くなっているとは言えず適当に誤魔化した。心配してくれる二人の隣で、大石君が含みのある目であたしを見ている。
 


城田君は明るく気さくな感じだったので、もうすでに何人かと楽しげに話をしている。
教室から、林君たちと話をしながら廊下に出てきた。そしてあたしたちの脇を通ってそのまま歩いて行った。
 
あたしは、城田君が近づいてくるのも怖くて、思わず大石君の背後に隠れるように後ずさる。
真奈美たちは城田君に対して好印象なようで、2人して「感じ良いよね~」などと、はしゃいでいる。

「怖いのか?」
 
小さな声で、ボソッと大石君があたしに問いかけた。

「……大石君は平気なの?」
「まあな」
 
確かに大石君は十字架を間近に見てもどうって事は無い顔をして平然としている。
 
……と言うことは、あたしが十字架を怖いのは吸血鬼に血を吸われたせいなんだろうか。
もしかしてあたし、血を吸われて吸血鬼になっちゃったの!?
 
とんでもない事に行きあたって、顔面蒼白になった。


「もしかしてあたし、吸血鬼になっちゃったのかな……」
 
そのうち血が欲しくなって誰かを襲ったりしちゃう……?
 
恐ろしい想像に身震いした。
そんなことになったら生きてなんて行けない。

震える手をギュッと握って、落ち着こうと細く息を吐いた。


「大丈夫だ。それは無い」
 
その声に大石君を見上げると、真顔だった。ただ単にあたしを慰めるためのいい加減な言葉では無さそうだ。
 
じゃあどうして……?
 
あたしは確かにあの十字架を怖いと思っている。
それだけは、確かだ。


わけの分からない自分の状態に、あたしは不安を募らせていた。
しおりを挟む

処理中です...