たとえ神様に嫌われても

らいち

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異変

あたしの本音 2

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あたしの様子をじっと見ていたエルザが、更に言葉を重ねた。

「……だけどね、サモンにとってそれは本音ではないのよ。見てられないくらい落ち込んで。かと思うとすごく機嫌が悪いし……」
「………」
 
言葉が出ない。
ただ、涙だけが頬を伝って行く。


「甘い匂い……」
 
エルザのその言葉にハッとして顔を上げる。彼女はそんなあたしに、クスリと笑った。

「図書館でそう言って、口説かれてたわよね」
 
言われてアッと思った。あの時のアレは、やっぱり気のせいなんかじゃなかったんだ。

「……エルザ、だったの……?」
 
恐る恐る聞いたのだけど、彼女は何も答えずに眉を上げて肩をすくめた。

「サモンはここに、何をしに来たと思う?」
「……何って……。目的とかあったんですか?」
 
あたしの問いに一瞬目を細める。
だけどすぐに、気を取り直したように言葉を続けた。

「サモンは魔王の息子で、次期魔王にもう決まっているの」
「……え」
 
一瞬、頭が真っ白になった。

時期魔王……。
もう決まっている……?

「それでここには魔力を上げるため、人間の邪気を吸収するために来ていたの」
「……邪気を……吸収……?」
 
忌まわしい映像が脳裏をかすめた。
由美が殺された日、渦を巻く黒い靄を吸収するかのように両手を上げていた彼の姿。
 
……まさか、あれは由美の……邪気? 

恐ろしい発想に、膝が震えた。

「……まさか、まさか由美を殺したのって……」
 
恐々と聞くあたしに、エルザはぴしゃりと否定した。

「それは違うわ。サモンじゃない。あの調子じゃ、その内沙良が何かを仕出かしそうだという事は分かっていたもの。わざわざ自分から動いたりしない」
 
エルザはそうはっきり否定したけれど、言葉の端端に悪どさを感じてしまい居心地が悪い。大石君の残酷さは度々感じてはいたけれど、やはり心のどこかで否定したがっている自分がいる。

「邪気ってね、私たちの魔力を上げる糧になるんだけど、濃ければ濃いほど苦い味がする物なのよ」
「…………」
「サモンはあなたに会う以前から色んなところで邪気を吸収してきたから、苦味に麻痺しちゃってたりするのよね」
 
そこまで説明したエルザがあたしの事をじっと見た。そして苦く笑いながら視線を落として、静かに言葉を続けた。

「たぶんあなたは、サモンが出会った数多い人間の中で、一番邪気の少ない人間なんだわ」

「……え?」
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