国王になりたいだなんて言ってないby主

らいち

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緑への回帰

卒業の時期

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 予算が無事承認されたことで、テラシジとリューシへの視察が行われた。派遣に赴いたのはフリッツとナイキ侯爵だ。侯爵に関しては、地方の様々なことに精通しているという点が買われての同行だった。

 そこでは、学校が出来た時のその地域に起こる経済効果、そして他所から来る人たちとの事で問題になるであろう事柄などが色々と話し合われ、結局、当初の予想通り高校はテラシジに、大学はリューシにと決まったのである。

 セレンの一番の懸案事項だった教育改革は、一度了承されると後は割とスムーズに進んでいくことが出来た。それというのもセレン自身が事を急がずゆっくりと段階を踏むことにより、この改革が国にとって利になることを実感させていったからでもあった。


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 そして念願であった学校が開設されてから7年が経過し、今日は国王主催の第5回勉学大会が実施されている。各学年の1位を取ったものに対して国王が表彰し、副賞として報奨金まで与えられるという事に、今では当人以上に子を持つ親たちが活気付いていた。

 この勉学大会がスタートした当初は、表彰後には出店でみせが開店を許され、夜になると花火を打ち上げてのお祭り騒ぎとあって眉を顰める者たちが結構居たものだ。だが、結局はそれもこれも経済効果を生み出し領民らからは好評だったこともあり、今現在はこの勉学大会も、ソルダン王国にとっては無くてはならない一大イベントと化していた。

 そして当初は平民たちを見下していた貴族の子息たちも、今では切磋琢磨しあう良いライバル関係と評するようになっていた。

「今回表彰されるのは、スザハイム侯爵のご子息、アレク殿なのですね」

 フリッツから手渡された成績表を見たルウクが、驚きの声を上げた。

「ああ。彼はこの1年、ものすごく頑張っていたからな」

「そうだな。確か彼は、去年は5位の成績だったよな。……表彰された後も、あまり嬉しそうな顔はしていなかった記憶がある。1位だったノルマンを、相当羨ましそうに見ていたのを覚えている」

「……やる気になって頑張る人たちがこうやって居るという事は、表彰自体も悪くは無いですね」

 授与される表彰状を書くのはルウクの仕事だ。丁寧に文面を書いていたその横に、アレクの名前を添える。

「なんだ? ルウクは、勉学大会を気に入って無かったのか?」

「あ、いえ。そんな事はありません。ただ今すぐにでは無いとしても、勉学大会自体はもう少し控えめでもいいのではないかと思っています」

「…………」

「あ、誤解なさらないで下さい。陛下が教育改革を皆に理解してもらうために苦慮して編み出したイベントだという事は理解しておりますし、またそうでもしなければ、教育の有難みを理解されない方々の考え方を変えることも難しかったと存じております」

 ルウクの必死の弁明を聞いたにも関わらず、セレンは考え込むように腕を組んでいる。もしかしたら余計なことを言ってしまったのだろうかと、ルウクは青くなった。

「なあ」
「はい」

 ルウクはセレンに呼びかけられて、何を言われるのかとドキドキしながら返事を返した。

「私は教育改革を唯々成功させるにはどうしたら良いのかという事ばかりを考えてきた」
「はい」

「だが、今から振り返ってみればその一点しか考えていなかったとも言える。優秀な人材が広く活躍できる社会を実現させること、それが最優先事項だと思っていたからだ。ルウクに言われて初めて気が付いたが、大事ばかりを見すぎていて、少時については何ら配慮も考えてはいなかったんだな……」

「セレン様……、僕は……っ、あ、いや陛下、私は……」

 焦ったあまり、フリッツがこの場に居るというのについつい身内だけのしゃべり口調になってしまった。そんな焦るルウクに、セレンが可笑しそうに噴出した。

「焦るな、ルウク。大丈夫だ。お前の意見に感謝はしても、余計な事だとは露ほども思ってはいない」

 主の言葉にホッと息を吐く従者を確認し、セレンは笑って今度はフリッツに顔を向けた。

「フリッツはどう思う? 教育者の立場から、忌憚ない考えを教えてくれ」
「私ですか? 私は頭の固い方ですから、もう少し厳かに行われて欲しいと思います」
「そうか」

 らしいフリッツの意見に、セレンは軽く笑って頷いた。

「ですが、……領民たちの活気あふれる姿を見ておりますと、あれはあれで良いのかもしれないと思うようにもなりました。……あえて言わせていただけるのでありましたら、競争意識を煽るだけの教育方法には限界があると思っております。我々現場の者たちがもっと努力しなければいけませんし、またそう出来る環境を整えるために支援もしていただきたいと思っています」

「そうか……、そうだな。こういう事は机上で考える事よりも、現場の経験を活かした知恵を基に改良していくことの方が大事かもしれん」

 そう言った後、セレンは腕を組み感慨深い表情になった。

「ここまで来たんだな。やっと」
「……はい」

「その時その時で試行錯誤しながら頑張ってきたが、……そろそろ、私が主導しなくても現場の考えを優先してもいいところまで来ている。そうだろ? フリッツ」

「はい、左様に存じます」

 仰々しく返事をするフリッツに苦笑しながらも、セレンの顔つきはどこかホッとしたようなものであった。
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