あなただったら、いいなあ

らいち

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あんた、誰!

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「桃子、バイバイ」
「バイバイ美希、明日ね!」

 いつもの別れ道で美希と別れ、一人での帰宅。しばらく歩いていると、久し振りにひたひたとつけてくる足音に、桃子は気がついた。

 来た!

 桃子の胸の中は歓喜で打ち震えた。久し振りにゾクゾクと、悪寒に似た甘い痺れが背中を駆け上がる。

 桃子はその場で躍り出したくなるような気持ちを必死でこらえ、素知らぬ顔でアパートに戻った。階段を昇り、カギを開け部屋に入る。扉を閉めようとしたその瞬間、背後からいきなり羽交い絞めにされた。

 ふわわ、ヤバい。嬉しすぎて変になりそう! やっとよ、やっと私のところまで来てくれた! 

 興奮して呼吸が早まる。頭もくらくらし始めた。
 桃子は興奮のあまり、彼女自身を羽交い絞めにしているその腕に触れようと手を伸ばし、違和感を覚えた。

 ふっと! えっ? なに、この太すぎる腕! しかも顔近すぎない?

 桃子の頭が急激に冷えた。足元を確認してみると、案の定あの白地に赤いラインのスニーカーじゃなかった。

 違う、これ健司じゃないよ。健司かもしれないあの人も、もっと背が高い! こんなに太くない!

 甘く恍惚とした気分は一挙に気持ち悪さに打って変わった。桃子は思いっきり片足を上げ、靴を履いたままその男の足を思いっきり踏んづけた。男は呻きと共に一瞬腕を緩めたが、あまり効かなかったのかすぐにまた桃子を締めつける。

「痛いだろう! なにしやがる!」
「いきなり襲い掛かったくせに、なに言ってんのよ! 放してったら!」
「誘ったのは、お前だろう!」
「はあっ?」

「覚えてないなんて言わせないぞ! わざと胸元見せたり俺のことじっと意味ありげに見つめたりしてたじゃないか!」

「そんなのあんたにするわけない……きゃあっ!」

 羽交い絞めにしていた男はその腕を緩め、今度は壁に桃子を押し付け顔を近づけた。力ずくで抑え付けられた腕が痛いし、太った丸い顔は、ちっとも好みじゃなかった。

「してただろう、してただろ、してただろう!」
「嫌だ、あんたなんか知らない! ……っ、痛い、痛っ、痛い痛い! いやあぁぁ!」
「黙れ、うるさい!」
「嫌だ、嫌っ! ヤダァァ!」

 桃子は必死で抵抗した。蹴飛ばしたり抓ったり、だけどこの巨漢にはそれほど効いてる風もない。

「うるせえ!」

 掴まれていた両腕を持ち上げられ叩きつけられて、桃子の顔が歪む。不意に嫌悪で汗ばんだ顔に、突然涼しい風があたり光もあたった。

 えっ? と思った瞬間、「手を離せ!」と耳元で怒号が響いた。そしてガスッという鈍い音。

 驚きで身をすくめた桃子の身体は、熱くて力強い腕に抱きしめられていた。

 えっ? 今度は誰?
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