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魔人反省

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「どうしたんだよ、メメ」
「私は……」

 ゴクリ、と生唾を飲みこみ、ふぅーと息を吐き、もう一度真っすぐ見つめてくる。
 覚悟を決め、ゆっくりと俺に歩み寄ると、メメは思いっきり俺の頬を平手で叩いた。
 パシィィンッ!! 痛快な音。
 35の攻撃が93の肉体に刺さる。HPはほぼ減ってはいない……けど、数値以上にダメージを受けた。

「え、どうして……メメ?」

 唐突な一撃に動揺を隠しきれない俺。
 メメは俯いたまま、言葉を発することはない。かと思ったら、そのまま俺に抱き着いてきた。

「ぅおっ!」
「すっごく、心配した、すっごく、心配した」
「……少ししか、話す時間なかったもんな」
「現実に戻ったら、どうせあのクソ雌が邪魔になるから」

 そう言えば、作戦が成功した暁にはご褒美を上げる約束をしていたな。
 正直かなり満足したし、聖女の相手はめんどくさい、かも。
 でも、あの様子だと誤魔化せそうに、彼女も命張ってくれたんだ。
 ご褒美はやらないといけない。その前に、目の前の少女に謝らないと。

「改めてごめん、無茶しすぎた。でも、分かって欲しい、あの場はああするしかなかったんだ」
「でも、仮に作戦が敵にバレてしまった場合のことも、ケイオスは考えてましたよね?」
「ぅっ……ま、まぁ、それは……そう、だけど」

 最悪の展開を考えていなかったわけではない。
 じゃなきゃカタリナを能力が使える状態にしていなかったし、メメの能力だって──

「どうして、私には何も教えなかったの?」
「……いや、あれはその場の思いつきで何とかなっただけで、バレたら後は気合かと……」
「嘘」
「ホントだって! がむしゃらだったんだ、俺も」
「……」

 抱き着いたまま上目遣いで俺を見つめる。
 そして、納得したようにまたお腹に顔を埋めた。
 感情を読み取って、嘘ではないと分かってくれたみたいだ。

「かなりギリギリのところで俺達は戦ってる。だから、ダメだった時はそれまで……ただ、最後まで抵抗はしようと思ってた」
「でも、私は……ケイオスがいなくなるんじゃないかと……」

 俺がいなくなったら、また一人になってしまう。
 自分の復讐が達成できなくなるのは困る、ということか。

「大丈夫、俺はメメの目的を忘れたわけじゃ──」
「俺がいなくなったらまた一人になって、私が目的を達成できなくなるのが困るって、思ってるでしょ?」
「──ッ、おまっ!? それ、新しい能力??」
「違う、大体分かるよ、そういう人だってことは……」
「メメ……」

 抱きしめて来る力が強くなった。
 彼女は何度も「私は……」と繰り返した後、服に声を擦り付けながら言う。

「私は……ケイオスがいなくなるのはヤダ」
「あぁ、俺は死ぬまでメメの共犯者だよ」
「違うの!」
「っ、違う?」
「あの時、初めて分かったの。ケイオスが死んじゃう事は、自分が死ぬよりも嫌な事だって」
「────ッ!? それって、お前……」

 あぁ、なるほど。彼女の過去を想像すれば、当たり前のことだった。
 今までの人生で、メメは……愛という感情に疎い。

「だから、いなくならないで。相談して……お願い」

 勘違いしていた。俺は、大きな勘違いを。
 多分、人間としてではなく、魔族としての彼女ばかり見ていたのかも。
 メメはまだ少女だ。過酷な人生を歩んできたとは言え、紛れもない事実。

「メメ、分かった。神様に……いや、メメに誓って勝手な事はしない、約束する」
「約束、だよ」

 身体を抱きしめ返すと、景色が闇から光へと染まった。
 この空間は彼女の感情を表していたのだろうか。

 もしかしたら、メメはまだ普通の人間に戻れるのかもしれない。
 奴隷であったことを隠して生きていたカーラのように、メメもまた半魔であることを隠して生きていけるのかも。
 人間や魔族に対する復讐心ももちろんあるだろうが、それ以上に等身大の少女としての幸福を経験する必要があるのだろう。
 俺ができることは、彼女の復讐の手伝いではなく、幸せを教えること……だったら、俺は……メメを利用しているだけ、なのか?

「ふぅ、戻りましょう。ケイオス様」
「あっ、あぁ……そう、だな」

 もう一度、指を鳴らすと意識は現世へと戻っていく。
 久しぶりに戻ってくると、辺りは真っ暗でカタリナが周りを警戒しながら俺達を待っていた。

「お、終わり……ましたか!?」
「あぁ、無事にな。カーラも色々と抱えてるもんがあったみたいで、そこに上手く付け入れた」
「そうですよね、私も昔は……そう、あれは幼いこ──」
「カタリナはとりあえず、カーラを連れて帰ってくれ。早くしないとアルフレドに勘付かれる」
「ええ!? ちょっと、約束はどうなるんですか!?」
「また次の機会にってやつだ」

 それに、今はエロい気分にもなれそうにない。
 カタリナは頬を膨らませた後、溜息を吐き細長い目でこっちを見た。

「んもぉ~……分かりましたよ……絶対、ですからね」
「あぁ、分かってるさ。メメ、帰るぞ」
「はい、承知しました」

 こうして長い、長い一夜は俺達の勝利で終わった。
 と、思っていた。
 もし、この時に崖の上にいたであろう『彼女』の視線に気が付いていれば、あんな悲劇は起こらなかっただろう。
 いや、周囲を警戒していても、俺はメメに対して複雑な感情を抱いていた。
 どうあがいたとして、運命には逆らえなかったのかもしれない。
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