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半魔死亡
しおりを挟むドクンと心臓が跳ね、脈拍が一気に早くなる。
カタリナとカーラはライからの手紙と知り、同じように表情をこわばらせた。
「ライロットって、どうして!?」
「わわわ、私達が……ここに来てるって、バレてる!?」
「そう考えて間違いないだろうな」
「けど、直接言ってこない理由って。彼女なら、こんな回りくどい真似しないと思うけど」
ライはパーティーの司令塔。
俺の分析情報をまとめ、各員の力を考慮し、作戦を勇者に提案する係。
その他にもギルドとの関係を維持したり、資金の工面をしたり。
裏でパーティーを操っているのは彼女だと言っても過言ではない。
「お、終わりですぅ……ライロットさんに知られてしまったら、もう終わりです」
「ご主人様、手紙の内容は?」
とにかく、中身を見て見ないと話は始まらない。
鼓動を抑えながら、なるべく頭を冷やした状態を維持し手紙を開いた。
そこには、こう記されている。
============
こんにちは、ケイオス。
硬い挨拶は無しにして、今は要件だけを簡単に伝えるわね。
貴方の動向は、全て把握しています。
カタリナ・カルロッテ、カーラ・レンドルチを仲間に引き入れましたね。
目的としては『復讐』でしょうか?
無能だった貴方が、ここまでやる男だったなんて大変驚いてます。
ですが、快進撃も今日限りです。
転移魔法の行先を特定し、今頃は貴方達の住処を特定したところでしょう。
どのくらいの距離かまだ不明ですが、そちらのレックさんとカットルさんを送ります。
勿論、標的は貴方、それと裏切り者の二人です。
分かっていますよね、彼女達の力は。
正面から戦っても、勝てる相手ではない、ということが。
けど、絶望はしないで下さい。
これはあくまでも、私から与えた試練です。
この猛攻を、乗り越えて見せて下さい。
アルフレド様はまだ、二人の裏切りに関し存じておりません。
知っているのは私だけ。
レックさんとカットルさんにも、二人は洗脳されている、と伝えてあります。
単細胞な彼女達なら、信じていることでしょう。
ただ、おめおめと帰ってくるようであれば貴方を殺した後、私が正式に処分します。
もし、私の試練を乗り越えることができればアルフレド様には今件に関し、私は黙秘を誓いましょう。
どうですか? 貴方にとっては一番未知の存在である私の黙秘。
これから起きる危機と釣り合った報酬だと思いますが。
まぁ、どの道レックさんとカットルさんも、仲間に引き入れる気だったのでしょう?
しかし、今の戦力ではどう考えても切り口が見つからない。
だから進まず、引かず、中途半端に生きているのですよね?
馬鹿が、だからお前は無能だと呼ばれていると何故わからない。
復讐がしたいのだろう? なら、全てを犠牲にしてでも行動するべきだ。
私は、お前にきっかけを与えただけに過ぎない。寧ろ、感謝してほしいくらいだ。
さて、ここまで読んで疑問に思ったことだろう。
私の目的は一体なんだ、と。
それは……おまけだ、試練を乗り越えた時に一緒に教えてやろう。
期待している。
==============
「なんだ、これ……」
一瞬思考が完全に停止してしまう。
人は、あまりにも絶望的状況に追い込まれると言葉を失うのだ。
更に手紙には俺の思考を的確に把握した一文が。
掌握されている、ライに、思考も、行動も、全てが。
「ケイオスさん!」
「っ、悪い、ぼうっとしてた」
「ご主人様、申し訳ありません……まさか、ライロットさんに気が付かれていたとは……」
「いや、カーラのせいじゃない。多分、もっと前から知っていたのだろう」
「一体いつから……」
「多分、カタリナがカーラを騙して渓谷に連れて行った時。やや強引な作戦だったからな」
カタリナの時に知っていれば、その時にライは行動しているだろう。
メメの能力、淫夢と変身もバレていると考えなければ。
こちらの手札が完全に把握された状態で、レック、カットルの相手をする。
絶望、という言葉が脳に刻まれ消すことができない。
思考に釘が刺されたように、回らない。
「ケイオス、とにかく準備をしましょう……!」
俺達の顔色で察したメメが、背中をバンっと叩いた。
そうだ、俺は彼女を守るために行動しなければ────
そして、現在に至る。
☆☆☆
「オラぁッ!!」
「ぐッ──ぉぉお!!」
全てを破壊しつくし、遂に大広間への侵入を許してしまう。
土煙の中から最初に姿を現したのは、真っ赤な短髪をした灼眼の少女、レックであった。
「この程度の妨害で、私が止められると思ったか?」
不敵な笑みを浮かべながら、拳をこちらに向かって突き出してくる。
彼女の能力『破壊拳』は、その名の通り触れた物全てを破壊する不条理の拳。
例え、障害物が鋼鉄であったとしても難なく乗り越えてきただろう。
そして、その後ろから姿を見せたのは真っ青な短髪をした蒼眼の少女、カットル。
「ホント、僕たちの力を舐めないでもらえる?」
無表情のまま、右手に持った剣の剣先をこちらに向ける。
彼女の能力『剣の理』は、相手の急所に対し的確に攻撃を行うことができる理想の剣。
ただ、能力というのはあくまでも利便上のものであり、彼女の場合は単純に剣の道を究めた境地である。
「来たか、レック、カットル」
「久しぶりだね、雑魚ケイオス。二人の洗脳を解いて、大人しくこっちに渡しな」
「昔の仲間に手を掛けるなんて、どこまで落ちぶれればいいの、アンタは」
チラリと後ろを向くと、カタリナとカーラが無言で頷いた。
ここで捕まれば全員終了と把握している。
戦いを掌握しているのは目の前の二人ではなく、姿の見えない賢者。
俺達は彼女の遊び心で動かされているコマでしか過ぎないのだ。
「二人とも聞いてくれ、俺は──」
「アンタの命乞いなんて、聞きたくないね。さっさと死ねッ!!」
ゴォンッ!!
人が地面を蹴っただけで、こんな音が鳴るだろうか。
一瞬にしてレックの姿は消え、次に視界に入った時には俺の懐へ潜り込んでいた。
「やばッ!」
「はい、これで、ソッコー終了ぉっ!!」
胴体の下に握り拳が見え、掬い上げるように顔面に向かって迫ってくる。
は? 迫ってくるって、俺……見えているのか!?
「な、何ぃ!?」
ブオンッ、強烈な拳風が頬を掠め、切れた肌からは血が流れ落ちる。
驚きの表情を見せるレックであったが、驚いたのは俺の方だ。
見えた、服の上からでもはっきり。
攻撃自体が見えたわけじゃない、彼女が『どこをどう』攻撃しようとするかだ。
身体運び、筋肉の動き、言葉、匂い、全ての要素から予測ができた。
「この、往生際がぁ、悪いぞ!」
「ぐっ、っと、ぅ……くッ、おぉ!!」
足蹴り、掌底、回し蹴り。全ての攻撃をギリギリで躱すことができる。
俺のステータスは変わっていない、だけど何故、こんな力が。
メメのように精力を吸収することで能力が覚醒……なんてことはありえない。
彼女は子供、俺は大人、急激に変化があるような伸び代はないのだから。
理由はともあれ、ラッキーだ、が……
「なにやってんの、レック。僕が必要?」
「な、助けは必要ない! ケイオスごとき、私一人で余裕だっての!」
敵はもう一人いる、剣士カットル。
彼女と同時に襲われたら、今の力があっても積みだ。
それに、レックの攻撃だって避け切れているわけではない。
「オラッ! オラッ! オラぁッ!!!」
普通の攻撃なら問題なのだろうが、敵はあのレックだ。
拳の圧だけで服は裂け、鮮血が周囲に飛び散る。
「いつまで遊んでいるのやら、ところでその魔法陣、さては転移魔法だね?」
更にカットルはカーラに視線を向け、俺達の作戦に気が付いたようだ。
カタリナは「ハッ」とし、カーラを守る様にして両腕をカットルの前に立ち塞がる。
「こ、ここは……通しません、よ!」
「カタリナ、僕は君を傷つけたくないんだ。大人しく言うことを聞いてくれるよね?」
「だ、だ、ダメ、です! 二人とも、一旦落ち着いて、私達の話を……聞いてください!」
「はぁ、本当に洗脳されちゃってるんだ。ケイオスの話なんて、聞くわけないでしょ」
「話し合いは……できませんか」
「そこまであの男の事を。相当洗脳は深いようだね、だったら──」
カタリナに向けられた剣先が、俺の方を向く。
尖端から殺気が伝わり、心臓に刺さった。
「レック、時間が無いみたいだし、もう終わらせるよ」
ゆっくりと左足が引いていき、体重が下に落ちる。
次の攻撃先がどこかはっきりと分かった。
血の気が引く。死の一撃がくると予測される。
しかし、レックの攻撃も避け続けなければ一発直撃しただけで死ぬ。
二人の攻撃を同時に避ける余力何てない。
「マズ──」
まるで弓で矢を射る時のように、剣を胴体の後ろまで引く。
足蹴りと同時に前方へと突き出し加速。閃光の一突きが放たれた。
──ズシャ。
刹那、剣が服もろとも胴体を貫く。
身体中に血液が付着し、視界が真っ赤に染まった。
素人が見ても致命傷だと判断できるほどの血量。
そして、この血は──俺の血じゃない。
「が……ふッ、大丈夫、ケイ……オス」
小さな身体を挺し、俺を守ったのはメメだった。
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