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第四章
第二十一話
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恐らくは、彼女達の中でもリーダーを務めているであろうピンク色の髪の毛をした女性が話しかけてくる。
「お話はお伺いさせて頂きました。盗み聞きになってしまい、申し訳ございません」
「いや、いいんだ。こちらこそ、皆さんにお礼を言うのが遅れてしまって……ありがとうございました」
俺が素直に頭を下げ感謝の言葉を述べると、皆驚いたように口を開いた。
そして、小さな声で「やっぱり違う……」と呟く。
一体どうしたのだろう。宿代の払い忘れとかあったっけな?
「すみません。何か悪いことしましたか、俺。皆さまお揃いで」
「あ、いえ! 誤解させてしまったようで……あの、もし宜しければ、シルクちゃんの面倒を私達に任せていただけないでしょうか?」
「──ぇッ!?」
思わぬ提案に驚き、仰け反った。
シルクの面倒を見てくれるなんて、これほど有難い話はない。が、しかし……。
「……お願いしたいのは山々だが、君達も奴隷だろう? 女の子一人養うのは苦労する筈だ。それに、今の俺の金を全て置いて行っても、帰るまでに底が尽きるかもしれない」
「勿論、仕事はしてもらいます。しかし、あくまでもお客様の奴隷ですので、接待はさせません。なので、私達のお願いを一つ聞いてもらえませんか?」
「お願い……?」
「お客様が国を、世界を変えた日には、私達をお客様の奴隷にして欲しいのです」
「──はッ!?」
次は椅子が引くほど仰け反った。
ここにいる全員、俺の、奴隷に!?
「なんで!?」
「やはり、気は進みませんよね。私たちのような奴隷では……」
「ワシのようなババアもおるでな」
「ち、違う! そうではなくて、どうして俺の奴隷になりたいって思ったんですか!?」
別に、何かいい事をしたわけじゃない。
むしろ、宿を拠点にエルフを閉じ込めたり、調教したり……迷惑しか掛けてないのに。
「俺が帰ってくる保証もないんですよ!? シルクを置いて逃げるかもしれないのに」
「片腕を犠牲にしてまで奴隷を守る男の人が、シルクちゃんを置き去りにするとは到底思えませんが?」
「ぅ……しかし、その程度のことで信用されてもな……」
「その程度などではありません!!」
「うぉ!?」
ピンク髪の女性はバンッと目の前の机を叩くと、噛み付くように言う。
「私たちは産まれて初めて心を動かされたのです! 男の為に尽くすことが普通だったのに、お客様という個人に尽くすことを、願いが生まれてしまった」
「……シルクと同じ、感情の覚醒……」
ようやくと理解した。
シンパシー……共感と呼ばれる現象。
皆、感情を持ち合わせていなかったから、俺とシルクを見て人間らしさを取り戻したのか。
あの時、アヴダールに来て初めて見た愛玩女の視線も多分……そうか、クク、そうかそうか。
「皆、俺の奴隷になりたいんだな……?」
「はい。そしていつか、お客様の望まれる世界を共に見たい。私たちは願っています」
ここまで期待されては、断るわけにもいくまい。見せてやるよ、俺の世界を。
「わかった! なら、皆にシルクの事は任せる。よろしくお願いします! それと、シルク」
「はい、イットー様」
「必ず強くなって戻ってくる。だから──」
「待ちます。私、いい子にして待ってます。いつまでも、貴方の一番の奴隷として」
「あぁ、約束だ」
シルクと指を切り、誓いを交わした。
彼女の為に、そして、この国にいる全ての奴隷を我が物にする為に。
誰も敵わない程強くなり、戻ってくる。
絶対に、と決意を硬めた。
こうして、俺とネイシア、シリウスはエルフの森へと向かうことになった。
エルフの姉妹は先にネイシアが作った裏ルートを通り城壁の外へ。
俺は正ルートの城門へと向かい正式に国の外へと出る手続きを済ませた。
見送りに来れたのはシルクだけであったが、それでも十分、十二分。
「イットー様……」
瞳に涙を溜めながら、別れを惜しむシルクの身体を抱きしめ、ほっぺたにキスをする。
「シルク、これが最後じゃない。始まりだ、だから泣くな」
「……はい! 泣きません、泣きません……」
「うん、偉いぞ」
暫く会えないのは、俺も寂しい。
だから存分に頭をわしゃわしゃと撫でておいた。さて……そろそろか。
「じゃあ行ってくるわ。皆によろしく伝えておいてくれ」
「いってらっしゃいませ、イットー様」
別れの言葉を告げた後、彼女は珍しく神に祈るように手を重ねこう言った。
「貴方に、フレア様の御加護があらんことを」
誰かは知らないが、きっと彼女達にとって神様のような存在なのだろう。
俺は親指を立て、彼女の言葉に返事をし、背中を見せ、振り向くことなく城門を超えた。
──待ってろシルク、俺はやるぞ。
♢♢♢
城壁が見えなくなった頃、白黒の影が見え駆け寄った。
「ごめん、待たせた」
「いえ、大丈夫です。無事に国を出れましたね」
「ぅぅ……シルク様ぁ!」
俺と同じくらい嘆いているシリウスの横で、キリッと目を鋭くしたまま周囲を見渡すネイシア。
「追手は無いようですね」
「国に来た時から思ってはいたが、ザルみてーな警備だからな」
「でしたね……私たちも、楽々出ることができました。脱走したばかりなので、厳しくなっているかと思ってましたが……」
「支配者の余裕か。ま、今に見てろってやつだな」
気合い充分。今の俺ならどんな困難だって乗り越えてみせる。
感情を滾らせながら彼女たちと共に、数日間歩きエルフ森近辺まで辿り着いた時、ふっと国を出る直前の事を思い出した。
「なぁ、ネイシア」
「はい? なんでしょうかご主人様」
「お前たちエルフでも、フレアってのは神様みてーな存在なのか」
「──ッ!?」
フレアという単語を聞いた瞬間、彼女の方がビクッと跳ねる。
「どこで……その名を?」
「え? 俺が旅立つ前、シルクが言ったんだ。『フレア様の御加護があらんことを』って」
「……あれだけ情報規制されているのに、どうしてフレア様を……」
顎に手を当てジッと考え込み始める。
そんなに重要な名前だったのか……?
旅立つ前にちゃんと聞いておけばよかった。
「なぁ、誰なんだよ、フレアって。俺にも分かるように説明してくれ」
「あ、失礼しました。フレア様、多分シルクさんが呟かれた名は、フレア・マナ・アース……彼女は──」
生唾を飲み込み、ネイシアはゆっくりと口を開いた。
「勇者様です」
言わずとも、その意味はハッキリと理解した。
「お話はお伺いさせて頂きました。盗み聞きになってしまい、申し訳ございません」
「いや、いいんだ。こちらこそ、皆さんにお礼を言うのが遅れてしまって……ありがとうございました」
俺が素直に頭を下げ感謝の言葉を述べると、皆驚いたように口を開いた。
そして、小さな声で「やっぱり違う……」と呟く。
一体どうしたのだろう。宿代の払い忘れとかあったっけな?
「すみません。何か悪いことしましたか、俺。皆さまお揃いで」
「あ、いえ! 誤解させてしまったようで……あの、もし宜しければ、シルクちゃんの面倒を私達に任せていただけないでしょうか?」
「──ぇッ!?」
思わぬ提案に驚き、仰け反った。
シルクの面倒を見てくれるなんて、これほど有難い話はない。が、しかし……。
「……お願いしたいのは山々だが、君達も奴隷だろう? 女の子一人養うのは苦労する筈だ。それに、今の俺の金を全て置いて行っても、帰るまでに底が尽きるかもしれない」
「勿論、仕事はしてもらいます。しかし、あくまでもお客様の奴隷ですので、接待はさせません。なので、私達のお願いを一つ聞いてもらえませんか?」
「お願い……?」
「お客様が国を、世界を変えた日には、私達をお客様の奴隷にして欲しいのです」
「──はッ!?」
次は椅子が引くほど仰け反った。
ここにいる全員、俺の、奴隷に!?
「なんで!?」
「やはり、気は進みませんよね。私たちのような奴隷では……」
「ワシのようなババアもおるでな」
「ち、違う! そうではなくて、どうして俺の奴隷になりたいって思ったんですか!?」
別に、何かいい事をしたわけじゃない。
むしろ、宿を拠点にエルフを閉じ込めたり、調教したり……迷惑しか掛けてないのに。
「俺が帰ってくる保証もないんですよ!? シルクを置いて逃げるかもしれないのに」
「片腕を犠牲にしてまで奴隷を守る男の人が、シルクちゃんを置き去りにするとは到底思えませんが?」
「ぅ……しかし、その程度のことで信用されてもな……」
「その程度などではありません!!」
「うぉ!?」
ピンク髪の女性はバンッと目の前の机を叩くと、噛み付くように言う。
「私たちは産まれて初めて心を動かされたのです! 男の為に尽くすことが普通だったのに、お客様という個人に尽くすことを、願いが生まれてしまった」
「……シルクと同じ、感情の覚醒……」
ようやくと理解した。
シンパシー……共感と呼ばれる現象。
皆、感情を持ち合わせていなかったから、俺とシルクを見て人間らしさを取り戻したのか。
あの時、アヴダールに来て初めて見た愛玩女の視線も多分……そうか、クク、そうかそうか。
「皆、俺の奴隷になりたいんだな……?」
「はい。そしていつか、お客様の望まれる世界を共に見たい。私たちは願っています」
ここまで期待されては、断るわけにもいくまい。見せてやるよ、俺の世界を。
「わかった! なら、皆にシルクの事は任せる。よろしくお願いします! それと、シルク」
「はい、イットー様」
「必ず強くなって戻ってくる。だから──」
「待ちます。私、いい子にして待ってます。いつまでも、貴方の一番の奴隷として」
「あぁ、約束だ」
シルクと指を切り、誓いを交わした。
彼女の為に、そして、この国にいる全ての奴隷を我が物にする為に。
誰も敵わない程強くなり、戻ってくる。
絶対に、と決意を硬めた。
こうして、俺とネイシア、シリウスはエルフの森へと向かうことになった。
エルフの姉妹は先にネイシアが作った裏ルートを通り城壁の外へ。
俺は正ルートの城門へと向かい正式に国の外へと出る手続きを済ませた。
見送りに来れたのはシルクだけであったが、それでも十分、十二分。
「イットー様……」
瞳に涙を溜めながら、別れを惜しむシルクの身体を抱きしめ、ほっぺたにキスをする。
「シルク、これが最後じゃない。始まりだ、だから泣くな」
「……はい! 泣きません、泣きません……」
「うん、偉いぞ」
暫く会えないのは、俺も寂しい。
だから存分に頭をわしゃわしゃと撫でておいた。さて……そろそろか。
「じゃあ行ってくるわ。皆によろしく伝えておいてくれ」
「いってらっしゃいませ、イットー様」
別れの言葉を告げた後、彼女は珍しく神に祈るように手を重ねこう言った。
「貴方に、フレア様の御加護があらんことを」
誰かは知らないが、きっと彼女達にとって神様のような存在なのだろう。
俺は親指を立て、彼女の言葉に返事をし、背中を見せ、振り向くことなく城門を超えた。
──待ってろシルク、俺はやるぞ。
♢♢♢
城壁が見えなくなった頃、白黒の影が見え駆け寄った。
「ごめん、待たせた」
「いえ、大丈夫です。無事に国を出れましたね」
「ぅぅ……シルク様ぁ!」
俺と同じくらい嘆いているシリウスの横で、キリッと目を鋭くしたまま周囲を見渡すネイシア。
「追手は無いようですね」
「国に来た時から思ってはいたが、ザルみてーな警備だからな」
「でしたね……私たちも、楽々出ることができました。脱走したばかりなので、厳しくなっているかと思ってましたが……」
「支配者の余裕か。ま、今に見てろってやつだな」
気合い充分。今の俺ならどんな困難だって乗り越えてみせる。
感情を滾らせながら彼女たちと共に、数日間歩きエルフ森近辺まで辿り着いた時、ふっと国を出る直前の事を思い出した。
「なぁ、ネイシア」
「はい? なんでしょうかご主人様」
「お前たちエルフでも、フレアってのは神様みてーな存在なのか」
「──ッ!?」
フレアという単語を聞いた瞬間、彼女の方がビクッと跳ねる。
「どこで……その名を?」
「え? 俺が旅立つ前、シルクが言ったんだ。『フレア様の御加護があらんことを』って」
「……あれだけ情報規制されているのに、どうしてフレア様を……」
顎に手を当てジッと考え込み始める。
そんなに重要な名前だったのか……?
旅立つ前にちゃんと聞いておけばよかった。
「なぁ、誰なんだよ、フレアって。俺にも分かるように説明してくれ」
「あ、失礼しました。フレア様、多分シルクさんが呟かれた名は、フレア・マナ・アース……彼女は──」
生唾を飲み込み、ネイシアはゆっくりと口を開いた。
「勇者様です」
言わずとも、その意味はハッキリと理解した。
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