7 / 27
6
しおりを挟む
その通りだ。というか、当然だろう。
……とは口が裂けても言えない気迫がイラにはあった。
だが、直ぐにゆるんだ表情に戻り同じようにため息を吐くと言う。
「手騎はまだ若い……そう思うのも仕方があるまいか……」
「若さは関係あるのか?」
「あぁ、そのうち織姫の気持ちもわかる日が来る。それは大人になってからじゃ」
「大人……俺はもう17だぜ?」
「妾からすればまだまだ小童よ。……っと、話が少し逸れたが理解はできたかの?」
「大体な。とにかくその織姫って奴をぶっ倒せば俺の世界からポニーテールは消えないんだな」
単純かつ明確な答えだろ。
悪の親玉がいて、正義のヒーローがいる。勧善懲悪、悪を滅ぼせば世界には平和が訪れるってもんだ。
「そうじゃな。しかし、そう簡単に倒せる相手では無いが……」
「イラの力があっても無理なのか?」
「はっきり言おう、無理じゃな」
「な……!?」
「そもそも妾も逃げて来た身、一度その圧倒的な力に敗北しておる」
そうか、普通に考えればわざわざ向こうの世界で起こった事件をアマノガワで解決する必要も無いもんな……じゃあ、どうやって倒せばいいんだよ……。
「そんな不安そうな顔をするでない」
俯く俺の顎をクイっと片手で持ち上げると、真っ赤な瞳で俺の瞳を見つめた。そこには失念した感情は無く、むしろ希望に満ち溢れているように見えた。
「手騎よ、主がこの戦……尻尾聖戦《テール・ラグナロク》の鍵となる」
「……俺が?」
ちょっと待ってくれ、俺は只のポニーテール大好きマンだぞ。スーパーマンのような力も無ければ、知能も無い……平凡な高校生だ。
そんな自分を戦いの鍵だと言われてもパッとしない。
「勘違いしているかも知れぬが、契約を結んだのはアマノガワで力の調節が上手くいかぬからでは無い。もう一つ理由がある」
「理由……なるほど、俺って結構2枚目だから……」
「断じて否、真面目にせい」
「……すいません」
ふざけてるような話なのに、こっちのおふざけは許されないのか……ぐぬぬ。
「妾が主を手騎に選んだ理由……それは真っ直ぐだからじゃ」
「真っ直ぐ? 素直ってことか?」
「悪く言えば馬鹿正直というやつじゃな」
「……それ、褒めてる? 貶してる?」
「普通はな、無力な者よ。手騎のような人種はやる事、やりたい事をわかっていながら行動に移せぬ者が多い……そんな中、ポニーテールを助けたいという一心だけで縫合獣に向かっていったのじゃ。誇って良いと思うぞ」
……そうか? いや、普通というのならポニテ美女じゃなくても人が困っていれば助けるのが当然だろうに。
「妾は個人的に主の手騎の事が好きじゃ。契約は只の補助では無い、2人の思いが重なれば……どんな困難だって乗り越えられる。だから今後もよろしく頼むぞ、赤芽《あかめ》 竜馬《りょうま》」
「あ、ぁあ!」
よくわからないまま頼まれたが、この世界からポニーテールを消し去るだなんて俺は許せない。
だから協力してやるよ……その織姫とかいうアホをぶっ飛ばす為にな。
「妥当織姫ッ! 勝鬨を上げよ! エイエイオー!」
「え、エイエイオー!」
「声が小さい! エイエイオー!!」
「エイエイオー!!!!」
こうして俺はイラと共に尻尾聖戦で戦う事を決意したのだ。
☆
————そしてあれよあれよと連戦連勝……というわけで。
気が付けば討伐した縫合獣の数は6対、最近になって出現頻度が高くなっている気がする。
流石の俺も3連戦は厳しいものがあった。
「……ねぇ、ちょっとまって」
「ん? どうした靡?」
「竜馬ってクオーターとかだったの?」
「ぬッぇ!? 何でだ!?」
「だって、親戚の子供が外国の子って事は……竜馬にもその血が流れてるんでしょ?」
「————ッた、たしかに!」
言われてみればそうだ。言い訳としては適当すぎた……か?
いっそ「やっぱ日本人だった!」とテヘペロしてみるか……いや、イラの顔付きはどう見ても日本人離れしている。
どうする……いや、ダメだ。この朦朧とした意識の中では思考の回転率が錆びた歯車のように上手く上がらない。
こうなったら、敢えて思考を放棄し直感で答えるしかあるまいに!
「竜馬?」
「……複雑な家庭なんだ……俺……」
「私達、家族ぐるみの付き合いなんだし家庭環境は知ってるつもりだったけど」
「………………あ!!!! 猫! 可愛い子猫だ!!」
「え!? どこどこ!?」
俺が指を向けた先には何も無い。しかし、女の子というのは可愛い生き物の名前を叫び指を刺すと視線が誘導されるのが道理だ。
彼女は今、必死になって幻想の子猫を探している。そして、学校までの距離およそ100メートル。行けるか……?
「猫なんてどこにもいないじゃない」
「おかしいな……さっき一瞬見えたんだけどな~ハッハハ」
「……話そらそうとしてない?」
靡のジト目が刺さる。下から持ち上げるようにグッと視線を上げ、逃げ場の無いように固定された。ま、まだだ! まだ終わらんよ!
「そういえばさ、俺……ムーンウォーク習得したんだよね」
「ちょっと、だから話を————」
「ほら見ろよ。完璧だろ? しゅー」
勿論、習得などしていない。ぶっつけ本番だ。
俺は全力で通学路をムーンウォークで駆けた。もうやぶれかぶれだ。
「くっ……ハハハ! 全然できてないじゃん!」
よし、靡は笑っている。いい感じ。
「ほぉ~ら、置いて行っちゃうぞ~」
「ハハハ、ちょ、待ってよぉ~」
そのまま教室に入るまで出来損ないのムーンウォークで移動し話を逸らし続けた。
何とかイラの事についてこれ以上詮索される事は無くなった……全校生徒に見られた事により、俺のあだ名が1年間もマイケルになってしまう事を代償として。
こんな調子で大丈夫なのだろうか? という不安と共に教室には教師が現れ、朝のHRを始めるのであった。
……とは口が裂けても言えない気迫がイラにはあった。
だが、直ぐにゆるんだ表情に戻り同じようにため息を吐くと言う。
「手騎はまだ若い……そう思うのも仕方があるまいか……」
「若さは関係あるのか?」
「あぁ、そのうち織姫の気持ちもわかる日が来る。それは大人になってからじゃ」
「大人……俺はもう17だぜ?」
「妾からすればまだまだ小童よ。……っと、話が少し逸れたが理解はできたかの?」
「大体な。とにかくその織姫って奴をぶっ倒せば俺の世界からポニーテールは消えないんだな」
単純かつ明確な答えだろ。
悪の親玉がいて、正義のヒーローがいる。勧善懲悪、悪を滅ぼせば世界には平和が訪れるってもんだ。
「そうじゃな。しかし、そう簡単に倒せる相手では無いが……」
「イラの力があっても無理なのか?」
「はっきり言おう、無理じゃな」
「な……!?」
「そもそも妾も逃げて来た身、一度その圧倒的な力に敗北しておる」
そうか、普通に考えればわざわざ向こうの世界で起こった事件をアマノガワで解決する必要も無いもんな……じゃあ、どうやって倒せばいいんだよ……。
「そんな不安そうな顔をするでない」
俯く俺の顎をクイっと片手で持ち上げると、真っ赤な瞳で俺の瞳を見つめた。そこには失念した感情は無く、むしろ希望に満ち溢れているように見えた。
「手騎よ、主がこの戦……尻尾聖戦《テール・ラグナロク》の鍵となる」
「……俺が?」
ちょっと待ってくれ、俺は只のポニーテール大好きマンだぞ。スーパーマンのような力も無ければ、知能も無い……平凡な高校生だ。
そんな自分を戦いの鍵だと言われてもパッとしない。
「勘違いしているかも知れぬが、契約を結んだのはアマノガワで力の調節が上手くいかぬからでは無い。もう一つ理由がある」
「理由……なるほど、俺って結構2枚目だから……」
「断じて否、真面目にせい」
「……すいません」
ふざけてるような話なのに、こっちのおふざけは許されないのか……ぐぬぬ。
「妾が主を手騎に選んだ理由……それは真っ直ぐだからじゃ」
「真っ直ぐ? 素直ってことか?」
「悪く言えば馬鹿正直というやつじゃな」
「……それ、褒めてる? 貶してる?」
「普通はな、無力な者よ。手騎のような人種はやる事、やりたい事をわかっていながら行動に移せぬ者が多い……そんな中、ポニーテールを助けたいという一心だけで縫合獣に向かっていったのじゃ。誇って良いと思うぞ」
……そうか? いや、普通というのならポニテ美女じゃなくても人が困っていれば助けるのが当然だろうに。
「妾は個人的に主の手騎の事が好きじゃ。契約は只の補助では無い、2人の思いが重なれば……どんな困難だって乗り越えられる。だから今後もよろしく頼むぞ、赤芽《あかめ》 竜馬《りょうま》」
「あ、ぁあ!」
よくわからないまま頼まれたが、この世界からポニーテールを消し去るだなんて俺は許せない。
だから協力してやるよ……その織姫とかいうアホをぶっ飛ばす為にな。
「妥当織姫ッ! 勝鬨を上げよ! エイエイオー!」
「え、エイエイオー!」
「声が小さい! エイエイオー!!」
「エイエイオー!!!!」
こうして俺はイラと共に尻尾聖戦で戦う事を決意したのだ。
☆
————そしてあれよあれよと連戦連勝……というわけで。
気が付けば討伐した縫合獣の数は6対、最近になって出現頻度が高くなっている気がする。
流石の俺も3連戦は厳しいものがあった。
「……ねぇ、ちょっとまって」
「ん? どうした靡?」
「竜馬ってクオーターとかだったの?」
「ぬッぇ!? 何でだ!?」
「だって、親戚の子供が外国の子って事は……竜馬にもその血が流れてるんでしょ?」
「————ッた、たしかに!」
言われてみればそうだ。言い訳としては適当すぎた……か?
いっそ「やっぱ日本人だった!」とテヘペロしてみるか……いや、イラの顔付きはどう見ても日本人離れしている。
どうする……いや、ダメだ。この朦朧とした意識の中では思考の回転率が錆びた歯車のように上手く上がらない。
こうなったら、敢えて思考を放棄し直感で答えるしかあるまいに!
「竜馬?」
「……複雑な家庭なんだ……俺……」
「私達、家族ぐるみの付き合いなんだし家庭環境は知ってるつもりだったけど」
「………………あ!!!! 猫! 可愛い子猫だ!!」
「え!? どこどこ!?」
俺が指を向けた先には何も無い。しかし、女の子というのは可愛い生き物の名前を叫び指を刺すと視線が誘導されるのが道理だ。
彼女は今、必死になって幻想の子猫を探している。そして、学校までの距離およそ100メートル。行けるか……?
「猫なんてどこにもいないじゃない」
「おかしいな……さっき一瞬見えたんだけどな~ハッハハ」
「……話そらそうとしてない?」
靡のジト目が刺さる。下から持ち上げるようにグッと視線を上げ、逃げ場の無いように固定された。ま、まだだ! まだ終わらんよ!
「そういえばさ、俺……ムーンウォーク習得したんだよね」
「ちょっと、だから話を————」
「ほら見ろよ。完璧だろ? しゅー」
勿論、習得などしていない。ぶっつけ本番だ。
俺は全力で通学路をムーンウォークで駆けた。もうやぶれかぶれだ。
「くっ……ハハハ! 全然できてないじゃん!」
よし、靡は笑っている。いい感じ。
「ほぉ~ら、置いて行っちゃうぞ~」
「ハハハ、ちょ、待ってよぉ~」
そのまま教室に入るまで出来損ないのムーンウォークで移動し話を逸らし続けた。
何とかイラの事についてこれ以上詮索される事は無くなった……全校生徒に見られた事により、俺のあだ名が1年間もマイケルになってしまう事を代償として。
こんな調子で大丈夫なのだろうか? という不安と共に教室には教師が現れ、朝のHRを始めるのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる