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「ッ、ち、違いますわよ!?」
時間差で今、自分がどんな姿をしているのか思い出した。
このままでは俺が女の子に変身して。化け物退治をしているとバレてしまう。必死に彼女の疑いを晴らす為に出た言葉がこれだ。なぜお嬢様口調なのかはさっぱり分からない。
視線が合わないようにする為、背中を向けさっきとは別の視線でケートスを見つめた。だが、靡は一向にポニテを離してはくれず、回り込むように俺の顔に近ずいてきた。
「竜馬でしょ?」
「りょ、竜馬とはだれでござんしょう?」
「さっき私の名前呼んだでしょ?」
「いやいやいや、いや~それは……って、ほら私女の子ですのよ? そんな男っぽい名前なわけ————」
「わかる、私にはしっかりわかる。たとえ、貴方がどんな姿になろうともね」
な、なんだこの自信に満ちあふれた態度は……姿も声も、全くの別人なんだぞ? どうして俺だって事がわかるんだ!?
「早く白状しなさい」
「いや……だから……」
「じゃあ、私ポニーテールやめるから」
「だぁー!!!」
髪留めに手を向ける彼女を俺は本能的に止めた。
「ほら、ね」
しまった。体が勝手に反応してしまった。靡は今までの付き合いでは一度も見せたことのない完璧なるドヤ顔を向けて来ている。確信を得た、といった様子だ。
ここまで俺っぽい事を晒してしまえば、最早隠し通すのは無理だろう。
「……敵わないな、靡には」
「観念したね」
「どうしてわかったんだ……?」
正体がバレてしまった事は仕方がないとして、何故……全く別人の俺を赤芽 竜馬だと判断、断定できたのか聞いておかなければいけない。
それと、もう一つ不思議な事がある。それをイラが気が付かせてくれた。
(……手騎よ、靡は何故正気を失っておらぬ……?)
言われてみれば……確かにこのアマノガワには普通の人間が入ってくる事は出来ない。俺の場合でも初めて入った時以降はイラの力を借りて次元を裂かなければ突入できないのだ。
靡は目の焦点も合っていて、会話も普通にできる。周りを歩いている大勢の女性とは違い、自分の意思でここまで辿り着いたようだ。
疑問は尽きない……しかし、解答は彼女本人にしかわからない。
息を呑み、靡の口から答えが出るのを待った。そして、彼女はあっけからんとこう答えたのだ。
「勘……かな?」
「か、かん?」
「そう、直感で……大きな生き物と戦っているところを遠目から見てなんとなく『竜馬だ』って思えたの」
「凄いな……靡のシックスセンス」
「でしょ?」
「驚かなかったのか?」
「驚いたに決まってるでしょ! でも、なんとなくだけど……そんなに違和感を感じなかったんだよね。この変わった景色も……あの怪獣も……どこか懐かしいような……」
「……前にもここに来たことあるのか?」
「いや、今日が初めて」
不可解だ……俺でさえ、初めて化け物を見た時は大層驚いたし、この世界にも困惑した。靡がどんなに度胸のある女性であってもそれは変わらないだろう。
心の中でイラに真相を聞いてみたが「わからぬ」と短く返された。イラにわからないのだ、俺にわかる筈ない。考えても無駄か。
(っと、そろそろ行かねばなるまいぞ)
「ん、ぁしまった!」
気がつくと大半のポニテ美女は俺達を追い越しており、ケートスに接近していた。
「ごめん、何度も置き去りにして悪いけど……俺、行かなくちゃならねぇ」
「……」
「だから、髪を離してくれないか?」
両手を合わせてお願いしてみたが、靡がポニテを離す気配は一切なかった。むしろ、先ほどよりも強く握りしめている。
「靡、頼むよ」
「……戦って勝てるの? あんな大きな生き物に」
「なんとかなるさ」
自信を持って「勝つ」とは言えなかった。あの連続で襲いかかる水のレーザーは躱すのも一苦労だし、一撃もらえば致命傷にもなり兼ねない。打つ手無し。
しかし、それでは彼女を納得させる事はできず、俯いたまま一層強く髪を握り言った。
「なんとかって……なに?」
「なんとかは、なんとかだ。気合いとか、情熱とか、やる気、勇気で!」
「それじゃあ、どうにもならないよ」
「……例え歯が立たなくても、負ける可能性の方が高くても、ポニテを愛した以上……引けない戦いがあるんだ」
「……意味わかんない」
「まぁ、本当になんとかするさ。あの怪物は弱点さえ破壊できれば直ぐに消滅する……そこ見つければこっちのもんさ」
唯一の希望はケートスの黒核を消し去り縫合を解く事だ。それができれば俺達の勝ち、できなければ負け……単純明確。だけど前途多難。
人間のように心臓の位置にあれば楽なのだが、縫合獣の場合どこで止められているのか、それは製作者である織姫にしか分からない。
ケートスは見ての通り巨体だ。あの中から小さな黒核を見つけ出すのは至難の技だろう。だけど、やるしかない。
考え込み冷や汗が頬を伝った時、ポニテをグッと引っ張られた。
「弱点って?」
「黒い毛玉みたいなものなんだけど……視覚では見えないんだ。体内にあるからな」
「黒い毛玉……」
靡は俺と同じ方向を向き、ケートスを睨むと人差し指で背中辺りを指しこう言った。
「毛玉って、あの鯨でいう潮を吹く場所にあるやつ?」
「……え?」
彼女が指した場所に視線を移すが、俺には何も見えない。柔らかそうな皮膚に小さな穴が空いているだけだ。距離は500メートルはある……そんな遠いところ普通の人間にはぼんやりとしか見えない筈だけど……。
「なにも見えないぞ?」
「いやいや、はっきり見えるでしょ? あそこに黒くて光ってる毛玉があるじゃん」
「……間違い無いのか?」
「え? 本当に見えないの?」
「あ、あぁ……」
にわかに信じられないが、どうやら靡には「縫合獣の弱点」が視覚に映る能力があるみたいだ。
(イラ! どーなってんだよ!? どうして靡が!?)
(妾にもわからぬと言っておろう!)
やはり、彼女にもそれはわからないのか。
普通の女の子である靡が何故そんな力を持っているのかは謎だが……これは千載一遇のチャンス到来ってやつだ。
「靡……もう少し詳しい位置、わかるか?」
「う、うん。あの背中の中心から真っ直ぐ下に落ちて、20メートルくらいの場所……だね」
「よし、わかった」
「役に立った?」
「あぁ、これ以上ない情報だ」
「……勝てる?」
「勝つ」
今度は自信を持って即答した。見えた、勝利の女神の後髪。
俺の言葉を聞き、靡はようやくポニテを離すと小さな声で呟く。
「そう……わかった」
「心配するな。絶対に無事に帰るから」
「うん、もう心配してない。大丈夫」
彼女のポニテを人差し指で軽く撫でてから、深く深く深呼吸をして全身に力を込めた。そして地面を全力で蹴りケートス目掛けて飛び立つ。
後ろから靡の叫び声が背中を押し、やる気を底上げさせる。
「頑張って! 竜馬、イラちゃん!」
「応ッ!」
(うむッ!)
この戦い、絶対に勝利して皆を救ってみせる。
決意を固め俺達とケートスの距離は肉薄していった。
(————うむ? 今……妾の名も呼んだか……?)
時間差で今、自分がどんな姿をしているのか思い出した。
このままでは俺が女の子に変身して。化け物退治をしているとバレてしまう。必死に彼女の疑いを晴らす為に出た言葉がこれだ。なぜお嬢様口調なのかはさっぱり分からない。
視線が合わないようにする為、背中を向けさっきとは別の視線でケートスを見つめた。だが、靡は一向にポニテを離してはくれず、回り込むように俺の顔に近ずいてきた。
「竜馬でしょ?」
「りょ、竜馬とはだれでござんしょう?」
「さっき私の名前呼んだでしょ?」
「いやいやいや、いや~それは……って、ほら私女の子ですのよ? そんな男っぽい名前なわけ————」
「わかる、私にはしっかりわかる。たとえ、貴方がどんな姿になろうともね」
な、なんだこの自信に満ちあふれた態度は……姿も声も、全くの別人なんだぞ? どうして俺だって事がわかるんだ!?
「早く白状しなさい」
「いや……だから……」
「じゃあ、私ポニーテールやめるから」
「だぁー!!!」
髪留めに手を向ける彼女を俺は本能的に止めた。
「ほら、ね」
しまった。体が勝手に反応してしまった。靡は今までの付き合いでは一度も見せたことのない完璧なるドヤ顔を向けて来ている。確信を得た、といった様子だ。
ここまで俺っぽい事を晒してしまえば、最早隠し通すのは無理だろう。
「……敵わないな、靡には」
「観念したね」
「どうしてわかったんだ……?」
正体がバレてしまった事は仕方がないとして、何故……全く別人の俺を赤芽 竜馬だと判断、断定できたのか聞いておかなければいけない。
それと、もう一つ不思議な事がある。それをイラが気が付かせてくれた。
(……手騎よ、靡は何故正気を失っておらぬ……?)
言われてみれば……確かにこのアマノガワには普通の人間が入ってくる事は出来ない。俺の場合でも初めて入った時以降はイラの力を借りて次元を裂かなければ突入できないのだ。
靡は目の焦点も合っていて、会話も普通にできる。周りを歩いている大勢の女性とは違い、自分の意思でここまで辿り着いたようだ。
疑問は尽きない……しかし、解答は彼女本人にしかわからない。
息を呑み、靡の口から答えが出るのを待った。そして、彼女はあっけからんとこう答えたのだ。
「勘……かな?」
「か、かん?」
「そう、直感で……大きな生き物と戦っているところを遠目から見てなんとなく『竜馬だ』って思えたの」
「凄いな……靡のシックスセンス」
「でしょ?」
「驚かなかったのか?」
「驚いたに決まってるでしょ! でも、なんとなくだけど……そんなに違和感を感じなかったんだよね。この変わった景色も……あの怪獣も……どこか懐かしいような……」
「……前にもここに来たことあるのか?」
「いや、今日が初めて」
不可解だ……俺でさえ、初めて化け物を見た時は大層驚いたし、この世界にも困惑した。靡がどんなに度胸のある女性であってもそれは変わらないだろう。
心の中でイラに真相を聞いてみたが「わからぬ」と短く返された。イラにわからないのだ、俺にわかる筈ない。考えても無駄か。
(っと、そろそろ行かねばなるまいぞ)
「ん、ぁしまった!」
気がつくと大半のポニテ美女は俺達を追い越しており、ケートスに接近していた。
「ごめん、何度も置き去りにして悪いけど……俺、行かなくちゃならねぇ」
「……」
「だから、髪を離してくれないか?」
両手を合わせてお願いしてみたが、靡がポニテを離す気配は一切なかった。むしろ、先ほどよりも強く握りしめている。
「靡、頼むよ」
「……戦って勝てるの? あんな大きな生き物に」
「なんとかなるさ」
自信を持って「勝つ」とは言えなかった。あの連続で襲いかかる水のレーザーは躱すのも一苦労だし、一撃もらえば致命傷にもなり兼ねない。打つ手無し。
しかし、それでは彼女を納得させる事はできず、俯いたまま一層強く髪を握り言った。
「なんとかって……なに?」
「なんとかは、なんとかだ。気合いとか、情熱とか、やる気、勇気で!」
「それじゃあ、どうにもならないよ」
「……例え歯が立たなくても、負ける可能性の方が高くても、ポニテを愛した以上……引けない戦いがあるんだ」
「……意味わかんない」
「まぁ、本当になんとかするさ。あの怪物は弱点さえ破壊できれば直ぐに消滅する……そこ見つければこっちのもんさ」
唯一の希望はケートスの黒核を消し去り縫合を解く事だ。それができれば俺達の勝ち、できなければ負け……単純明確。だけど前途多難。
人間のように心臓の位置にあれば楽なのだが、縫合獣の場合どこで止められているのか、それは製作者である織姫にしか分からない。
ケートスは見ての通り巨体だ。あの中から小さな黒核を見つけ出すのは至難の技だろう。だけど、やるしかない。
考え込み冷や汗が頬を伝った時、ポニテをグッと引っ張られた。
「弱点って?」
「黒い毛玉みたいなものなんだけど……視覚では見えないんだ。体内にあるからな」
「黒い毛玉……」
靡は俺と同じ方向を向き、ケートスを睨むと人差し指で背中辺りを指しこう言った。
「毛玉って、あの鯨でいう潮を吹く場所にあるやつ?」
「……え?」
彼女が指した場所に視線を移すが、俺には何も見えない。柔らかそうな皮膚に小さな穴が空いているだけだ。距離は500メートルはある……そんな遠いところ普通の人間にはぼんやりとしか見えない筈だけど……。
「なにも見えないぞ?」
「いやいや、はっきり見えるでしょ? あそこに黒くて光ってる毛玉があるじゃん」
「……間違い無いのか?」
「え? 本当に見えないの?」
「あ、あぁ……」
にわかに信じられないが、どうやら靡には「縫合獣の弱点」が視覚に映る能力があるみたいだ。
(イラ! どーなってんだよ!? どうして靡が!?)
(妾にもわからぬと言っておろう!)
やはり、彼女にもそれはわからないのか。
普通の女の子である靡が何故そんな力を持っているのかは謎だが……これは千載一遇のチャンス到来ってやつだ。
「靡……もう少し詳しい位置、わかるか?」
「う、うん。あの背中の中心から真っ直ぐ下に落ちて、20メートルくらいの場所……だね」
「よし、わかった」
「役に立った?」
「あぁ、これ以上ない情報だ」
「……勝てる?」
「勝つ」
今度は自信を持って即答した。見えた、勝利の女神の後髪。
俺の言葉を聞き、靡はようやくポニテを離すと小さな声で呟く。
「そう……わかった」
「心配するな。絶対に無事に帰るから」
「うん、もう心配してない。大丈夫」
彼女のポニテを人差し指で軽く撫でてから、深く深く深呼吸をして全身に力を込めた。そして地面を全力で蹴りケートス目掛けて飛び立つ。
後ろから靡の叫び声が背中を押し、やる気を底上げさせる。
「頑張って! 竜馬、イラちゃん!」
「応ッ!」
(うむッ!)
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決意を固め俺達とケートスの距離は肉薄していった。
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