15 / 27
14.
しおりを挟む
☆
気が付けばイラが出ていってから3日も立っていた。
彼女を、靡を助けたい……けれども体が動かない。恐怖と嫌悪が心をギチギチに固め、身動きを取れなくしている。
だけど、このままじゃダメだ。
時間が経つにつれ、俺の頭は少しずつプラスの思考を取り戻しつつある。
「とりあえず……外にでよう」
一週間ぶりの外出……久しぶりに立ち上がると、足の筋肉が衰えただ歩くだけでもフラフラした。
情けない、本当に情けない。
好きな人も物も守れず、終いには相棒に八つ当たりをして……何をやってんだ俺は。
イラは言っていた「7月7日に織姫が動き出す」と。「それまでに靡を奪還しなければ勝機はない」と。
もう遅いかもしれない……だけど、全く動かないなんて無責任だ。
何か、どうにかして自分を呼び覚ます方法を見つけなければ。
「イラ、一体何処にいってしまったんだ」
服装を整え、千鳥足で玄関から外に出た。俺の気持ちとは裏腹に快晴の空。
尻尾聖戦なんてもんが起きているだなんて誰一人として思わないだろう。
もしかしたら夢……だったのではないのか? 実は全部、俺の夢?
現実逃避を欲する思考が一瞬だが、そんな回答を導き出す。だが、夢じゃない事は外に出てみてハッキリと分かった。
最も彼女がいそうな場所、商店街を歩いている時にある異変に気がつく。
「……誰もポニーテールをしていない……」
ここにたどり着くまでに100人以上の人間とすれ違った。
その内の60人は女性で、誰一人としてポニーテールにしている人はいなかったのだ。
この町はあんなにもポニテで溢れ返っていたのに……殆ど髪を結ぶ事すらせず、何気ない顔で歩いている。
「そんな……そんな馬鹿な……」
俺は必死にポニテ美女を探した。
絶対に居るはずなんだ……ちょっと前までは5分も探せば、とてつもないポニテを拝める事が出来たのに、今では1時間、2時間探しても一向に見つける事が出来ない。
そうして探し回っていると、とある女性を見かけた。お洒落なパスタ屋で昼食を嗜むスーツ姿の女性……間違い無く一番最初に助けたポニテ美女だ。
だけど……今はポニテではなく、長い髪をゆったりと下ろしている。
俺はてっきり靡を手に入れた織姫はこれ以上ポニーテールを襲う事は無い……そう思っていた。
だけどそれは甘い考えだった。
間違いなく未だに縫合獣は現れ、次々と奪っていっている……そして、縫合獣がいるという事はイラも戦っているのだ。
「だけど……」
戦い……その言葉を思う出すと、自然と足が震えた。
拳を直前で止めた自分、連れ去られる靡……俺に戦う資格はあるのか?
今ではもう、縫合獣の居場所さえわからない。何処で戦っているのか、それすらも普通の人間である俺には見ることも聞くこともできない。
けど、確実にイラは戦っている。短いが濃い付き合いだった……アイツが縫合獣を放っておく訳ない。
しかし……それでもこれだけポニーテールが減っているという事は、苦戦しているのだ。
もしくは……もう……いや、それ以上考えるのはよそう。
「イラ……」
独り言を呟き、空を見上げた……その時だ————辺りが途端に騒がしくなったように感じ、声が聞こえた。
(お前のせいで、私達は死んでしまったんだ)
「!? だ、誰だ!?」
不気味な女性の声、まるで幽霊のようにか細い声量だった。
驚いて周辺を見渡すもその声の主らしき人物は誰1人としていない。
だが、何度も何度もイラと会話している時のように、頭の中で声が響く。
(なぜ戦わなかった)
(守ってくれると思ってたのに)
(本当に私達の事を愛していたの?)
次々と声の数は増えていく。そして、想い想いの罵声を浴びせては通り過ぎた。
声色が違う。別々の人物……何人も存在している。
「な……なんだよ!? 誰なんだよ!」
訳が分からなくなり大きな声でそう叫んだ。
道行く人々は俺の事を気の毒そうな顔で見つめてくる。お前らには聞こえないのか?
この嘆きが、恨みの声が。
(私達は貴方が守ってくれると信じてた。なのに裏切った)
(大事な人を失った事を言い訳に、戦いから自分を避けた)
(怖かったんでしょ? 本当は)
(自分の身が一番大事なんだ。所詮)
違う、違う違う違う!
そんな事思ってない……俺は必死に戦ったんだ。
ポニーテールを守ろうと、この世界を壊させまいと戦ったんだ。
嘘なんか無い、一生懸命やったんだ。
だけど……ダメだったんだ。
(そうやって直ぐに言い訳して)
謎の声はどんどん増えつづけ、頭の中がパンクしそうになる。
わかった、声の正体は奪われてしまったポニーテールの思念だ。
守ると約束し、裏切り、そして最後には逃げ出した……そんな俺の事を恨んでいる彼女達の声なんだ。
「やめろよ……やめてくれ……」
もうウンザリだ。
大好きなポニーテールに嫌われ、罵声を浴びせられるなんて耐えられない。
だが、声は止まる事なく俺を責め立てる。
自分でもわかっている事だ……気が付いている、自分がやった過ちなんて。
何度も復唱しなくたっていいじゃ無いか。
「助けてくれよ……靡……イラ……」
もう長年連れそった友人も、共に戦った仲間もいない……誰にも頼る事が出来ない。
自分1人ではこれほどまでに無力なのかと、思い知った。
「う、うわぁぁぁぁ!!!!」
耐えきれなくなった俺はその場から逃げ出した。
なるべき人のいない場所へ、これ以上自分を追い詰める者がいない場所へ。
ただ必死に走った。
訳の分からなくなるくらい、ここが何処なのかもわからなくなるくらい必死に。
何度か転び、膝を擦りむき血が溢れた。
痛みによって声はかき消されるかと思ったが、まだ追いかけて来ている。
逃げなくちゃ……出なきゃ俺は……ポニーテールを嫌いになってしまう。
「ぜぇ……はぁ……はぁ……」
体力を使い果たし一歩も歩けなくなった頃、既に空はオレンジ色に染まっていた。
声は消え、目の前には見知らぬ小さな公園がある。
入口の石板には「奏根公園」という文字が刻まれていた。隣町まで来てしまっていたようだ。
気が付けばイラが出ていってから3日も立っていた。
彼女を、靡を助けたい……けれども体が動かない。恐怖と嫌悪が心をギチギチに固め、身動きを取れなくしている。
だけど、このままじゃダメだ。
時間が経つにつれ、俺の頭は少しずつプラスの思考を取り戻しつつある。
「とりあえず……外にでよう」
一週間ぶりの外出……久しぶりに立ち上がると、足の筋肉が衰えただ歩くだけでもフラフラした。
情けない、本当に情けない。
好きな人も物も守れず、終いには相棒に八つ当たりをして……何をやってんだ俺は。
イラは言っていた「7月7日に織姫が動き出す」と。「それまでに靡を奪還しなければ勝機はない」と。
もう遅いかもしれない……だけど、全く動かないなんて無責任だ。
何か、どうにかして自分を呼び覚ます方法を見つけなければ。
「イラ、一体何処にいってしまったんだ」
服装を整え、千鳥足で玄関から外に出た。俺の気持ちとは裏腹に快晴の空。
尻尾聖戦なんてもんが起きているだなんて誰一人として思わないだろう。
もしかしたら夢……だったのではないのか? 実は全部、俺の夢?
現実逃避を欲する思考が一瞬だが、そんな回答を導き出す。だが、夢じゃない事は外に出てみてハッキリと分かった。
最も彼女がいそうな場所、商店街を歩いている時にある異変に気がつく。
「……誰もポニーテールをしていない……」
ここにたどり着くまでに100人以上の人間とすれ違った。
その内の60人は女性で、誰一人としてポニーテールにしている人はいなかったのだ。
この町はあんなにもポニテで溢れ返っていたのに……殆ど髪を結ぶ事すらせず、何気ない顔で歩いている。
「そんな……そんな馬鹿な……」
俺は必死にポニテ美女を探した。
絶対に居るはずなんだ……ちょっと前までは5分も探せば、とてつもないポニテを拝める事が出来たのに、今では1時間、2時間探しても一向に見つける事が出来ない。
そうして探し回っていると、とある女性を見かけた。お洒落なパスタ屋で昼食を嗜むスーツ姿の女性……間違い無く一番最初に助けたポニテ美女だ。
だけど……今はポニテではなく、長い髪をゆったりと下ろしている。
俺はてっきり靡を手に入れた織姫はこれ以上ポニーテールを襲う事は無い……そう思っていた。
だけどそれは甘い考えだった。
間違いなく未だに縫合獣は現れ、次々と奪っていっている……そして、縫合獣がいるという事はイラも戦っているのだ。
「だけど……」
戦い……その言葉を思う出すと、自然と足が震えた。
拳を直前で止めた自分、連れ去られる靡……俺に戦う資格はあるのか?
今ではもう、縫合獣の居場所さえわからない。何処で戦っているのか、それすらも普通の人間である俺には見ることも聞くこともできない。
けど、確実にイラは戦っている。短いが濃い付き合いだった……アイツが縫合獣を放っておく訳ない。
しかし……それでもこれだけポニーテールが減っているという事は、苦戦しているのだ。
もしくは……もう……いや、それ以上考えるのはよそう。
「イラ……」
独り言を呟き、空を見上げた……その時だ————辺りが途端に騒がしくなったように感じ、声が聞こえた。
(お前のせいで、私達は死んでしまったんだ)
「!? だ、誰だ!?」
不気味な女性の声、まるで幽霊のようにか細い声量だった。
驚いて周辺を見渡すもその声の主らしき人物は誰1人としていない。
だが、何度も何度もイラと会話している時のように、頭の中で声が響く。
(なぜ戦わなかった)
(守ってくれると思ってたのに)
(本当に私達の事を愛していたの?)
次々と声の数は増えていく。そして、想い想いの罵声を浴びせては通り過ぎた。
声色が違う。別々の人物……何人も存在している。
「な……なんだよ!? 誰なんだよ!」
訳が分からなくなり大きな声でそう叫んだ。
道行く人々は俺の事を気の毒そうな顔で見つめてくる。お前らには聞こえないのか?
この嘆きが、恨みの声が。
(私達は貴方が守ってくれると信じてた。なのに裏切った)
(大事な人を失った事を言い訳に、戦いから自分を避けた)
(怖かったんでしょ? 本当は)
(自分の身が一番大事なんだ。所詮)
違う、違う違う違う!
そんな事思ってない……俺は必死に戦ったんだ。
ポニーテールを守ろうと、この世界を壊させまいと戦ったんだ。
嘘なんか無い、一生懸命やったんだ。
だけど……ダメだったんだ。
(そうやって直ぐに言い訳して)
謎の声はどんどん増えつづけ、頭の中がパンクしそうになる。
わかった、声の正体は奪われてしまったポニーテールの思念だ。
守ると約束し、裏切り、そして最後には逃げ出した……そんな俺の事を恨んでいる彼女達の声なんだ。
「やめろよ……やめてくれ……」
もうウンザリだ。
大好きなポニーテールに嫌われ、罵声を浴びせられるなんて耐えられない。
だが、声は止まる事なく俺を責め立てる。
自分でもわかっている事だ……気が付いている、自分がやった過ちなんて。
何度も復唱しなくたっていいじゃ無いか。
「助けてくれよ……靡……イラ……」
もう長年連れそった友人も、共に戦った仲間もいない……誰にも頼る事が出来ない。
自分1人ではこれほどまでに無力なのかと、思い知った。
「う、うわぁぁぁぁ!!!!」
耐えきれなくなった俺はその場から逃げ出した。
なるべき人のいない場所へ、これ以上自分を追い詰める者がいない場所へ。
ただ必死に走った。
訳の分からなくなるくらい、ここが何処なのかもわからなくなるくらい必死に。
何度か転び、膝を擦りむき血が溢れた。
痛みによって声はかき消されるかと思ったが、まだ追いかけて来ている。
逃げなくちゃ……出なきゃ俺は……ポニーテールを嫌いになってしまう。
「ぜぇ……はぁ……はぁ……」
体力を使い果たし一歩も歩けなくなった頃、既に空はオレンジ色に染まっていた。
声は消え、目の前には見知らぬ小さな公園がある。
入口の石板には「奏根公園」という文字が刻まれていた。隣町まで来てしまっていたようだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる