業火のポニーテール~ポニテ大好き少年は、のじゃろりドラゴン幼女と合体しTSヒーローとなる~

あむあむ

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22.

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 後ろで結べる程、髪の毛が長くないし子供らしいといえば子供らしい髪型だ。
 それに気が付いた時、一つの疑問が生まれる。
 俺はてっきり、靡がポニーテールだったから仲良くなったのだと思っていた。
 自分の好きな髪型をしているから……そう思ってたんだけど、違う……のか?
 ならいつ、どうして靡はポニーテールにしたんだ?
 高校……中学……いや、もっともっと前だ……小学、そう、小学校に入学する時だ。
 思い出した。今、全て思い出した。
 あの時には既に仲良しになっていた。俺たちを通じて両親も仲良くなり、頻繁に家を行き来していた。
 何げの無い夏休みの一日……その日俺は彼女に向かって言ったんだ。

「ポニーテールって、最高の髪型だよな!」

 って。今では口癖のように言っている言葉だが、当時の俺からすれば初めて自分の性癖を暴露した瞬間だ。
 でも……その時はまだ、ポニーテールを髪型だとしか思っていない。
 所謂、ポニーテールが好きな普通の男の子だった。
 ポニーテール美女を見つけては追いかけ、まして、ポニーテールの心の声を感じれる程の実力を持っていなかった。
 翌日、靡は短かった髪の毛を無理やり結んで不細工なポニーテールにしてきたんだ。
 ほんと、初めて挑戦してみたのだろう。今の俺と同じ状態だったに違いない。所々飛び跳ね、まるで寝癖のようになってしまったポニーテール。
 ……けれど、目を惹かれた。
 昔も、これからも、その時以上のポニーテールに出会う事はないだろう。

「どうしてポニーテールにしたの?」

 嬉しくて、彼女に理由を聞いたんだ。
 そしたら————

「皆がしてるから……だよ!」

 と答えられたんだっけ。
 照れ臭そうに頬を掻きながら、そっぽを向き、小さくて乱暴なポニーテールを揺らして。
 ……うん、それからだ。俺が妄信的かつ狂信的にポニーテールを愛するようになったのは。
 まるで恋が愛に変わるような、そんな変化があった。
 って事は……どう言う事だ?

(そういう事じゃよ)

 分かっている。いや、分かった。
 俺がどうしてポニーテールを守ろうとしたのか。
 執拗にポニーテール美女を追いかけていたのか。

(わかったのじゃな……だったら)

 あぁ、お前のいう通りだよ、相棒。
 だったらこんなところでくたばる訳には……いかねぇよな!

「う、らぁぁぁあ!!!」

 自分の気持ちを弾け飛ばすように叫び、全身にギュッと力を込めた。背中から炎を噴出する事で強引に姿勢を正すと、もう一度織姫と向き合う。
 口に付着した血を拭い、両手で顔をパシンと叩く。
 何を迷っていたんだ、俺は。また同じ過ちを犯してしまうところだった。

「貴様、まだ倒れぬか」
「当然だ……」

 もう絶対に迷ったりしない。俺は正義の味方じゃないって自分自身でわかったから。
 というか、最初っからヒーローになりたかった訳じゃなかったんだ。
 俺は……俺は……靡がポニーテールを辞めないようにする為に、世の中全てのポニーテールを愛したんだ。
 だって、靡の事を————。

「ちょっと悩んだが、俺も同じだったってことさ。お前とな」
「何を言っている……?」
「この気持ち、他人には伝えられねぇな。だろ、イラ?」
(うむ、それは本人に伝えるべきじゃな。もっと、相応しい場所で)

 いつか伝えようと思う。結果はどうだっていい。ちゃんと気付いた気持ちは伝えないと失礼だと思うから。

「織姫、お前が辛いのは理解した。だが、だからと言って皆を巻き込む事は許さない……たとえ神様にだって、明日の髪型を奪う権利は存在しないんだからよ!」
「理解しておるのなら……どけ!!!」
「こ・と・わぁぁぁぁぁる!!!」

 織姫は顔面にめがけて左ストレートを放ってきた。
 握りしめた拳からは、これが最後の一撃だと物語っている。
 よかったよ、ちゃんとこうやって拳と拳で語り合えて。
 お前のおかげだ、自分の気持ちに気付く事ができたのは。
 だから、全力でその一撃を迎え撃とう。

「チェストォォォ!!」

 左ストレートのタイミングに合わせて突き出した、渾身の右ストレート。それは俺達の中心で交差し互いの顔面にヒットした。
 だが、身体全てで殴りかかった俺の方が直撃が早く、織姫の拳は威力が失われた状態で頬を叩く。
 これが、クロスオーバーモードでの必殺技————クロス・カウンターだ。

「ガハッ————……」

 苦痛の声を上げながら吹き飛ぶ織姫は、そのまま地面へと勢いよく転がった。
 四つん這いになり、必死に立ち上がろうとするも足が痙攣し上手く立てないらしい。
 俺の……勝利だ。

「よもや……人間風情に……こんな童に……」

 悔しそうに地面を握りしめ叩く姿は、哀れでもある。
 一年に一度の愛……それを俺が体験することになったら、あそこでうずくまっていたのは俺だったかもしれない。
 彼女はポニーテールを愛していた、好きな人に喜ばれるポニーテールを。
 それ故に、このような愚行を犯してしまった。
 全ては……愛だ。
 だから、イラには謝らないといけない。

「イラ……すまない。俺はトドメを刺すつもりは無いんだ。相棒の悔しさはよくわかっているつもりだ……だけど、皆の魔力を解放させるって事で手を打ってはくれないか?」

 彼女は仲間を全員連れ去られ、魔力へと変えられてしまった過去を持つ。
 織姫が魔力を解放し、全員元の状態に戻れたとしても、今までイラが戦ってきた時間・傷・そして恨みは消える事がないだろう。
 だけど、俺は織姫にトドメを刺したくなかった。
 同情……と言われれば、その通りだ。
 好きな男の為に必死に運命と戦った一人の女の事を……素直に嫌いになる事ができない。 きっと相棒は「甘い」と言って怒るだろう。そう思っていたのだが、意外にも彼女はあっけからんと言い切った。

(うむ、手騎がそうしたいのならそうするがよい)
「……え? いいのか?」
(妾に未練は無い。仲間さえもどってくれば、それで良い)
「だけどお前……」
(口説いぞ。前に聞いたであろう? 『そんな下らないことで』と思っていないかと。そんな事、百文承知故……それに……)
「それに?」
(ベガルスではこのような事件、頻繁に起こるのでな! 寛容な心が身につくのじゃ!) 

 向こうの世界は思ったよりも殺伐としてるんだな……まぁ、そうか……俺達
言う所のファンタジー世界だもんな。こっちに比べれば、そりゃあ混沌としてるか。

「ありがとう、イラ」
(こちらこそ、我が願いを叶えてくれて感謝するぞ、竜……ッ! 手騎!)
「ん……?  ————ぁッ!」

 イラは言葉を途中で切ると、俺の意識を別の方向へと向けた。彼女の指示に従い、その方向へ視線をやると、地面を這いずり着物をぐちゃぐちゃに汚しながら、織姫は拘束されている靡の足元へと移動していたのだ。
 しまった、油断した。

「クックック……まだ、勝負は終わってないからな!」
「よせッ!」
「遅いわぁ!」

 地面を蹴り飛ばし、靡に向かって全速力で手を伸ばした。
 だが、それより先に織姫の右手が触れ、その瞬間————景色は真っ白に染まる。
 先が見えない闇の次は、手元が見えないほど強い閃光に包まれる。

「イラ、これは!?」
(まずい……やつも契約をしたようじゃ……)

 両腕で目を隠しながら、靡の姿を探す。
 その中で微かに見えた二つのそっくりな影は、まるで溶けるかのように重なり一つになっていく。

「靡!」
(迂闊に光へ飛び込むな!)
「だが……」
(これから戦う敵は……恐らく、織姫とは比べ物にならない……とてつもなく強力な神を超えた存在じゃろう)
「神を超えた……ポニーテール……」

 生唾を飲み込み、静かに引いていく光をただ呆然と眺めた。
 そして、ようやく収まり目の前が見えるようになった時、立っていたのは1人の女性だった。
 頭の左右に二つの結び目があり、それを中央でまとめたタイプのポニーテール。俺達と同じクロスオーバーだ。だが、格が違う。
 初心者ポニーテールな俺と本来なら龍の尻尾であるイラの髪で作られた合体ポニテと違い、こいつのは世界で一番美しいポニテと、始祖ポニーテールの融合体……究極の始まりと、極限の終わり……つまり、宇宙誕生、ビッグバン。
 直視しては駄目だ……横目で見ないと、その美しさに喰われてしまう。
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