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26. 完
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♢♢♢
頭を揺らす甲高い音が部屋中に鳴り響いた。ジリリリと鐘を鳴らし暴れる目覚まし時計。
彼の命は、彼女の一撃により敢え無く散る。
振りかぶられたフライパンは一直線に落とされ、その邪魔者を粉砕した。
眠気眼を擦り、見上げる俺の視線に写ったのは「こんなもの必要ないでしょ?」と言わんばかりの表情をしたエプロン姿の靡だ。
エプロンのポニーテール……うん、新妻らしさ全開で抜かりがないぜ。
「おはよう、寝坊助さん」
「おはよう……って、せっかく買った時計を壊すなよ……」
「必要無い物は捨てていく主義だから、ね」
笑顔で返すも目は笑っていない。
いやだって、目覚まし君を犠牲にしなければ凶器の対象になるのは俺じゃん?
痛みで目を冷ますのが嫌で尊い犠牲をはらってるんだよ?
「ほら、さっさと準備して。朝食、できてるよ」
「りょーかい」
「……竜馬」
「あ、あぁ……」
急にしおらしくなった靡は瞳を瞑り、俺はそれに応え唇を重ね合わせる。
自分でやっておいて恥ずかしいが、おはようのキスってやつだ。
あの戦いから五年の月日が経った。
高校卒業後、美容師の専門学校に進路を進め、今では近くの美容院に勤めている。
カリスマ美容師……とはいかないけれど、こだわりの高さからか、それなりに人気があると自称しておこう。夢はもちろん、ポニーテール専門の美容室を作る事。その為に日夜努力を欠かしてはいない。
一方、靡は普通大学に通っていた。今は大手企業の事務員として働いている。実を言うと俺よりも年収がいい。
それと、だ。状況から見てわかる通り、靡の大学卒業と同時に俺達は結婚した。
新婚ホヤホヤ、経済的に少し厳しいものもあるが、なんだかんだ楽しく暮らしている。
今思えば、あの尻尾聖戦という戦いは現実だったのだろうか。
そう思えるほど、平和な日々。
あれから、イラは一度も来ていない。
向こうの世界も平和を取り戻し、穏やかな日々を過ごしているのだろう。
「さて……今日もお仕事頑張りますか」
朝食が冷めない内に食べてしまおうと、急いで着替えを済ませていく。
先輩に勧められたオシャレな服に袖を通し、靡の待つ台所へと向かおうとした。
————その時だった。
「……騎……手騎……よ」
「え?」
小さく聞こえる彼女の声。俺の事をこう呼ぶ奴は一人しかいない。
聞き間違いかと思い、もう一度耳を澄ませる。
すると次はさっきよりも鮮明にその声が聞こえた
「手騎! 大変じゃ! 大変なのじゃ!」
「ッ————うぉ!?」
部屋の窓をガラっと勢いよく開き不法侵入してきたのは、真紅の髪をなびかせながら身を乗り出す幼女……いや、相棒だった。
慌てているのか、足を窓枠に引っ掛けそのまま床へと顔面からダイブする。ドガっと鈍い音が鳴り、それに気が付いた靡も何事かと部屋に戻ってきた。
「イ……イラ! 久しぶりじゃないか!」
「イラちゃん! どーしたの!?」
「うぬぬ……新婚ホヤホヤの所、邪魔してすまぬ。じゃが、無礼を承知で言おう。手騎、もう一度妾と戦ってくれ!」
「一体どうしたっていうんだよ? まった織姫が何かやらかそうとしてんのか?」
「そうじゃない! 今回は主らの神、彦星が原因じゃ! 今年の七夕、彦星が織姫に言った言葉が妾の世界に大きく災いしておる!」
「なんて言ったんだ?」
「『最近……ポニーテールよりツインテールの方が可愛いんじゃないかって思った』と呟いたそうなのじゃ!!」
「なん……だと……!」
なんて事だ、一大事じゃないか。
彦星……会いはせずとも同類だと思っていたのに、あまつさえツインテールに浮気するとは許すまじ。
「おかげで織姫が最近ツインテールにするようになって、ベガルスの気候が乱れに乱れておる!」
「なるほど……世界の創造主たる神の魔力貯蔵器官が二つに分かれると天変地異が起こる……ってことだな!」
「さすがは我が手騎! だから共に彦星に『ポニーテール最高だぜ』と言わせる手伝いをしてくれんか? 奴は頑固で中々この一言を言ってくれぬ」
「強行手段に出るわけだな……ポニーテールへの愛、思い出させてやるぜ!」
「うむ! そう返してくれると信じておったぞ、相棒!」
「応ッ」
イラの手を取り、懐かしい変身をしようとした。
その光景を見て、靡が反対の手を掴む。
「靡……止めるな。俺にはポニーテールを守る使命がある。最悪、このまま彦星がツインテールに夢中になってしまうと、この世界からポニーテールが消えてしまうかもしれないんだ。許せ」
「止めるわけないでしょ?」
「……へ?」
「あんたのポニーテールバカはもう知ってるから。だから、今回は私も一緒に戦う」
「いや、でも……」
危険だ。という言葉は靡の真剣な表情と笑顔で掻き消された。
そうだな、俺達は一緒になったんだ……だったらどんな時でも共に行くのは当然だよな。
「よし、わかった。なら……行くぜ!!」
「ソッコーで終わらせて、晩御飯までには帰りましょ」
「三人揃えばなんとやらじゃ! そして靡の手料理、妾もご馳走になるとしよう!」
俺がそのやりとりに少し笑うと、二人共笑顔を返してきた。
戦いは終わらないし、これかもいつ神のわがままに振り回されるかわからない。
けど、問題ないさ。
だってここには靡とイラがいるんだから。
「三位一体って奴だな」
三人で手を取り合い、輪を作ると懐かしい口上を、声を揃えて叫んだ。
「「火炎・豪炎・超爆炎! ポニテに危機が迫る時、炎と共にやって来る!! 奇々怪界な獣供! 俺の愛で灰になれ! 三人で一人、最大火力の怒髪天! 聞け、我の名は!」」
————ドラゴン・テールッ!!
業火のポニーテール————完
頭を揺らす甲高い音が部屋中に鳴り響いた。ジリリリと鐘を鳴らし暴れる目覚まし時計。
彼の命は、彼女の一撃により敢え無く散る。
振りかぶられたフライパンは一直線に落とされ、その邪魔者を粉砕した。
眠気眼を擦り、見上げる俺の視線に写ったのは「こんなもの必要ないでしょ?」と言わんばかりの表情をしたエプロン姿の靡だ。
エプロンのポニーテール……うん、新妻らしさ全開で抜かりがないぜ。
「おはよう、寝坊助さん」
「おはよう……って、せっかく買った時計を壊すなよ……」
「必要無い物は捨てていく主義だから、ね」
笑顔で返すも目は笑っていない。
いやだって、目覚まし君を犠牲にしなければ凶器の対象になるのは俺じゃん?
痛みで目を冷ますのが嫌で尊い犠牲をはらってるんだよ?
「ほら、さっさと準備して。朝食、できてるよ」
「りょーかい」
「……竜馬」
「あ、あぁ……」
急にしおらしくなった靡は瞳を瞑り、俺はそれに応え唇を重ね合わせる。
自分でやっておいて恥ずかしいが、おはようのキスってやつだ。
あの戦いから五年の月日が経った。
高校卒業後、美容師の専門学校に進路を進め、今では近くの美容院に勤めている。
カリスマ美容師……とはいかないけれど、こだわりの高さからか、それなりに人気があると自称しておこう。夢はもちろん、ポニーテール専門の美容室を作る事。その為に日夜努力を欠かしてはいない。
一方、靡は普通大学に通っていた。今は大手企業の事務員として働いている。実を言うと俺よりも年収がいい。
それと、だ。状況から見てわかる通り、靡の大学卒業と同時に俺達は結婚した。
新婚ホヤホヤ、経済的に少し厳しいものもあるが、なんだかんだ楽しく暮らしている。
今思えば、あの尻尾聖戦という戦いは現実だったのだろうか。
そう思えるほど、平和な日々。
あれから、イラは一度も来ていない。
向こうの世界も平和を取り戻し、穏やかな日々を過ごしているのだろう。
「さて……今日もお仕事頑張りますか」
朝食が冷めない内に食べてしまおうと、急いで着替えを済ませていく。
先輩に勧められたオシャレな服に袖を通し、靡の待つ台所へと向かおうとした。
————その時だった。
「……騎……手騎……よ」
「え?」
小さく聞こえる彼女の声。俺の事をこう呼ぶ奴は一人しかいない。
聞き間違いかと思い、もう一度耳を澄ませる。
すると次はさっきよりも鮮明にその声が聞こえた
「手騎! 大変じゃ! 大変なのじゃ!」
「ッ————うぉ!?」
部屋の窓をガラっと勢いよく開き不法侵入してきたのは、真紅の髪をなびかせながら身を乗り出す幼女……いや、相棒だった。
慌てているのか、足を窓枠に引っ掛けそのまま床へと顔面からダイブする。ドガっと鈍い音が鳴り、それに気が付いた靡も何事かと部屋に戻ってきた。
「イ……イラ! 久しぶりじゃないか!」
「イラちゃん! どーしたの!?」
「うぬぬ……新婚ホヤホヤの所、邪魔してすまぬ。じゃが、無礼を承知で言おう。手騎、もう一度妾と戦ってくれ!」
「一体どうしたっていうんだよ? まった織姫が何かやらかそうとしてんのか?」
「そうじゃない! 今回は主らの神、彦星が原因じゃ! 今年の七夕、彦星が織姫に言った言葉が妾の世界に大きく災いしておる!」
「なんて言ったんだ?」
「『最近……ポニーテールよりツインテールの方が可愛いんじゃないかって思った』と呟いたそうなのじゃ!!」
「なん……だと……!」
なんて事だ、一大事じゃないか。
彦星……会いはせずとも同類だと思っていたのに、あまつさえツインテールに浮気するとは許すまじ。
「おかげで織姫が最近ツインテールにするようになって、ベガルスの気候が乱れに乱れておる!」
「なるほど……世界の創造主たる神の魔力貯蔵器官が二つに分かれると天変地異が起こる……ってことだな!」
「さすがは我が手騎! だから共に彦星に『ポニーテール最高だぜ』と言わせる手伝いをしてくれんか? 奴は頑固で中々この一言を言ってくれぬ」
「強行手段に出るわけだな……ポニーテールへの愛、思い出させてやるぜ!」
「うむ! そう返してくれると信じておったぞ、相棒!」
「応ッ」
イラの手を取り、懐かしい変身をしようとした。
その光景を見て、靡が反対の手を掴む。
「靡……止めるな。俺にはポニーテールを守る使命がある。最悪、このまま彦星がツインテールに夢中になってしまうと、この世界からポニーテールが消えてしまうかもしれないんだ。許せ」
「止めるわけないでしょ?」
「……へ?」
「あんたのポニーテールバカはもう知ってるから。だから、今回は私も一緒に戦う」
「いや、でも……」
危険だ。という言葉は靡の真剣な表情と笑顔で掻き消された。
そうだな、俺達は一緒になったんだ……だったらどんな時でも共に行くのは当然だよな。
「よし、わかった。なら……行くぜ!!」
「ソッコーで終わらせて、晩御飯までには帰りましょ」
「三人揃えばなんとやらじゃ! そして靡の手料理、妾もご馳走になるとしよう!」
俺がそのやりとりに少し笑うと、二人共笑顔を返してきた。
戦いは終わらないし、これかもいつ神のわがままに振り回されるかわからない。
けど、問題ないさ。
だってここには靡とイラがいるんだから。
「三位一体って奴だな」
三人で手を取り合い、輪を作ると懐かしい口上を、声を揃えて叫んだ。
「「火炎・豪炎・超爆炎! ポニテに危機が迫る時、炎と共にやって来る!! 奇々怪界な獣供! 俺の愛で灰になれ! 三人で一人、最大火力の怒髪天! 聞け、我の名は!」」
————ドラゴン・テールッ!!
業火のポニーテール————完
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