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第二話
買い物は官能的なのか2
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☆☆☆
待ち合わせ場所は公園前の噴水前。
こういうのは男が先に着いているのが礼儀なのだろうが、普段はしない髪型のセットに時間が掛かってしまった。
時刻は10時10分、予定よりも10分遅れてしまっている。
さっきからスマホが何度も鳴っているが、後2分で到着するのだ。
内容を確認する必要はないだろう……決してビビっているわけじゃないぞっ。
「あッ、やっと来た!! 遅いぞ、楠ッ!」
「──ひぃッ! ごめんなさ──ぃ……」
彼女の声が聞こえ、ビクっと肩が跳ねた。
だが、声の下方向へ視線を向けると心臓は別の意味で鼓動を早める。
「ほんと、信じらんない。女の子を待たせるなんて」
「……」
「ちょっと聞いてる!? ねぇ」
ツカツカとヒールを鳴らし、近づいてくる彼女。
ワンピースのような白い服に、黒く長いスカート。
肩に掛けた装飾の少ない小さなカバン。
大人っぽく、それでいてどこか背伸びをしているような。
深みのある服装であった。
「意外だ……」
「服装? ふふーん、そうでしょうそうでしょう。これでもオシャレには気を──」
「めちゃくちゃ可愛い」
「……え?」
「ビックリした、本当に。可愛いが過ぎる」
今までの彼女のイメージとは全然違う。
煌めいていて、眩しい彼女も素敵だ。
けど、今の親しみ易さというか、お姉さん感も方向性の違う良さがある。
「か、可愛いって、そんなハッキリと……」
茜さんは顔を真っ赤にして視線を逸らす。
言われ慣れているだろうに。
「この可愛さ、作文にしてくる」
「なんでもかんでも作文にしてこなくても」
「いや、俺がしたいからするんだ」
「ま、まぁ、いいけど……でも、うん。可愛いって言ってくれたのは素直に嬉しい……かも」
女性には沢山の顔があると知識ではしっていたが、まさかここまで衝撃を受けるとは。
百聞は一見にしかず、とは正にこのことだな。
「それで茜さん、今日の予定とか決まってるの?」
「うん、朝ごはんは?」
「食べてない」
「んじゃ、とりまカフェでも行きますか。ふふん」
鼻歌を鳴らしながら、彼女は進んでいく。
さっきまで怒っていた筈なのに、相変わらず一人で忙しい人だ。
けど、ご機嫌な女の子の側にいるというのは何とも気分がいいものだ。
そう思いながら、俺は彼女の後ろについていく。
しばらく談笑しながら駅の中を進む。
俺たちの住んでる地域は田舎だから、若者が行くお店は結構駅周辺に密集しているのだ。
不意に茜さんが振り返り問いかけて来る。
「コーヒー、一緒に飲まない?」
「……夜明けの?」
「は?」
「あ、いや、なんでもない」
古い言い回しになるが、セックスの誘いをする時に「夜明けの珈琲を一緒に飲みませんか?」と言うものがある。
起源は不明、恐らくカフェなどが流行した大正時代に生まれた言い回しだろう。
古来より日本人は「月が綺麗ですね」のように遠回しに性行為交渉を行うところがある。
お淑やかでとてもいい国民性だと思うのだが、今の俺にとっては罠以外の何物でもない。
──それにもう一つ問題がある。
「じゃあこの店にしよッ! ……って、楠? 入らないの?」
「簡単に言ってくれるな……」
「え、ちょ、手と足が震えてる! 小鹿みたい!」
俺を指差して爆笑する茜さん。
目の前には若者が多数入店している珈琲屋「スタダ」。
彼女にはわからないだろう。
俺のような男にとって、このオシャレ空間がどれだけ恐怖の対象であるか。
見ろ、店員の、客の服装を。
お前ら自分を都会っ子だと勘違いしてんじゃねーのか?
ここは島根だぞ、島根。
そんな服装で畑仕事できると思ってんのか、できねーだろ!!
髪の毛もインナーカラーとか、マッシュヘアーとか、やめろ、怖いだろ。
あらやだ、〇〇さんちの〇〇ちゃん、垢抜けてぇ~って今頃おばちゃん達が噂してるぞ。
それに、店も店だよ!
なんだこのメニューの名前は、言えないだろ。
ふらぺんぺちーすとろべりーぷらんぽろんて? 今、客は何て注文した? 呪文か?
店員も普通に聞き取ってるけど、お前ら魔術師の血筋か何かですか?
こえーよ、日本語使えよ、コーヒーのSサイズ一つでいいじゃん。
「あはは、楠ぃー入るよー」
「僕には無理だょ……できっこないよ……」
「アンタ、そんなキャラだったっけ?」
「逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ……」
「はぁ、たく、仕方ないなぁ。ほら、おいで!」
「あっ、茜さん待っ──まだ、心の準備が……ぁ、ああ!!」
俺の手を握り、強引に店内へと引き摺り込まれる。
彼女の暖かい手、その感触に心躍らせる余裕など、今の俺には無かった。
待ち合わせ場所は公園前の噴水前。
こういうのは男が先に着いているのが礼儀なのだろうが、普段はしない髪型のセットに時間が掛かってしまった。
時刻は10時10分、予定よりも10分遅れてしまっている。
さっきからスマホが何度も鳴っているが、後2分で到着するのだ。
内容を確認する必要はないだろう……決してビビっているわけじゃないぞっ。
「あッ、やっと来た!! 遅いぞ、楠ッ!」
「──ひぃッ! ごめんなさ──ぃ……」
彼女の声が聞こえ、ビクっと肩が跳ねた。
だが、声の下方向へ視線を向けると心臓は別の意味で鼓動を早める。
「ほんと、信じらんない。女の子を待たせるなんて」
「……」
「ちょっと聞いてる!? ねぇ」
ツカツカとヒールを鳴らし、近づいてくる彼女。
ワンピースのような白い服に、黒く長いスカート。
肩に掛けた装飾の少ない小さなカバン。
大人っぽく、それでいてどこか背伸びをしているような。
深みのある服装であった。
「意外だ……」
「服装? ふふーん、そうでしょうそうでしょう。これでもオシャレには気を──」
「めちゃくちゃ可愛い」
「……え?」
「ビックリした、本当に。可愛いが過ぎる」
今までの彼女のイメージとは全然違う。
煌めいていて、眩しい彼女も素敵だ。
けど、今の親しみ易さというか、お姉さん感も方向性の違う良さがある。
「か、可愛いって、そんなハッキリと……」
茜さんは顔を真っ赤にして視線を逸らす。
言われ慣れているだろうに。
「この可愛さ、作文にしてくる」
「なんでもかんでも作文にしてこなくても」
「いや、俺がしたいからするんだ」
「ま、まぁ、いいけど……でも、うん。可愛いって言ってくれたのは素直に嬉しい……かも」
女性には沢山の顔があると知識ではしっていたが、まさかここまで衝撃を受けるとは。
百聞は一見にしかず、とは正にこのことだな。
「それで茜さん、今日の予定とか決まってるの?」
「うん、朝ごはんは?」
「食べてない」
「んじゃ、とりまカフェでも行きますか。ふふん」
鼻歌を鳴らしながら、彼女は進んでいく。
さっきまで怒っていた筈なのに、相変わらず一人で忙しい人だ。
けど、ご機嫌な女の子の側にいるというのは何とも気分がいいものだ。
そう思いながら、俺は彼女の後ろについていく。
しばらく談笑しながら駅の中を進む。
俺たちの住んでる地域は田舎だから、若者が行くお店は結構駅周辺に密集しているのだ。
不意に茜さんが振り返り問いかけて来る。
「コーヒー、一緒に飲まない?」
「……夜明けの?」
「は?」
「あ、いや、なんでもない」
古い言い回しになるが、セックスの誘いをする時に「夜明けの珈琲を一緒に飲みませんか?」と言うものがある。
起源は不明、恐らくカフェなどが流行した大正時代に生まれた言い回しだろう。
古来より日本人は「月が綺麗ですね」のように遠回しに性行為交渉を行うところがある。
お淑やかでとてもいい国民性だと思うのだが、今の俺にとっては罠以外の何物でもない。
──それにもう一つ問題がある。
「じゃあこの店にしよッ! ……って、楠? 入らないの?」
「簡単に言ってくれるな……」
「え、ちょ、手と足が震えてる! 小鹿みたい!」
俺を指差して爆笑する茜さん。
目の前には若者が多数入店している珈琲屋「スタダ」。
彼女にはわからないだろう。
俺のような男にとって、このオシャレ空間がどれだけ恐怖の対象であるか。
見ろ、店員の、客の服装を。
お前ら自分を都会っ子だと勘違いしてんじゃねーのか?
ここは島根だぞ、島根。
そんな服装で畑仕事できると思ってんのか、できねーだろ!!
髪の毛もインナーカラーとか、マッシュヘアーとか、やめろ、怖いだろ。
あらやだ、〇〇さんちの〇〇ちゃん、垢抜けてぇ~って今頃おばちゃん達が噂してるぞ。
それに、店も店だよ!
なんだこのメニューの名前は、言えないだろ。
ふらぺんぺちーすとろべりーぷらんぽろんて? 今、客は何て注文した? 呪文か?
店員も普通に聞き取ってるけど、お前ら魔術師の血筋か何かですか?
こえーよ、日本語使えよ、コーヒーのSサイズ一つでいいじゃん。
「あはは、楠ぃー入るよー」
「僕には無理だょ……できっこないよ……」
「アンタ、そんなキャラだったっけ?」
「逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ……」
「はぁ、たく、仕方ないなぁ。ほら、おいで!」
「あっ、茜さん待っ──まだ、心の準備が……ぁ、ああ!!」
俺の手を握り、強引に店内へと引き摺り込まれる。
彼女の暖かい手、その感触に心躍らせる余裕など、今の俺には無かった。
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