誰とでも寝る黒ギャルビッチな彼女が僕の『彼女』になるまで

あむあむ

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第四話

夏の始まりは官能的だ6

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 繋がった。俺は、セックスだけが『愛を証明する』と思い込んでいる彼女に対して言った。

「楠は言ったね、『性欲と好意は別だ』って」
「性欲×好意=興奮、だって」
「言葉を失ったわ、愛される為に、好意を向けられる為に身体を投げ払った私にとっては信じられない言葉だった」
「……あの時、茜は否定せず、驚いただけだったよな」
「楠が勃起してなかったのが、何よりの証明になってしまったから、否定することすらできなかったのよ」
「気が付いてるんだろ? 俺は緊張で──」
「後からね。冷静な状態なら、気が付いたかもしれないけど、もう頭はぐちゃぐちゃ錯乱状態、だったら何故、彼らは私を抱いたのだ、と」
「……」
「お前の考えは間違っている、だって、他の男は私を見て興奮するのだ。身体さえ使えば、皆私に好意を向けてくれるはずなんだ!」
「イレギュラーだったわけだ、俺は」
「そのせいで、自分が求めていた『愛情』って何か、分からなくなった。と、同時に悔しかった、全部変えて、捨てたのに。コイツはそんな私の行動を否定した。許せなかった」

 そうするつもりはなかったけど、結果的に彼女の行動理由を否定する形になってしまっていたのか。

「だから、意地になって俺に固執した」
「お弁当を渡した日、もう楠が本当は簡単に興奮するちょろい童貞だってこと分かってたんだよ?」
「酷い言い方だな……じゃあ、なんであの時言わなかった?」
「……気が付いちゃったの、楠と会話している時の方が男に抱かれている時よりも、段違いに幸せだって」

 俺が彼女と友達になりたい、と願うようになったきっかけも多分あの日。全く別の世界の人だと思ってたけど、同じこと考えてたのか。

「まだ、自分の気持ちが良く分からなかったから、遊びに誘ったりした。すると、もっと楽しくて、幸せになった。明日も、また明日もって、願うようになった」
「それと同時に、罪悪感が生まれた、『自分のような人間が、仲良くしていいのか』って」
「うん、だから今までの行為を清算しようとした。全部スッキリさせて、楠と友達になれるような人になろうって。二日休んで考えた結果だよ」
「二日って……じゃあ、あの雨の日は」
「三日目、学校に行こうとした時、彼から連絡があった『ヤらせろ』って。彼らとの関係を切るいい機会だと思って、別れを告げる為に呼び出しには応じた。そこで、無理矢理犯されそうになって、楠の顔が頭の中で何度もフラッシュバックして、逃げ出したの」

 制服姿でびしょ濡れのまま、ボーっと突っ立ってたのはそれがあったからか。あの、虚空を見つめる瞳にはそんな経緯があったのか。

「彼は言った『お前なんて、身体くらいしか価値の無い屑だ』って。穢れた身体は二度と、綺麗になることはないと知った私は絶望した。でもね、それ以上に……楠、貴方と仲良くなりたいと思って来たの」
「……どうして?」
「雨の日、心底心配してくれたでしょ? 本気で、抱いても無い相手を」
「あぁ、俺は本当に茜のことが心配でたまらなかった」
「嬉しかった。本当に。友達になろうって言ってくれたこと。そして、二つ確信した『愛の証明』はセックスじゃないって、愛は数じゃないって……これが、私の『茜 夏希』の正体だよ、楠」

 全てを伝え終えた後、彼女は俺の手を離すと膝の上に手を乗せ俯く。
 刑の執行を待つ罪人のように。
 俺は出来る限り腕を伸ばし、膝の上の手に自分の手を重ねる。

「……茜、全部話してくれてありがとう」
「ごめんね……こんなんじゃ、友達になれないよね……せっかく、ボロボロになってまで守ってくれたのに」

 甲に雫がぶつかり、指の隙間に入り込む。
 ポタ、ポタと、静かに、止まる事なく。
 今、伝えなくて、何時、伝えるというのだ。
 男を殴った時に気が付いた自分の気持ちを。

「茜、俺も同じ風に思ってた『自分じゃ相応しくない』って」
「えっ、楠も……?」
「あぁ、だけど『相応しくない』なんて理由で、この気持ちを止めることはできない。全てを投げ捨ててでも、自分の事よりも大事だと分かった時、俺はどうしても……茜、お前からの愛が欲しくなった」
「──っ……それって……」
「しがらみなんて関係ない。友達では満足できない。もっともっと、俺の手で茜を笑顔にしたい、だから──」

 息を吸い、吐いて、手を握り、目線を合わせ、告げる。

「俺と結婚してくれ、茜」

 言った。言い切った。俺の気持ちの正体は、これだった。
 今まであった心の中のモヤモヤは、全て恋心だったのだ。
 病室に沈黙が続く。
 茜は驚いたように目を見開くと、もっと大粒の涙を流し始めた。
 そして、絞るような声で呟く。

「私、穢れてるよ?」
「関係ない」
「周りから変な噂されちゃうよ?」
「関係ない」
「この間の男だって、また絡んでくるかもしれないよ?」
「だったら、筋トレして次は勝てるようになっておかないとな」
「……めんどくさい、女だよ」
「俺は、茜を愛している。そんなところも全部含めて、だ」
「だからって、結婚は飛躍しすぎでしょ」
「それだけの覚悟がある。茜、返事を聞かせてくれないか?」
「本当に……本当にいいんだね?」
「絶対に、一生、愛し続ける」
「──ッ、馬鹿……」

 茜は、俺の近くまで寄り添うと、顔をこちらに向け唇を重ね合わせて来た。
 押し付けるのではなく、お互いを確かめ合うような、優しい口づけ。

「……嬉しい。私も、楠を愛し続ける……だから、結婚しよう」
「ほ、本当か!?」
「今更嘘は言わないでしょ。さっきまでかっこよかったのに、急に童貞的なリアクションするね」
「……ヤバい、めちゃくちゃ嬉しい」
「私の穢れ、楽しい思い出で上書きしていってね……真一」

 微笑む彼女の表情から溢れる涙の意味は、既に変わっていた。
 涼し気な風と乾いた空気、穏やかな時間の流れる病室の中で俺達は将来を誓い合ったのだ。

 これから、楽しみと同時に、沢山の苦難が待ち受けていることだろう。
 けど、この手を絶対に離さないと。彼女を幸せにしてみせると。
 俺は、硬く決意をした。
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