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第四話
夏の始まりは官能的だ5
☆☆☆
「……知らない天井だ」
光を感じ瞳を開くと、真っ白な天井が広がっていた。
ふかふかの布団に腕に繋がった点滴で、ここが病院だと理解する。
気絶してしまったのか。
あれだけ殴られたんだ、気絶で済んだだけで儲けものだな。
でも、この左手に感じる暖かい物はなんだろう。
カイロか? それにしては柔らかいような。
「よかった、起きたんだね、楠」
「あッ、茜」
横では彼女が手を握りしめ、俺の顔を覗き込んでいた。
瞳は赤く、頬はパリパリに乾燥している。
俺の為に泣いてくれたのだろうか?
「心配かけてごめん、もう大丈──ッ、いっ」
上半身を起こそうとすると、急に今まで感じていなかった分の痛みが一気に全身に走る。これは、しばらくは身動きとれそうにない。
「まだ寝てなきゃだめだよ、いたるところ打撲してるんだから」
「みたいだな……ここまで運んでくれたのか?」
「救急車呼んで、林檎ちゃんから両親に連絡したの。楠の家族はみんな優しいね。私のせいで子供がこうなっちゃったのに」
「なんて言ってた?」
「全部事情を話したら、お父さんは『男になった』お母さんは『まだ足りない』、林檎ちゃんは『後はよろしく』だって」
「どこが優しいんだか……いや、優しいか」
全部話したって事は、俺が殴り合った『理由』も伝えたのだろう。
それを全て理解した上で、深く詮索はしないでくれたのだ。
しかも、茜と二人っきりにしてくれた。
子供の成長は見守るタイプだとは知っていたけど、ここまでとは。
ありがたい。
「茜は大丈夫なのか? 突き飛ばされてたけど」
「うん、大丈夫だよ。ちょっと擦りむいただけ」
「クソ、アイツ、許せないな」
「……ねぇ、楠……本当に、ありがとう。私の代わりに怒ってくれて」
「別に、俺がしたかったから、やっただけだから」
「それでも、私はしっかり貴方に義理を果たしたい。彼が言っていたこと、今まで私が隠していたこと、全部聞いてくれる?」
「あぁ、聞かせてくれ」
茜は更に震える手で強く俺の手を握りしめると、ゆっくりと語り始めた。
男が言っていた事は、全て真実らしい。
自分から抱いてくれ、と頼んだのも、セックス依存症だということも。多数の男と関係を持っていたことも。
そうなった理由は、家庭環境にあると彼女は話した。
「今、私は一人暮らしをしているの。お金は全部、両親が出してくれてる」
完全放任主義、というより親は仕事が忙しく殆どあったことがないのだとか。
支払いは全部カード、欲しい物は全部買ってもらえた幼少期、使用人が身の回りの世話は全部してくれるという超金持ちの家庭。
何不自由無い生活だった、でも子供のころの彼女は両親の『愛』を感じたことはなかった。
家を出て、一人暮らしを始めると言えば少しは心配してくれるだろう。
そう思い、中学2年生の時に一人暮らしを始める。
だが、親からはお金と、生きていることを確認する為の使用人が一人送られただけだった。
「これ、見て。中学生の時の私」
「えッ……この子が、茜!?」
真っ黒な髪に大きな丸眼鏡、瞳は半開きで目の下には濃い隈が刻まれている。まるで夜中に見る和風人形のような不気味ささえ感じた。
「暗いでしょ? この風貌と、性格のせいで毎日毎日、酷いイジメを受けてたの」
「でも、使用人がいたんだろ? 助けてくれなかったのか?」
「……むしろ、脅されたわ。面倒な事を起こすな、って。あの人は、私に送られたお金を使って今も遊んでるでしょうね」
「そんな……ッ!」
「私は誰にも好かれない、愛されない。虚しかった、孤独だった……そんな時に出会ったのが、あの男なの」
いじめでボロボロになった制服で、夜の街を歩いている時に声を掛けられたらしい。可愛いね、と。
人からそんな言葉を掛けられたことの無かった上、既に精神的にも限界だった彼女は、男についていったらしい。
「場所はカラオケボックス、彼は歌うことなく、直ぐに私に襲い掛かってきた。あぁ、犯されるって思ったけど、どうでもよかった」
「……」
「でも、その時初めて必要とされた感覚がした。ただの性処理だってことは分かってる。都合のいい女が手に入ったって思われていることも」
話を聞いているだけで、男に対する嫌悪感で吐き気がしそうだった。
どうして、彼女がこんな目に遭わないといけない。
「抱かれる、それが私にとって唯一『愛を証明する』方法だったの。孤独感を癒すために、男が集めた別の人ともした。地味な服装は嫌われると思って、露出の激しい物にした、髪色だって、口調だって、仕草だって、彼らに可愛がられるために必死に変えた」
だから、違和感があったのか。
派手なギャルの印象だけど、それだけじゃないと感じていたのは。
作られたものだったんだ。
「そして、あの日……エスカレートした彼は、私に命令したわ。援助交際をしてこい、おっさんと寝て金を稼いで来いって」
「──っ……それって」
噂の一つ、おっさんと並んでホテルにいるのを見たって。
「家の事を隠していたから、私からお金を取ることはなかった。でも、代わりに金稼ぎの道具にしようとしてきたのよ」
「じゃ、じゃあ、茜は知らないおっさんと援交を……?」
「ううん、ギリギリのところで踏みとどまったよ。でも、それを聞いた彼は私に『罰ゲーム』を命令したの」
「罰ゲームって……あッ!!」
「……私が楠を襲った日のことね」
「……知らない天井だ」
光を感じ瞳を開くと、真っ白な天井が広がっていた。
ふかふかの布団に腕に繋がった点滴で、ここが病院だと理解する。
気絶してしまったのか。
あれだけ殴られたんだ、気絶で済んだだけで儲けものだな。
でも、この左手に感じる暖かい物はなんだろう。
カイロか? それにしては柔らかいような。
「よかった、起きたんだね、楠」
「あッ、茜」
横では彼女が手を握りしめ、俺の顔を覗き込んでいた。
瞳は赤く、頬はパリパリに乾燥している。
俺の為に泣いてくれたのだろうか?
「心配かけてごめん、もう大丈──ッ、いっ」
上半身を起こそうとすると、急に今まで感じていなかった分の痛みが一気に全身に走る。これは、しばらくは身動きとれそうにない。
「まだ寝てなきゃだめだよ、いたるところ打撲してるんだから」
「みたいだな……ここまで運んでくれたのか?」
「救急車呼んで、林檎ちゃんから両親に連絡したの。楠の家族はみんな優しいね。私のせいで子供がこうなっちゃったのに」
「なんて言ってた?」
「全部事情を話したら、お父さんは『男になった』お母さんは『まだ足りない』、林檎ちゃんは『後はよろしく』だって」
「どこが優しいんだか……いや、優しいか」
全部話したって事は、俺が殴り合った『理由』も伝えたのだろう。
それを全て理解した上で、深く詮索はしないでくれたのだ。
しかも、茜と二人っきりにしてくれた。
子供の成長は見守るタイプだとは知っていたけど、ここまでとは。
ありがたい。
「茜は大丈夫なのか? 突き飛ばされてたけど」
「うん、大丈夫だよ。ちょっと擦りむいただけ」
「クソ、アイツ、許せないな」
「……ねぇ、楠……本当に、ありがとう。私の代わりに怒ってくれて」
「別に、俺がしたかったから、やっただけだから」
「それでも、私はしっかり貴方に義理を果たしたい。彼が言っていたこと、今まで私が隠していたこと、全部聞いてくれる?」
「あぁ、聞かせてくれ」
茜は更に震える手で強く俺の手を握りしめると、ゆっくりと語り始めた。
男が言っていた事は、全て真実らしい。
自分から抱いてくれ、と頼んだのも、セックス依存症だということも。多数の男と関係を持っていたことも。
そうなった理由は、家庭環境にあると彼女は話した。
「今、私は一人暮らしをしているの。お金は全部、両親が出してくれてる」
完全放任主義、というより親は仕事が忙しく殆どあったことがないのだとか。
支払いは全部カード、欲しい物は全部買ってもらえた幼少期、使用人が身の回りの世話は全部してくれるという超金持ちの家庭。
何不自由無い生活だった、でも子供のころの彼女は両親の『愛』を感じたことはなかった。
家を出て、一人暮らしを始めると言えば少しは心配してくれるだろう。
そう思い、中学2年生の時に一人暮らしを始める。
だが、親からはお金と、生きていることを確認する為の使用人が一人送られただけだった。
「これ、見て。中学生の時の私」
「えッ……この子が、茜!?」
真っ黒な髪に大きな丸眼鏡、瞳は半開きで目の下には濃い隈が刻まれている。まるで夜中に見る和風人形のような不気味ささえ感じた。
「暗いでしょ? この風貌と、性格のせいで毎日毎日、酷いイジメを受けてたの」
「でも、使用人がいたんだろ? 助けてくれなかったのか?」
「……むしろ、脅されたわ。面倒な事を起こすな、って。あの人は、私に送られたお金を使って今も遊んでるでしょうね」
「そんな……ッ!」
「私は誰にも好かれない、愛されない。虚しかった、孤独だった……そんな時に出会ったのが、あの男なの」
いじめでボロボロになった制服で、夜の街を歩いている時に声を掛けられたらしい。可愛いね、と。
人からそんな言葉を掛けられたことの無かった上、既に精神的にも限界だった彼女は、男についていったらしい。
「場所はカラオケボックス、彼は歌うことなく、直ぐに私に襲い掛かってきた。あぁ、犯されるって思ったけど、どうでもよかった」
「……」
「でも、その時初めて必要とされた感覚がした。ただの性処理だってことは分かってる。都合のいい女が手に入ったって思われていることも」
話を聞いているだけで、男に対する嫌悪感で吐き気がしそうだった。
どうして、彼女がこんな目に遭わないといけない。
「抱かれる、それが私にとって唯一『愛を証明する』方法だったの。孤独感を癒すために、男が集めた別の人ともした。地味な服装は嫌われると思って、露出の激しい物にした、髪色だって、口調だって、仕草だって、彼らに可愛がられるために必死に変えた」
だから、違和感があったのか。
派手なギャルの印象だけど、それだけじゃないと感じていたのは。
作られたものだったんだ。
「そして、あの日……エスカレートした彼は、私に命令したわ。援助交際をしてこい、おっさんと寝て金を稼いで来いって」
「──っ……それって」
噂の一つ、おっさんと並んでホテルにいるのを見たって。
「家の事を隠していたから、私からお金を取ることはなかった。でも、代わりに金稼ぎの道具にしようとしてきたのよ」
「じゃ、じゃあ、茜は知らないおっさんと援交を……?」
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「罰ゲームって……あッ!!」
「……私が楠を襲った日のことね」
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