巫女とシスター2人の天使

よすぃ

文字の大きさ
上 下
5 / 178
一人目の天使(エンジェル)

04 愛ちゃんの思いつき

しおりを挟む

 四話 愛ちゃんの思いつき

 
 学校が終わったオレはすぐに愛ちゃんとの待ち合わせ場所に向かう。

 ー……と、その前に。


「頼むな。」


 オレは歩きながら誰もいない方向に話しかける。
 そう…一般的に見たら誰もいないのだが、そこにいるのは仲のいい浮遊霊。

 友達のいないオレにとっての唯一の話し相手ってところか。
 オレは万が一愛ちゃんに何かあった時のことを想定して、こうして浮遊霊にサポートをお願いした。


『任せろ。その時は俺がその霊の足引っ掛けてやるから、その隙に逃げるなり除霊させるなり好きにしな。』


 浮遊霊は親指を立てながら頼もしい笑顔をオレに向けた。


◆◇◆◇


 待ち合わせ場所に向かうとすでに愛ちゃんの姿が。
 一人で勝手に行動しないあたり、本当にいい子。


「それで愛ちゃん、思いついたことってどんなの?」


 シンプルに気になっていたので先に尋ねる。


「んー?あの霊が出てくるまで内緒ー。」


 愛ちゃんは人差し指を唇に当てながらいたずらに微笑んだ。


 やがてあの影の出てきた場所ー…アスファルトの橋の手前に到着する。

 オレは周囲を見渡す。

 ー…よし、大丈夫そうだな。

 実はさっきの浮遊霊一体だけではなく、複数の浮遊霊たちに協力を仰いでいたのだ。
 浮遊霊たちは見つからないようなところで隠れてスタンバイしている。
 …今度甘酒でもお供えしてやらないとな。

 しばらくそこで立っていると橋の下から昨日と同じ影がゆっくりと這い上がってきた。
 愛ちゃんはオレの手を握りながらその影を確認する。
 …さて、愛ちゃんがどんな行動に出るのか。


 でもその先にー…。


「なぁ、何かオレたちに用でもあるのか?」

 オレは愛ちゃんの前に立ちながら影との会話を試みる。


『オ……ノ、テ……。ワ……タイ。』


 やはり何言ってるかわからない。


「愛ちゃん、何言ってるかわかる?」


 オレの問いに愛ちゃんは首を横に振る。
 会話が成立しないなら何をやっても無駄だ…オレは手に霊力を込めて影にかざした。


「お兄ちゃん、ちょっと待って!」


 愛ちゃんがオレの腕を引っ張り、行動を止める。


「でも愛ちゃん、話通じないならもう…。」

「その子…泣いてるよ?」


 ー…ん?


 本当だ、よく見ると目のあたりから涙のようなものが絶え間なく流れている。
 てっきり川の水が滴ってるだけだと思っていたよ。

 しかしそれがわかったところでなんの解決にもなっていない。
 そう考えていると愛ちゃんはオレの手を握りながらゆっくりと影の方へと歩み近づいていく。


「愛ちゃん!?」

「だいじょうぶ。」


 愛ちゃんと影との距離が徐々に縮まる。


『おい良樹、大丈夫なのかよ!』

  
 斜め上から小声で浮遊霊がオレに声をかける。


「襲いかかってきたらマジで足止め頼む。」

『あいよ。』


 オレは影の動きに集中。


「ー…ねぇ、ゆっくり私に話して?」


 愛ちゃんはそう優しく語りかけると、影にゆっくり耳を近づけた。

 あいつが襲ってくるタイプじゃなかったのが何よりの救いだ。
 影は愛ちゃんの耳に顔を近づけてゆっくりと話だした。


『オカ…サンヘノ、テ、ガミ…ワタ、シ…タイ。サガ…テ。』


「お母さんへの手紙?…探して欲しいの?」


 愛ちゃんが聞き返すと影は小さく頷く。

 …いやいや。
 そんなの学校にあるかもしれないし、それが外なら雨に濡れたり…それ以前に川に落としたのだったらもう破れたりしてもうないだろ。
 それにいつの話だよ。

 現実的に不可能なお願いにオレはため息をついた。

 愛ちゃんには悪いが時間の無駄だ。
 どうやって断ろう…。
 そんなことを考えていると…。


『仕方ねーな、俺らが手伝ってやるよ。』

「ん?」


 気づけばオレや愛ちゃん、影の周囲のはスタンバイしていたはずの浮遊霊たち。


『もう危険じゃないってわかったし、隠れてなくてもいいだろ。』

「まぁー…うん、そうだけど…。」

『ちょっと待ってな、俺が詳しく聞いてやるよ。』


 一体の浮遊霊が影の周囲を回るように数回浮遊。


『あー…なるほどな。大変だったなぁお嬢ちゃん。』


 浮遊霊はそう影に声をかけた後、オレたちに説明を始めた。

 なんでもあの子は数ヶ月前の大雨で学校の帰り道で川に流された。
 当時その子のランドセルの中には学校で書いた母親に向けた手紙が入っていて、もうそれでしか母親に気持ちを伝えることができない。
 だから……。


 ー…ということらしい。


「なるほどなぁ…。」


 だから川の中に潜ったりしながらその手紙を探していたのか。
 そんな理由を聞かされたら断りづらいじゃないか。


「じゃあさ、探そうよ!」


 愛ちゃんはオレから離れ、川へ降りようと試みる。


「いや、ちょっと待って!」


 オレは咄嗟に愛ちゃんの手を掴む。

 ー…愛ちゃんがそこまで本気なら、仕方ないか。

 オレは愛ちゃんの目の高さまでしゃがみこむ。


「川は危険だから上から探そう。水の近くは浮遊霊たちに任せればいいから。」


 オレは浮遊霊たちに視線を移す。


『今度お刺身頼むぜー。』

「…わかったよ。」

『よっしゃお前ら!この霊のお嬢ちゃんとお刺身のために頑張るぞ!』

『『おおーーーーーー!!!』』


 こうして日が暮れるまでの大捜索が始まったのだった。


しおりを挟む

処理中です...