ここはヒロインのための世界です! 〜超ヒロイン推しのお助けキャラは、今日も周囲から溺愛されまくっている〜

雪葉

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幼少期編

思春期のやる気スイッチとは

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 引き続き平和な天気の下、庭を眺めている私である。

 勝利報酬ではなく負けた人への罰ゲームの内容を考え、さぁどうぞ試合を始めてくださいと後は丸投げしたのだが。

「…………」

 口の中に我が家の料理人さんが作ってくれたお菓子を入れながら、呟く。

「…………いや、何やってんの? あの人らは」

 ドロテア無言。そうだよね、分かんないよね見てても。


 庭に居るユーリとヴィクトール、その二人が。
 動かないのである。

 そう、何故か!
 宣言をしてから5分~10分ほど経ったのに、一切!! 動かないのである!!

 いやもうなんか逆にメチャクチャやる気無くしてない?
 二人とも剣持ったままちょっと項垂れてるよ?

「二人して急にお腹痛くなったんかな」
「……多分違うと思いますけれども……」
「じゃあ……ハッ?! も、もしかして二人ともまだ試合すら始めてないとか?!
分かった、今すごく高度な心理戦を進めてるんだ!! どちらかが動き出したら最後、そこは誰をも割って入れぬ戦場、みたいな?!」
「…………」

 また無言になるドロテアだが、何となく私は分かったぞ。
 所謂、

『早く刃を抜きなよ』
『……そちらこそ』

 みたいな心理戦をやってるわけですね、理解できた!!
 ほらなんか見た感じ二人とも会話してるっぽいし! いやーさすが、この世界の貴族男子は高度だなやり取りが。


 ────一方。
 一応、ウィルヘルミナの言う通り、彼らの会話は続けられていた。本当に、一応。

「…………」
「…………」
「……どうしたのかな? ユーリ。向かってこないのかい?」
「……ヴィクトール義兄上こそ、先程からやる気が全く見られませんが、いかがされました」
「いやぁ実はちょっと腰が痛くて、だから動いたらすぐ崩れ落ちちゃうかなーみたいな。そうしたら負けになるなぁ」
「……かくいう私もちょっと肩の調子が」
「おや、調子が悪いのに勝負しようなんて言ったの? まさかそんな変なことをする君ではないよね?」
「いえ勝負をお願いした時は大丈夫だったんですがここに来て突然。誠に申し訳ありませんが義兄上の不戦勝ということにしませんか?」
「おっと待ちなよ。それはおかしいんじゃない? 片方の一方的な言葉で勝敗が決まるだなんて。とにかく一度剣を私の方に振りかざしてみたらどうかな?
そうしたらきっと私は腰の痛みに耐えきれずにその場に倒れて、君が勝てるから」

 そんな会話が延々と繰り広げられているのである。
 心理戦といえば心理戦、かもしれない。高度かどうかはさておき。

 そう、二人とも察しているのである。
「どちらかが始めればその瞬間、剣を受けたもう片方がさも弱々しく倒れ負けを宣言してしまうであろう」ということを。
 だからこそ下手に動けず、まるでやる気のないような姿勢になってしまうのだ。

「……それにしても」

 ヴィクトールがふと呟いた。

「あの子ってほんと残念な所あるよね」
「それはごもっともだと僕も思います」



「あの二人、全然始めないな……」

 退屈になってきたわ。
 頬杖をつきながら長らく観察していたが、そろそろ若干飽きてきた。ていうか、ただ見てる側の人間からすると焦れったい。

 何気なく傍らにある自作クッキーを見つめて、中身を一つ摘んでみる。
 サクリ。

「うん、普通」

 決して職人の味などではなく。さりとてこの世の劇薬のようなヤバい味もせず。
 普通である。

「見てるだけなのも退屈だね~……もぐもぐ」
「……まぁ、お嬢様から見た光景ではそうでしょうね……」
「まさか、そんなにこのクッキーが食べたくないのかしら。
万が一負けたら地獄が待ってるから迂闊に動けないとか」
「それは無いです。だから何でそんな考えになっちゃうんですか」
「だって他に原因が、もぐ、考えられないし……」
「……あの、ところで。お嬢様のお作りになられたクッキーの残量がどんどん減っていっているんですが……」

 いやーたまには素人の素朴な味もいいよね。私味がよければ形とか全く気にしないし。
 みたいなこと考えながら眺めてたら、いつの間にか自作クッキーの中身をどんどん吸収していっていたようである。

「お嬢様! その辺りで一旦お止めくださいませ!」
「むぐっ!? ……えっ何、どうしたの…………あ」

 やべ。
 気付いたら残り2枚だった。

(まぁそもそもそんなにたくさん焼いたわけじゃないしな……)

 中身がめちゃくちゃ寂しくなってしまったそれらから慌てて手を離す。

「危ない危ない。罰ゲーム用だもんねこれは。1枚でもいいから残しとかないと」
「あの、その「罰ゲーム用にする」というのをそろそろやめませんか? そうでないとお二人とも一生動かないですよ」
「どういう覚悟なのそれ」

 あんな所に永遠に突っ立ってたら足から根が土に向かって生えるし苔もむすよ。ちょっと意味の違った植物人間になってしまう。

 思わずツッコんだ私に、ドロテアがしゃきっとした目で私を見つめながら言った。

「お嬢様からお許しをいただけるなら、私のご提案した内容を新たにお二人にお伝えしてもよろしいでしょうか?」
「提案した内容? どんなやつ?」
「ご想像にお任せします。ただ、これで確実にお二人は勝負を始めなさるかと」

 おおう、すごい自信だ。
 そこまで言うのなら特に私がどうこう言う気は無い。
 というか、そもそも適当に思いついたこと二人に言っただけだし。自作クッキーのことも別にどうしてくれようが問題ないです。

「全然いいよー。私には元々荷が重すぎる提案だったしねアレ。お願いできるなら是非お願いします」
「ありがとうございます。それでは」

 丁寧なお辞儀で返してくれるドロテア。
 そしてスッと立ち上がり、よく通る声で叫んだ。

「ヴィクトール坊ちゃま、ユーリ様!! 勝負の内容が一部変更されました!! これよりウィラお嬢様のお作りになったクッキーは、「勝負に勝った者」に与えられることとなります!!
さぁ、存分に剣を交わし合ってくださいませ!!」


 ────その瞬間、ガキィィィンッ!! と、剣同士が勢い良くぶつかり合う音が庭に鳴り響いた。

「…………」

 我、暫しの間絶句。

「ね、言った通りでございましたでしょう?」

 ドロテアがにっこりと微笑みながら言う。
 対する私は、引き攣った顔をするしかない。

「…………ええ…………?」

 思春期男子のやる気スイッチ、よく分からないです。



 そうして始まった剣術試合だが、結果はまさかの引き分け。
 なので余っていた2枚のクッキーは、ボロボロになった二人それぞれの口の中に入ったのでした。

 ……一応2枚残しといてよかったな。終始意味不明だったけど。

「とても美味しいです、ウィラ。ありがとうございます」
「はぁ……、こちらこそ食べていただきありがとうございます……?」

 そんなわけ無いやろと思いつつも恒例のロイヤルな優しさにお礼を言っておく。

「ところで、どうして君はこのクッキーを罰ゲーム用にしよう、なんて思ったんだい?」
「え? どうしてって……」

 ヴィクトールからの問いにきょとんとした顔になる。
 何でと言われましても。

「普段お二人はプロの作るお料理を口になさってるじゃないですか。そんなお二人にとって喜ぶものなんて、私には特に思いつかなかったですし……」
「…………」
「それなら、私の作った素人味のクッキーを罰ゲームとして出すのが一番いいかなと。これなら二人とも「あんなクッキー食いたくねえ!」って感じでやる気出すと思ったんですけどねえ」
「…………」

 おっとこの目は知ってるぞ! さっきドロテアさんからいただいた、可哀想な子を見るような目だ!!
 そして。

「…………はぁ」
「……全く、君という子は……」

 二人して盛大にため息をつきやがりました。
 今日はなんか散々こういう雰囲気出されてる気がする。許しがたき。

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