13 / 41
第13話 心を許せる仲間
しおりを挟む「3人共。目を輝かせてるところ悪いけど、本来のダンジョンのことを忘れてない?」
僕は真剣に語りかける。
彼女達に現実を知ってもらうために。
「は? 本来のダンジョンだって?」
ソルさんが間抜けな顔をする。シルヴィさんやアリアさんもよく分からないという顔をする。
「思い出してみてよ、君たちが今まで聞いたダンジョンってどんな感じだっけ?」
そう言うと3人は考えだし、すぐさま真剣で苦虫を噛みつぶしたような顔に変化する。
「……ダンジョンは危険な存在で見つけたら直ちに冒険者ギルドに報告すること」
「……この国でも多くの人が、他の国もダンジョンによって相当な被害を受けたらしいわ」
「……魔物氾濫、国の一大事」
「そう。ダンジョンは普通なら人類の敵だ、生物を魅力的なもので集め、それをダンジョン内のモンスターが殺しにかかる。放置していればダンジョンの限界量を越えて魔物氾濫が起こり、村や町を襲っては絶望を撒き散らす。……間違っても、安全にお宝や資源が手に入る場所じゃない」
3人は黙って僕の声に耳を傾ける。
「僕がたまたま人で、殺生が嫌いだったから良かっただけで、これが極悪人や犯罪者、……正直、元悪人やただ性格の悪いダンジョンマスターだったとしてもどうなっていたか……」
それを聞いた彼女達は、顔を青ざめて震えだす。いかに自分達が軽率なことをしていたのかを実感したみたいだった。
「だから真剣に聞いてほしい。僕は人を殺したい訳じゃない。それでも、ここはダンジョンだから、様々な思惑や悪意がこれから先、たくさん降り注ぐと思う」
震えながらも、真剣に聞こうとする彼女達。
「多分これから先、国や教会、ギルド。モンスターや人外と呼ばれる存在も動き出すと思います。僕はこの世界でたった一人のダンジョンマスターですから」
「僕は、3人に出会って、会話して、協力してほしいと思いました。しかし、それはそれは危険な道です。だから、僕は3人がこのまま町に戻り、冒険者ギルドに報告してもいいし、知らなかったことにして日常に戻るのもいいと思ってます。……時間はあるからよく考えてほしい」
……僕は目を閉じ、じっと待つ。彼女達がどんな選択をとったとしても、僕は気にしない。ただ、一緒に笑い会えるような関係になれたら……と思う。
「――決めたわ」
「――決めたぜ」
「――決めた」
……早いな、もう決まったのか。
僕はあえて声を出さない、彼女達から答えを聞くまで。
いや、声は出せないと言った方がいいか。それだけ、今の僕は緊張していた。
「「「私(俺)たちはあなた(あんた)に付いて行く」(ぜ)」(わ)」
「…………え?」
聞こえた言葉に、思わず声が出る。
「本当に?」
信じられない僕は、彼女達にもう一度聞いてしまう。
「もう! あなたに付いて行くって言ってるのよ。……全く、これから先が思いやられるわ」
やれやれと肩をすくめるアリアさん。
「協力だなんて水くさいこと言うなよ! 俺らは今日初めて出会った中だが、それでもお前と話していていい感じだなって、思ったんたぜ」
拳を此方へ向けて、笑いながら言うソルさん。
「……あなたに興味は尽きない。でも、この四人で一緒にいられたらった思うと、なんだか心がポカポカするの」
これまでに、一度も表情を動かさなかったシルヴィさんが満面の笑みを見せる。……ま、眩しくて可愛すぎる!
「うわっ! シルの笑顔なんていつぶりかしら? ……いえ、そもそも、一度も見たことが無かった気がするわね」
アリアさんがそう言うと、シルヴィさんの表情が元に戻る。……すごく可愛かったな。
いやいやいや、それよりも!
「本当にそれでいいんですか!? もしかしたら全人類から敵認定されるかもしれないんですよ! 大勢の人から蔑まれて、狙われるかもしれない……!ダンジョンマスターに付いて行くとは、つまりそういうことなんですよ!?」
別に協力関係だけだったならよかった。それなら、彼女達はいつバレたとしても、しらを切ったり、僕が突き放せば大丈夫だから。でも……仲間になってしまったら、もうそれは使えない……。
「いいよの、それで」
「え?」
なぜ? 僕の心中はその気持ちでいっぱいだった。
「はぁー。これは私たちが自分で決めたことなのだから、あなたはただはい! って言えばいいのよ。危険? 全人類の敵? 私たちは冒険者よ! これから先、誰から、どんなことを言われようとも、私たちはあなたの味方でいると約束するわ」
「そうだ! 俺たちはまだ若い。だけどな、ちゃんと自分の意思を持っているんだ。お前は黙っていればよかったことなのに、自分に危害が及ぶとわかっていても、俺たちにダンジョンの危険性を教えてくれた。あれだけで、お前を信頼するには十分だったわけだ」
二人がそう教えてくれる。言葉の一つ一つから二人の思いが伝わってきた。
「あなたは、一人じゃない。異世界からたった一人でこの世界に来て、ダンジョンマスターという全人類の敵になるなんて、私たちが許さない」
3人は、考えた。もし、自分達がたった一人。誰も知り合いのいない異世界で人類全員から狙われたらと。それを考えた3人は、会って間もない自分達に真剣になってくれた相真を放っておくなんて選択肢は消え去っていた。
「「「それに何より、あなた(あんた)を放っておけない」」」
……知らず知らずのうちに、僕の目からは涙が零れていた。
あぁ、そうか。僕は暇潰しだのゲームだの思っていたけれど。……それはただの強がりだったのか。
この世界でやっていくと決めた時の言葉は嘘じゃないし、今でもそう思っている。
でも、ダンジョンマスターになっても人間だった僕の心は、孤独を嫌がり、人を求めていたのか。だから、虚空に向かっていろいろ説明したり、サポートさんに話しかけたりもしていた。
……ありがとう。
「ありがとう。アリアさん、ソルさん、シルヴィさん」
「……そのアリアさんってのやめない?」
「はは、俺のことはソルでいいぜ!」
「シルでいい。さん付けはいらない」
「うん、わかった。それじゃあ僕もソーマでいいよ。改めてよろしく、アリア、ソル、シル」
この世界に来て、相真は初めての仲間と出会った。
アリア、ソル、シルヴィ。
この出会いがどうなるかは、それこそ最高神のみぞ知るだろう。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
七億円当たったので異世界買ってみた!
コンビニ
ファンタジー
三十四歳、独身、家電量販店勤務の平凡な俺。
ある日、スポーツくじで7億円を当てた──と思ったら、突如現れた“自称・神様”に言われた。
「異世界を買ってみないか?」
そんなわけで購入した異世界は、荒れ果てて疫病まみれ、赤字経営まっしぐら。
でも天使の助けを借りて、街づくり・人材スカウト・ダンジョン建設に挑む日々が始まった。
一方、現実世界でもスローライフと東北の田舎に引っ越してみたが、近所の小学生に絡まれたり、ドタバタに巻き込まれていく。
異世界と現実を往復しながら、癒やされて、ときどき婚活。
チートはないけど、地に足つけたスローライフ(たまに労働)を始めます。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる