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第30話 不可思議と出会った少年

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 幼い頃はいろいろなものを信じてた。
 クリスマスに現れるサンタさんだったり、戦隊ヒーローやプ○キュアだって本当にいると思ってた。
 人が空を飛べることも信じてたし。あぁ、宇宙で戦艦やロボットが戦うことも信じてたかな?
 でも、その内僕は常識ある子供になり、それら全てが空想上の存在だと知った。

 そして、僕は周りの大人の言うとおり普通に暮らすことに全力を注いだ。
 普通に起きて、普通に小学校に行き、普通に勉強して、普通に友達と遊んで、普通に寝た。
 そんなある日、僕は気まぐれに出掛けてたまたま入った古本屋の奥で、一冊の本と出会った。そこには、空想上の生物が少ないけども詳しく載っていた。
 それは一言で言えば、世界が色づいたようだった。全てを周りに合わせて、大人の言うとおりに生きる僕の灰色の人生が、一気にカラフルに変化した。

 それでも本を閉じれば元通り。今までと同じ生活がまた始まる。
 ただ、いつもと違うのは、僕のカバンには欠かさずその本が入っていたことだ。

 時が経ったある日、その本は破られた。1つ上の上級生に「こんなもん信じるなんて馬鹿じゃねーの? ハハハハハ!」とそのまま取り上げられて、ある程度破った後川に捨てられた。

 悔しかった。それと同時に、その通りだと思った。
 翌日、同じ本を町中探しても、かなり古い本だったから、どこにも売ってはいなかった。
 大切な自分の何がが壊れた気がした。

 絶望の表情をしていた僕は、本屋からの帰り道に路地裏で話す変な人たちと出会った。
 その人たちを最初は怪しいと思ったけど、僕はその手に持っていたものに目が釘付けになっていた。

 ゲーム、アニメ、漫画、ライトノベル、美少女フィギュア、スマホ。

 教えてくれた人たちは、ゲーム会社の人、小説家の人、普通にただのオタクだった人など。
 その人たちと出会ったのは、そのたった一度きりだったけど、その時僕の目標は決まった。

 本は破れて失くなってしまった。なら、僕が本を書けばいい。
 別に世に出さなくてもいい、僕がただ自己満足で書ければそれでよかった。
 今度は破られないように。家でもくもくと書いた。

 普通にお手伝いをしておこづかいを貰い、子供が持ってても不思議じゃない、ゲームやアニメをたくさん買った。
 あの古本屋や、町中を探した際に回った本屋で小説やライトノベルもたくさん買った。

 僕はノートに知った空想上のものをたくさん書き込んだ。
 ……中にはカッコいいと思ったものも、空想上に関わらず書き込んだ。

 魔法、魔術、科学、妖術、忍術、手品、呪術、怪力、召喚術、精霊術、超能力、読心術、読唇術、気功、幻術、催眠術、死霊術、異能力、スキル、魔眼、性転換、占術、陰陽道、神力……

 妖怪、幽霊、魔物、神様、恐竜、鬼、エルフ、獣人、吸血鬼、鳥人、小人、人魚、悪魔、精霊、妖精、巨人、ドラゴン、天使、機人、電子少女、擬人化、英霊、サイボーグ、ロボット、人造人間、未来人、異世界人、宇宙人……

 アイドル、忍者、魔法使い、魔法少女、錬金術師、不良、義賊、騎士、王様、シスター、暗殺者、侍、海賊、拳法家、商人、社長、極道、魔物使い、スポーツ選手、ロボット操縦者、人形使い、カードゲーマー、マフィア、名探偵、殺人者、勇者、英雄、大魔王……


 僕が中学1年になった時、積み上がったノートもう数えきれないくらい溜まってた。
 幸い僕の家は、他の家よりも大きかったから、それらは大切に保管できた。
 僕はもう周りの考えや思想を気にせず、大人の言うことを鵜呑みにしない。例え僕の心の支えになっていた、信じるものたちが存在していないとしても。……それでも、僕はずっと信じようと生きることにした。
 矛盾してるよね? でも、誰が何を言おうと、僕は信じるって決めた。
 その頃かな? 僕が、普通と不可思議の間にいるようになってしまったのは。

 僕は空を見上げて、異世界から地球にいる彼ら彼女らに思いを馳せる。
 …………残してきたみんなは元気だろうか? 遺書はちゃんと開けたかな? ……僕の気持ちは、みんなに届いたかな?

 僕のたくさん書いたノートはいろいろなみんなの不思議な力で、一つになりあの一冊の遺書になった。ふふっ、遺書にしては分厚すぎるか。
 ……みんなにはよく死ぬ死ぬって言ってたけど、本当は寿命までしっかり生きるつもりでした。
 辛くても、苦しくても。みんながいれば生きていけると信じていたので。でも、ごめんなさい。

 僕は今、何の因果か異世界に降り立ち、精一杯生きようとしてます。
 どうしてこうなったのかは、わからないけれど。異世界に来て、新しい仲間に出会えて僕は幸せです。
 その先に何があるかはわかりません。けど、新たな仲間と頑張ろうと思います。

 ……ただ、唯一あかりのことが気がかりだった。最近はお兄ちゃんと呼んでくれなくなったけど、それでも僕の大切で大事な妹。……できればお兄ちゃんを忘れないでくれると嬉しいです。

 ……ふぅー。よし、憂鬱タイム終わり!
 さて……。
 
「さて、目の前のこいつをどうしようか? さすがにもう面倒事が増えるのは嫌なんだけど……」

「――放せぇー!」

 僕は手の中で暴れる妖精を見て、どうしようかと考えるのだった。



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