48 / 60
#48.okinawa 女影
しおりを挟む
長かった。とにかく長かった。
飛行機が那覇空港に着陸した瞬間、佐倉は解放感に満ちていた。
日本に到着したと思ったら、パリに続き東京で丸1日、愛子の買い物に付き合わされた。家族水入らずの時間と言えば聞こえがいいが、佐倉にとってはただの罰ゲームでしかなかった。
「うっわ!暑いわね!」
愛子が声を上げる。飛行機の機体を出た途端、モワッとした空気が体を襲った。1月、本来であれば沖縄と言えど寒いはずだが、極寒のパリ、気温の低い東京から帰ってきた2人の体感温度は少し麻痺していて沖縄はえらい暑く感じた。
「おかえりー!ママー!」
到着ゲートの外でリランの面々が待っていた。太田もいる。
「ママー!パリは楽しかったー?」
奈緒が明るく尋ねる。その顔は土産話ではなく、正真正銘お土産を期待しているのが手に取るようにわかる。
「ぜーんぜん!全く満喫できなかったわよ!」
おいおい、狂ってるな、こいつ。美味しいものたらふく食べて、服も買いすぎて現地でキャリーバッグを2つ追加で買っておきながら、何が満喫出来なかったのだ。
「みんな、いない間本当にありがとうね!今日は閉店してみんなで呑みに行こうか!」
愛子の言葉に女性たちの笑みが広がる。真琴や聖奈も楽しそうだ。
「お姉さんとは水入らずの時間を過ごせましたか?」
智子がいたずらに尋ねてくる。
「あぁ。あんなことなら逆に誰かに水差して欲しかったよ」
「また照れちゃって!」
佐倉の皮肉に太田が突っ込む。しかしパリ行きにより収穫はあった。命の危険もあったが・・・。
「太田、沖縄側はどうだった?」
「ええ。例の誘拐事件については全く進展ありません。犯人からの音沙汰もないです。知事の家族は学校側に『一身上の都合により休学』という説明だけで逃げているようですね」
「苦しい言い訳だな」
「はい。あと重体だった学長の真栄城ですが、昨日意識が戻ったようです。佐倉さんが沖縄に帰ってくることを告げたら、仲間刑事同伴のもとで話を聞くことの許可をもらいました。明日、病院へ行きますか?」
「もちろん行く。彼には聞きたいことがありすぎる。それに・・・」
「それに?」
「今は彼の証言が俺らの切り札だ」
翌日、佐倉は河村修一に電話を入れた。
「はい、河村です」
「もしもし、佐倉です」
「あぁ、君か」
「あなたに謝らなければいけない」
「杏奈のことか」
「そうだ。目の前で殺された。助けることが出来なかった。すまなかった」
「お前のせいじゃない。仕方なかった。杏奈も死を覚悟していたはずだ」
「1つ聞きたいことがある」
「なんだ?」
「杏奈の実父はパリで殺された桐谷浩。では実母はどこにいるんだ?」
火災で避難する際、真栄城は杏奈の母親を探せと言った。そう。父親の桐谷と離れ、河村夫妻に迎え入れられた杏奈。実母はどこに行ったのか。
「それは私にもわからない」
「そんなわけないだろう。事態がここまで大きくなっているんだ。それに娘も死んだ。もう隠し事も何もないだろう」
「本当なんだ。桐谷は杏奈の母親がどこにいるかだけは絶対に教えてくれなかった。ただ・・」
「ただ、なんだ?」
「大学の火災は間違いなく杏奈だけではなく、彼女の母親も絡んでいると思う」
「どうして?」
「火炎瓶が投げられたと記事に書いてあった。火炎瓶だぞ、火炎瓶。今の時代に」
「杏奈の母親はサーカスで火でも扱っていたのか」
「学生運動だよ」
思わず軽口を叩いた佐倉に対し、河村は低いトーンで構わず続けた。
「学生運動といっても、今でいう反原発デモのようなぬるいものではないぞ。本当の闘いだ。3億円事件が起きた当時は、全国各地で学生運動が盛んだったんだ。暴力、投石や火炎瓶などを武器に学生たちが立ち上がり機動隊と衝突した」
佐倉とは生きている時代が違う。今の学生たちはもちろん佐倉自身にも想像が出来ない時代の話だ。
「桐谷の両親、つまり杏奈の祖父母は学生運動過激派のリーダーだったんだ。熱心な活動家だったと桐谷からは聞いている。その時、火薬、爆薬を取り扱っていたスペシャリストが妻のほうだったらしい」
「それが桐谷浩の奥さんとどう繋がるんだよ」
「桐谷浩が殺された。桐谷の母が、桐谷の妻を復讐の念に煽り立てた。2人揃ってそれぞれの夫の復讐がエネルギーになった」
「想像の域を越えない」
「現実の話だ。桐谷の母親、そして桐谷の妻であり杏奈の母親である女性2人は生きている。火炎瓶もどちらかの仕業だ」
「杏奈を殺したのは?」
「・・・杏奈の祖母だと思う。ああ言う連中は目的遂行のためなら身内の犠牲も厭わないよ」
「身内を殺された復讐完遂の為に身内を殺すのか?馬鹿馬鹿しい」
杏奈の祖母、母親、杏奈本人の女3代に渡っての復讐劇ー。
とても現実離れしすぎている。
「真栄城から話は聞けたのか?」
「これから詳しいことを聞くつもりだ」
「そうか。私は杏奈を失った。君も気をつけろよ」
そう言い河村は通話を切った。規則的な機械音だけが佐倉の耳に響く。
飛行機が那覇空港に着陸した瞬間、佐倉は解放感に満ちていた。
日本に到着したと思ったら、パリに続き東京で丸1日、愛子の買い物に付き合わされた。家族水入らずの時間と言えば聞こえがいいが、佐倉にとってはただの罰ゲームでしかなかった。
「うっわ!暑いわね!」
愛子が声を上げる。飛行機の機体を出た途端、モワッとした空気が体を襲った。1月、本来であれば沖縄と言えど寒いはずだが、極寒のパリ、気温の低い東京から帰ってきた2人の体感温度は少し麻痺していて沖縄はえらい暑く感じた。
「おかえりー!ママー!」
到着ゲートの外でリランの面々が待っていた。太田もいる。
「ママー!パリは楽しかったー?」
奈緒が明るく尋ねる。その顔は土産話ではなく、正真正銘お土産を期待しているのが手に取るようにわかる。
「ぜーんぜん!全く満喫できなかったわよ!」
おいおい、狂ってるな、こいつ。美味しいものたらふく食べて、服も買いすぎて現地でキャリーバッグを2つ追加で買っておきながら、何が満喫出来なかったのだ。
「みんな、いない間本当にありがとうね!今日は閉店してみんなで呑みに行こうか!」
愛子の言葉に女性たちの笑みが広がる。真琴や聖奈も楽しそうだ。
「お姉さんとは水入らずの時間を過ごせましたか?」
智子がいたずらに尋ねてくる。
「あぁ。あんなことなら逆に誰かに水差して欲しかったよ」
「また照れちゃって!」
佐倉の皮肉に太田が突っ込む。しかしパリ行きにより収穫はあった。命の危険もあったが・・・。
「太田、沖縄側はどうだった?」
「ええ。例の誘拐事件については全く進展ありません。犯人からの音沙汰もないです。知事の家族は学校側に『一身上の都合により休学』という説明だけで逃げているようですね」
「苦しい言い訳だな」
「はい。あと重体だった学長の真栄城ですが、昨日意識が戻ったようです。佐倉さんが沖縄に帰ってくることを告げたら、仲間刑事同伴のもとで話を聞くことの許可をもらいました。明日、病院へ行きますか?」
「もちろん行く。彼には聞きたいことがありすぎる。それに・・・」
「それに?」
「今は彼の証言が俺らの切り札だ」
翌日、佐倉は河村修一に電話を入れた。
「はい、河村です」
「もしもし、佐倉です」
「あぁ、君か」
「あなたに謝らなければいけない」
「杏奈のことか」
「そうだ。目の前で殺された。助けることが出来なかった。すまなかった」
「お前のせいじゃない。仕方なかった。杏奈も死を覚悟していたはずだ」
「1つ聞きたいことがある」
「なんだ?」
「杏奈の実父はパリで殺された桐谷浩。では実母はどこにいるんだ?」
火災で避難する際、真栄城は杏奈の母親を探せと言った。そう。父親の桐谷と離れ、河村夫妻に迎え入れられた杏奈。実母はどこに行ったのか。
「それは私にもわからない」
「そんなわけないだろう。事態がここまで大きくなっているんだ。それに娘も死んだ。もう隠し事も何もないだろう」
「本当なんだ。桐谷は杏奈の母親がどこにいるかだけは絶対に教えてくれなかった。ただ・・」
「ただ、なんだ?」
「大学の火災は間違いなく杏奈だけではなく、彼女の母親も絡んでいると思う」
「どうして?」
「火炎瓶が投げられたと記事に書いてあった。火炎瓶だぞ、火炎瓶。今の時代に」
「杏奈の母親はサーカスで火でも扱っていたのか」
「学生運動だよ」
思わず軽口を叩いた佐倉に対し、河村は低いトーンで構わず続けた。
「学生運動といっても、今でいう反原発デモのようなぬるいものではないぞ。本当の闘いだ。3億円事件が起きた当時は、全国各地で学生運動が盛んだったんだ。暴力、投石や火炎瓶などを武器に学生たちが立ち上がり機動隊と衝突した」
佐倉とは生きている時代が違う。今の学生たちはもちろん佐倉自身にも想像が出来ない時代の話だ。
「桐谷の両親、つまり杏奈の祖父母は学生運動過激派のリーダーだったんだ。熱心な活動家だったと桐谷からは聞いている。その時、火薬、爆薬を取り扱っていたスペシャリストが妻のほうだったらしい」
「それが桐谷浩の奥さんとどう繋がるんだよ」
「桐谷浩が殺された。桐谷の母が、桐谷の妻を復讐の念に煽り立てた。2人揃ってそれぞれの夫の復讐がエネルギーになった」
「想像の域を越えない」
「現実の話だ。桐谷の母親、そして桐谷の妻であり杏奈の母親である女性2人は生きている。火炎瓶もどちらかの仕業だ」
「杏奈を殺したのは?」
「・・・杏奈の祖母だと思う。ああ言う連中は目的遂行のためなら身内の犠牲も厭わないよ」
「身内を殺された復讐完遂の為に身内を殺すのか?馬鹿馬鹿しい」
杏奈の祖母、母親、杏奈本人の女3代に渡っての復讐劇ー。
とても現実離れしすぎている。
「真栄城から話は聞けたのか?」
「これから詳しいことを聞くつもりだ」
「そうか。私は杏奈を失った。君も気をつけろよ」
そう言い河村は通話を切った。規則的な機械音だけが佐倉の耳に響く。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
秘書と社長の秘密
廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。
突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。
ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
なお、スピンオフもございます。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる