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しばらくすると瑛はなにも言わずに、両手を晴臣の背中にまわしてきた。
スキンシップはこれまでにもあったが、それはずっと晴臣からだった。
瑛からこうやって、抱きしめられることは初めてで、
「あ、あき?」
とまどい、急速に鼓動が速くなっていく。
晴臣の鎖骨の辺りに瑛の耳ほほが当たっている。
もしかしたら晴臣の鼓動がわかっているはずで……。
名前を呼んでも、返答はなく、しばらくすると、瑛は回した手を離し、一歩下がった。
抱きしめ返してきたのは、『本気』だと言ったことへの返答なのか、そうでないのか分からず、慣れないことにどぎまぎし、次の言葉が見つからない。
お互いになにも言わすに並んでいた。
駅に着くごろになって瑛が「はる」と呼んだ。
「晴臣がちゃんと向き合ってくれたんだから、おれも向き合わなきゃね」
自分に言い聞かせるような、聞こえるか聞こえないぐらいの小さな声だった。
「知ってた」
「……」
なにが?
喉の奥に声が引っかかって出てこない。
「もしかしたらって程度だけと、おれのこと好きなのかなって」
まさか……、知られていた……?
いつからそう感じでいた?
今、取り繕えているか?
熱していた熱が冷めるように、体が冷えていく。
晴臣は歩みをとめた。
瑛は、晴臣が止めると同時に、止まって振り返ってきた。
目の前にじっとこちらを見つめる彼がいる。
もう駅前だ。人も多くなってきていた。足を止めた二人に顔を向けていく人たちに、本来なら気にするところだ。でも、今は、まっすぐこっちを見ている瑛しか目に入らなかった。
「おれを見てくる視線とかで、一緒に居たら気づいた。近くにいすぎてわからないって言うこともあるけど、そんなことはなかった。彼女たちだってそうだった。気持ちがどんどん離れていくのがわかって、焦っても、その気持ちの距離はいくら頑張っても縮まらないんだ」
淡々と感じていることを言葉にしているような口調だ。その穏やかな表情が崩れて、眉をよせた。なにか決心するように、一度つばを飲み込み、瑛は続けた。
「でも、それが本当だったらどうしようって、おれ、はるから逃げたんだ。彼女作って、はるのこと考えないようにしてた。でも、それが彼女にも伝わってしまうんだろうね。結局ダメになって、また、はると会って、離れて、またダメになるの繰り返し。やっぱ、ダメなのっておれでしょ」
あきは悪くない。と言いたいのに、別のことで頭がいっぱいになった。
自分の聞いた言葉は本当で、聞き間違いじゃないのか。解釈は合っている?
瑛は、自分のことが気になって、距離を取った。そして、彼女が離れていく原因が晴臣だと言った、のか……?
「つまり……」
答え合わせをしたくて、結論をおずおずと尋ねた。
「はるが気になってしかたがないってこと」
恥ずかしそうにいているが、真っ直ぐみてくる彼の瞳が真剣だと語っていた。
離れていた時間を思う。
瑛が離れたように、晴臣だって辛さから距離を取っていた。それを悪いというなら自分だって悪い。
「あき、ダメなんて言うな」
瑛は瞬きもせず、晴臣を見た。
『気になってしかたがない』なんて聞かされて、それもずっと片思いの相手から言われて喜ばない奴なんているか?
これが駅前でなかったら、もう一度瑛を抱きしめていただろう。でも、今は、人通りもある、人目もある。
晴臣はぐっとこぶしを握り込んだ。
「あきが自分のことを悪く言って、オレが離れると思ってんの」
ニヤついてくる口元を必死で抑えながら静かな口調で言うと、首を横に振った。
「あきから『彼女が』って聞くのがいやでオレだって逃げた。だから、さっき『気になってしかたがない』って聞いて、めっちゃ幸せなんだけど」
瑛の戸惑い顔が少し赤いのは、気のせいだろうか。
もう瑛を好きだと知られているならいいやと、開き直って笑うと、口元に手の甲を当てて瑛も笑った。
「はる、もうちょっと、おれに時間ちょうだい」
笑いを収めた瑛が言った。
「わかった」
「近いうちに連絡するから。今度荷物が届くから受け取って。じゃあ、今日は一人で帰るよ」
言うだけ言って、走って改札を通って行ってしまった。
晴臣は、その場所で、別れぎわの会話を反芻しながら、彼の背中を目で追っていた。
数日後、登山靴が送られてきた。
送り主はもちろん瑛だった。
そして、
登山行きたい
というメールも。
スキンシップはこれまでにもあったが、それはずっと晴臣からだった。
瑛からこうやって、抱きしめられることは初めてで、
「あ、あき?」
とまどい、急速に鼓動が速くなっていく。
晴臣の鎖骨の辺りに瑛の耳ほほが当たっている。
もしかしたら晴臣の鼓動がわかっているはずで……。
名前を呼んでも、返答はなく、しばらくすると、瑛は回した手を離し、一歩下がった。
抱きしめ返してきたのは、『本気』だと言ったことへの返答なのか、そうでないのか分からず、慣れないことにどぎまぎし、次の言葉が見つからない。
お互いになにも言わすに並んでいた。
駅に着くごろになって瑛が「はる」と呼んだ。
「晴臣がちゃんと向き合ってくれたんだから、おれも向き合わなきゃね」
自分に言い聞かせるような、聞こえるか聞こえないぐらいの小さな声だった。
「知ってた」
「……」
なにが?
喉の奥に声が引っかかって出てこない。
「もしかしたらって程度だけと、おれのこと好きなのかなって」
まさか……、知られていた……?
いつからそう感じでいた?
今、取り繕えているか?
熱していた熱が冷めるように、体が冷えていく。
晴臣は歩みをとめた。
瑛は、晴臣が止めると同時に、止まって振り返ってきた。
目の前にじっとこちらを見つめる彼がいる。
もう駅前だ。人も多くなってきていた。足を止めた二人に顔を向けていく人たちに、本来なら気にするところだ。でも、今は、まっすぐこっちを見ている瑛しか目に入らなかった。
「おれを見てくる視線とかで、一緒に居たら気づいた。近くにいすぎてわからないって言うこともあるけど、そんなことはなかった。彼女たちだってそうだった。気持ちがどんどん離れていくのがわかって、焦っても、その気持ちの距離はいくら頑張っても縮まらないんだ」
淡々と感じていることを言葉にしているような口調だ。その穏やかな表情が崩れて、眉をよせた。なにか決心するように、一度つばを飲み込み、瑛は続けた。
「でも、それが本当だったらどうしようって、おれ、はるから逃げたんだ。彼女作って、はるのこと考えないようにしてた。でも、それが彼女にも伝わってしまうんだろうね。結局ダメになって、また、はると会って、離れて、またダメになるの繰り返し。やっぱ、ダメなのっておれでしょ」
あきは悪くない。と言いたいのに、別のことで頭がいっぱいになった。
自分の聞いた言葉は本当で、聞き間違いじゃないのか。解釈は合っている?
瑛は、自分のことが気になって、距離を取った。そして、彼女が離れていく原因が晴臣だと言った、のか……?
「つまり……」
答え合わせをしたくて、結論をおずおずと尋ねた。
「はるが気になってしかたがないってこと」
恥ずかしそうにいているが、真っ直ぐみてくる彼の瞳が真剣だと語っていた。
離れていた時間を思う。
瑛が離れたように、晴臣だって辛さから距離を取っていた。それを悪いというなら自分だって悪い。
「あき、ダメなんて言うな」
瑛は瞬きもせず、晴臣を見た。
『気になってしかたがない』なんて聞かされて、それもずっと片思いの相手から言われて喜ばない奴なんているか?
これが駅前でなかったら、もう一度瑛を抱きしめていただろう。でも、今は、人通りもある、人目もある。
晴臣はぐっとこぶしを握り込んだ。
「あきが自分のことを悪く言って、オレが離れると思ってんの」
ニヤついてくる口元を必死で抑えながら静かな口調で言うと、首を横に振った。
「あきから『彼女が』って聞くのがいやでオレだって逃げた。だから、さっき『気になってしかたがない』って聞いて、めっちゃ幸せなんだけど」
瑛の戸惑い顔が少し赤いのは、気のせいだろうか。
もう瑛を好きだと知られているならいいやと、開き直って笑うと、口元に手の甲を当てて瑛も笑った。
「はる、もうちょっと、おれに時間ちょうだい」
笑いを収めた瑛が言った。
「わかった」
「近いうちに連絡するから。今度荷物が届くから受け取って。じゃあ、今日は一人で帰るよ」
言うだけ言って、走って改札を通って行ってしまった。
晴臣は、その場所で、別れぎわの会話を反芻しながら、彼の背中を目で追っていた。
数日後、登山靴が送られてきた。
送り主はもちろん瑛だった。
そして、
登山行きたい
というメールも。
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