隣にいて

立樹

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エゴを晒すと、どんな顔をするだろう。
 睡眠のためにだけ、側にいてほしいだなんて。幻滅するだろうか。
 もし今晩、期待して、隣に杉山がいるのに寝れなかったら――。
 否定的な考えが頭をよぎった。

 まだ、口に出したくない。

(杉山に俺の期待を背負わせたくはない)

 隼大は首を振ると、電車が到着したことを告げる音がする方へと顔を向けた。

 電車内は、乗車率八十%ほど。おしくらまんじゅうほどの窮屈さはない。まだ隙間がある出入口付近に立つ。多少重い鞄を足の間に置いた。

「通勤ラッシュと渋滞どっちが耐えられる?」
 電車から見える灰色の景色を見ながら杉山に聞いた。

「車と電車ってことですか?」
 杉山は手をあごに充てながら聞く。隼大は頷いた。
「満員電車ですね。川浪さんは?」
「渋滞かな。どうして満員電車なんだ?」
「いえ、大半は満員でも時刻通りに進みます。遅れるということがないからでしょうか? 渋滞は時間が見通せませんから」
「ああ」
「川浪さんは?」
「閉塞感が耐えられん。それだったら遅刻した方がマシに思える時がある」
 そう言うと、杉山は軽く笑った。

その途端、キキーと音がして、電車が揺れた。

ドン!

その揺れで、杉山の隣にいた、スーツ姿の女性がバランスを崩した。踏み止れず、杉山の肩にぶつかった。
 それを受け止めきれなかった杉山は、隼大の方へと傾いた。
 隼大は、一方を手摺を掴み、もう一方を杉山の背中を支えた。すぐそばに杉山のうなじがあった。微かに甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
 すぐに体制を整た杉山が、隼大の腕から離れた。

「す、すみません」
 女性は態勢を元に戻すと、こちらに頭を下げた。

「いえ、大丈夫ですか?」

 杉山が聞いた。

「だ、大丈夫です」
 女性は、はにかみながら答えた。
「そうですか。良かったです」
 ニコリとほほ笑みを返す杉山に、女性は、ペコリと頭だけ下げた。
 停車駅に到着し目の前の扉が開く。
 女性は、何事もなかったかのように人の流れに乗ってプラットフォームへと出て行った。

「大丈夫か?」
 隼大は、ぼんやりと女性の後ろ姿を見送っていた杉山に声をかけた。
「え?」
 こちらを見る杉山の顔が赤い気がした。
「顔が赤いな」
 開いた扉が閉まり、電車は、ガッタンと大きく揺れるとまた動き始めた。
「き、気のせいですよ」
 隼大の方を見ずに流れ去る景色を見て言った。


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