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「・・・そうくるのかぁ・・・」ベンツ再び。
しおりを挟む先輩社長と敷地内を並んで歩く。
今日呼ばれたのは、
監視カメラの設置についてだった。
昨今は、何かと物騒だ。
会社内には、大型トラックが何台も置かれている。・・・・考えてみれば、大型トラックというのは、
かなりな「財産」「貴重品」だ。
1台、2,000万円ってな代物だ。
それが、何台も置かれているわけで。
最近は、
高額な重機・・・・車両などの盗難も後を絶たない。
盗まれ、
即座に、海外に運ばれてしまえば、全く打つ手はない。
それで、
敷地内に監視カメラを設置したいという要望だった。
問題ない。
最近は、よくある依頼であって、
ボクにも、それなりの設置実績はある。
ふたりで敷地内を歩いて、設置場所を決めていった。
事務所内に戻る。
エントランス脇、
社長の、
メルセデスベンツ・AMGがとまっている。
・・・・しかし・・・
・・・しかし・・・
なぜに高級外車だったのか・・・・
「3ヵ月連続で同じ日に起こった交通事故」
その、
ぶつかってきた相手は、
全てが高級外車だった。
・・・・ここに、何か意味があるのか・・・??
・・・・いや、
考えてもラチがあかない。
仮に・・・
もう、
そう納得するしかないけれど、
仮に、
花子が、この現象を引き起こしていたとしても、
その花子自身が、
すでに亡くなってしまっている。
もう、
答えは聞けない。
・・・・それにしても、
どうにも、
考えてみれば、
終わってみれば、
凄まじい経験だったってことだ。
・・・・そう、
もう・・・終わったんだ。
花子の祭壇に、線香をあげたことで、
終わった。
・・・・しかし、
モヤモヤしたものは残っていた・・・・
いや、
何とも言えず、
気持ちが落ち込んでしまっていた。
・・・・それは、
花子に、
「応えてやれなかった」
そういう思いだ。
おそらく・・・・
たぶん・・・
間違いなく、
花子は、
「シューちゃん」こと、
「メルセデスベンツ・AMG」を、ボクに譲ろうとしていたんだと思う。
あの日・・・
お母さんの様子には、それがみえていた。
・・・・それを、
ボクは、
話の途中で、
遮るようにして逃げ出してしまった。
突き詰めれば、
「お金がない」
そのひとことだった。
二の足を踏んだんだった。
・・・・なんせ、
会社を潰した時の莫大な借金。
それを未だに返している・・・いや、返せはしない。
月々の返済金額は、
「金利」にも満たない。
・・・・そう・・・
借金は増え続けるってことだ。
永遠に返済できない、
永年に増え続ける借金ということだ。
ボクは、
この後の一生を、
絶対に、
「なくならない借金」
それに追われる日々・・・縛られた人生を送っていくことになっているんだった。
「返せはしない」
完済はできない。
そう決まってはいても、
毎月、
「金利」にも追い付かない金額を、
「返済」として、
「誠意」として、
支払い続ける人生だった。
・・・・まるで、
毎日、
目覚める度に腹を喰い破られる、
プロメテウスのような、
罪を背負い、
断罪を受ける日々だった。
・・・・・あれ以来・・・
ボクは、
年がら年中、「お金」に困っていた。
国民年金・・・・国民健康保険・・・・督促状・・・
それらをテーブルに山積みした生活の日々だ。
・・・・すでに、
「諦めて」しまっている。
人生を諦めてしまっている。
美味しいものを食べる事や、
高価な洋服・・・そんなものは諦めてしまっている。
・・・・いや、普通の洋服すら諦めていた。
ボクが、普段着ているのは、リサイクルショップで買ったものだ。
ボクにとっては、
ユニクロどころか、「GU」ですら高級品になる。・・・・まぁ、もともと洋服には興味がなかったから、それほど大きな問題ではないんだけど・・・・
・・・・さらに・・・
病気をしてから・・・入退院を繰り返すようになってから、
収入は減っていく一方だった。
そこに、
「緊急事態宣言」
・・・・追い打ちをかけた。
更なる借金を重ねた。
生活の為・・・
日々の生活を維持するために、借金を重ねた。
そんな状況下で、
花子の、
1, 000万円を超える価格のAMGを、
譲り受けることはできなかった。
・・・・全くの「無料」で譲り受けるわけにはいかないだろう・・・
それに、
日々の維持費は・・・??
逃げた。
二の足を踏んだ。
怖気づいた。
ビビってしまった。
・・・・しかし、
「お金がない」
・・・・その情けなさに・・・
・・・そして、
花子の気持ちに応えてやれなかった。
その、
自分の小ささに、
なんとも・・・
なんとも・・・
嫌気がさすというか・・・・
自分自身に、ツバを吐きたくなるようだった。
彼女の・・・
人間ひとりの、
「遺言」ならば、
短い生涯を生きてきた彼女の、
最後の言葉ならば、
きいてあげればよかったんじゃないか・・・
いや、
きいてあげるべきだった・・・・
借金してでも実現させてあげるべきだったんだ。
「女の子迎えに来るならベンツくらい乗ってよね」
花子の言葉が、頭の中、木魂していた。
あの時の、
花子の表情ひとつすら覚えている。
もちろん、花子は茶化して言っただけ・・・・・
ボクを馬鹿にしたりしたわけじゃない・・・
それでも、
その台詞が、頭にこびりついてしまっていた。
「ボクだってポルシェに乗ってたんだ!!」
精一杯の負け惜しみ、
・・・・そして、
たまに、AMGを運転させてもらっときの、ボクの喜びよう・・・
・・・・そんなことから、
花子には、
シューちゃんを・・・・AMGを、ボクに譲るという考えができあがっていったんじゃないかと思う。
・・・・しかし、
ボクは逃げた。
具体的な話となる前に、
尻尾を巻いて、
まるで、敵前逃亡ヨロシクで逃げ出したんだった・・・・
・・・・しかし・・・
ベンツは無理でも、
せめて、
ティファニーのシガレットケースは、
ボクが、譲り受けるべきだったんじゃないだろうか・・・
そんな、
なんとも、
気が滅入る、堂々巡りが頭の中で繰り返されていた。
「それで・・・・もうひとつ相談があるんだけどな」
目の前。
先輩社長が言った。
珈琲の香り・・・・煙草の紫煙が漂っていた。
打ち合わせは終わって、
世間話となっていた。
社長室。
時代に逆行するように、ここでは「喫煙可」だ。・・・もちろんボクは吸わないが。
煙草をやめて随分経つ。
自分では吸いたいとは思わない。
しかし、目くじらを立てるほど嫌っているわけでもない。
他人が吸うのは、別に気にはならない。
先輩にとって、
珈琲と煙草が至福のひと時なのがわかっていた。
その「至福」のご相伴にあずかってることを嬉しく思っていた。
先輩の珈琲は、
野趣に溢れた・・・西部劇が良く似合う珈琲だった。・・・ボクの好きなタイプだ。
話が合った。
兄弟・・・弟のように可愛がってもらっていた。
「カズくんさ、オレのベンツ、貰ってくんない??」
ニコニコしながら社長が・・・・兄貴が言っていた。
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