ジィジ宮・バァバァ宮

士鯨 海遊

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 「お館様が来るそうではないか」
 行村は小山田氏の当主、小山田信茂の従弟であり、武田勝頼の代では中老として仕えるほど信茂と共に武田氏の重臣であった。
 「はい、今当主様が新府城からこちらに向かわれており、お館様を案内しているところであります」
 岩殿城の家臣団の1人がそう言い小さく一礼をして離れた。行村はいよいよ武田氏の存亡を賭けた織田との戦がこの岩殿城で始まるのだと確信した。

 しばらくすると城の門から兵の列が入城し出した。それは信茂の兵であった。ところがお館様である武田勝頼の姿はなかったのである。城の矢倉から見ていた行村は疑問を感じながらもすぐさま当主である信茂の所へ駆けつけるのでした。

 「信茂殿、ご無事で何よりです」
 「おお、行村か」
 「はい、殿とお館様が新府城からこの岩殿へ来ると聞き、準備をしておりました」
 「そ、そうか」
 行村は信茂の周りを見る。だがお館様の姿は見えない。
 「あの、お館様は……?」
 すると信茂は急に顔を深刻そうに変えながら小さい声で話した。
 「ワシはお館様を迎え入れる為、先に岩殿城に入ったのじゃ」
 「そうでしたか、では早速お館様の受け入れの準備を……」
 「門を閉じよ」
 「え?」
 「城門を閉じよ」
 「どういうことですか?」
 「お館様をこの先へ通してはならぬ」
 「それはつまり……」
 「織田につくことにした……」
 「武田を裏切るのですか⁉︎」
 「今の武田にはもう力が残ってない。木曽や穴山も織田についた。その織田がこちらに向かって来るそうではないか」
 「そのような事で裏切るのですか!」
 「ワシだってこんな事はしたくないのだ!」
 信茂の大声に行村は驚く。
 「ここへ来る途中でな、民達が悲しい目でワシらを見ていたのじゃ。母親に抱えられた赤子は大きく泣いていた。そう、民達は皆怯えていたのだ——」
 「信茂殿……」
 「これも小山田とその民達の為なんだ。仕方ない、許せ……」
 そう言い、信茂は去って行った。突然の事を聞かされた行村はただ黙ることしか出来なかったのです。
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