虚構の旋律を奏でしもの

コトナガレ ガク

文字の大きさ
7 / 13
その出会いが発火点

第7話 俺の堕天使

しおりを挟む
「ぶひーーーーーーーーーーーーーーーーー、仕事の後の一杯は格別ですな」
「今日も切れ切れですたな」
「それにしてもしぶとい、我が輩等の嫌がらせに動じませんでしたな、あの女」
「そうそう、涙の一つでも見せれば手心を加えてやろうと仏心を出してやらないでもないのに」
 大学生か? 20代半前後の若者達四人はぶらぶら時間を潰して夕方になると居酒屋に入ってご機嫌で飲み出している。
 俺はそんな彼が自然に監視できる席を取ると日本酒とホッケジャガバタカラアゲヤキトリとちびちびと嗜んでいく。
 これぞ大人の飲み方。渋いだろ。美人がいたら惚れちゃうね。

 青年達は先程から自分らの武勇伝を語り合い盛り上がっている。
 売れないアイドルに目を付けては潰すことを悦楽としている、こじらせすぎたアイドルオタク。
 美希奈は質の悪い奴らに粘着されただけなのか?とヤキトリを摘まみながら思っているとそこに洒落たスーツに身を固めた如何にも堅気じゃ無い、言うならば俺と同じ臭いのする男が現れた。
 30代、モードが似合うイケメンタイプ。その甘いマスクと軽快なトークが売りのホストの方が合っているんじゃ無いかと思う男「保尹 信士」。
 なぜ名前まで知っているかと言えば、保尹はご同業いわゆるライバルのコーディネイターだからだ。
 どういうことだなぜ奴がここに?
 俺の方が一瞬先に見付けられたのは僥倖、日頃の行いがいいのが幸いした。俺は顔を見られないように、さっと人陰に隠れつつ観察を続ける。
「楽しんでいるか」
 保尹は親しげに青年の肩を叩きつつ隣の席に座った。
 親しさの演出は怠り無しか。だが今時の子には却って煙たがれ無いか?
「保尹さん、ちっす」
「「「ちっす」」」
 若者達は親しげに保尹に挨拶する、イケメンは男女問わず好かれるというのか。
「おう」
「ビール頼みますか?」
「俺はこの後に仕事がある。悪いが用事だけ済まさせて貰う。
 これが今回のバイト代だ」
 嘘付け、お前が酒の一杯くらいでどうこうなるか。ただ単にむさい奴らと呑みたくないだけだろう。
 だがそんなことおくびにも出さない、実に残念そうにしている。それにまだまだ経験の浅い若者達はすっかり騙されて一緒に飲めないのを残念そうにしている。
 保尹は懐から茶封筒を取り出す。
 あの厚さ具合から3~4万程度か。だがアイドルのコンサートでオタ芸を披露するだけと考えれば割はいい。
 取り敢えず隠しカメラで写真をパシャリ。
「いつもすいません保尹さん」
 若者達の一人が封筒を恭しく受け取った。
 あれがリーダー格なのか? ロン毛で野暮ったい感じだが腹とかは出ていない、どことなく神経質そうな奴だな。
 しかし嫌いなアイドルに目を付けて粘着する奴かと思えば、金目当てか。
 ふむふむ、紳士的には話しやすそうでほっとする。
「いいってことよ。
 忙しいからこれで失礼するが、また連絡をするから頼むぞ」
 今日が初めてでは無いような感じ。あれだけの美希奈が今一ブレイクしなかったのはこういうわけか。
 いやいや、彼奴はこういうことをやらせたら一流だからな。善人の俺ではあんな嫌がらせ出来やしない。
「任せてください」
 若者達に送られ保尹は居酒屋から去って行く。

 なるほどなるほど、美希奈への嫌がらせには保尹が絡んでいたのか。保尹が趣味で美希奈に嫌がらせをするわけが無いので、裏には誰かがいる。
 美希奈を驚異と見なしたライバルプロダクションだろうか? だがデビューし立てのアイドルに保尹を雇って潰すほどの脅威があるのか? 
 押しのけ出し抜けがこの業界、珍しくも無いが今一投資に見合ってない気がする。
 だがこの疑問は今はいい、尻尾を掴んだ以上保尹を辿っていけば自ずと分かることだ。
 くっく、いい火種だ。つくづく飽きさせない。
 ああ、美希奈、君は本当に俺の堕天使かも知れない。
 だが今日の所は保尹を付けない。知った奴だいつでも追える。それより今は此奴等の正体を掴む方が重要だと勘が告げる。
 意気揚々のホストコーディネイターの足下を掬ってやるのも面白いが、前途洋々と信じている若者達四人の人生はきっと素晴らしく、おいしく頂けるだろう。
 俺は若者達が解散するまで、一人酒と肴を楽しむのであった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...