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第1話:『副都心スニーカー』
◆08:乱戦-4
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尻を爆風で煽られる形になり、おれは無様に頭から床にダイブした。顔面を床でおろし金のようにすられそうになるのを、どうにか横回転に逃がし免れる。
『達人級の武術家といえども、重火器の先制遠距離攻撃ではなすすべもなかろう』
バッグを背負ったまま跳ね起きると、おれ達が先刻まで立っていた場所に炎の海が出現していた。スプリンクラーが作動し、水蒸気が朦々と立ちこめる。だが警報は鳴る気配が無い。こいつが細工して機能を停止しているのだろうか。
『ちぇっ、『シグマ』にゃあそんなのがいるとは聞いてたが、実物拝むことになるたあね!』
炎の海の中に立つ男、『スケアクロウ』が、おれの声に反応しこちらを向く。迷彩服に包まれたアングロサクソンの巨体はそのまま。だがその両腕は、オレンジ色を照り返す禍々しいクロームの輝きに包まれていた。今しがたものごっついナパーム弾を打ち込んできやがった長大な銃身が二本、男の両の腕から生えている。炎に浮かぶ、まるで腕の代わりに二本の棒が突き出ているかのごときそのシルエットは、まさしく『スケアクロウ』だった。機械化人間。あまりと言えばあまりに安っぽい言葉だが、他に適当な言葉も思いつかない。炎が酸素を貪り、呼吸が苦しくなる。陽炎の中、換気システムが作動する音が妙に間抜けに響いた。
シグマ・コーポレーション。
ここ十年足らずで日本に大々的な進出を果たした、外資系の大手警備会社である。欧米系の軍隊経験者や元警察関係者を中心に組織された営利団体で、こと瞬発的な機動力に関しては日本の警察では到底歯が立たないとされている。その職務内容は要人護衛、各種警護、人質奪還等。あらゆるセキュリティを総合的に手がけるプロ集団である。
そして世間一般には知られていないことだが、精鋭揃いの連中からさらに選抜された数十名のメンバーで構成された、ごく特殊な任務を担当するチームが存在する。通称、『特殊警備班』。一般的とは言いがたい能力の持ち主も多数所属し、中には漫画紛いのSF野郎も紛れ込んでいる、という噂は確かにおれも聞いたことがある。半分以上信じちゃいなかったが、流石に実物を見せられては納得せざるを得まい。
『戦争で生身の部分が殆どダメになってしまってな。だが感謝もしている。コイツの精度はたいしたものだし、AIが戦況と俺のフィーリングを応じて自動的に最適な弾薬をリロードしてくれるという優れものさ』
がじゃり、と突きつけられる左腕。
『散弾だ。こいつは避けられないぞ?』
こりゃやばい。ここから回避する方法はちっと思いつかないぞ。
「バイ」
スケアクロウの銃身の奥から鉛弾が吐き出されるその瞬間。
スプリンクラーと炎の鬩ぎ合いで生み出された水蒸気の緞帳が一つの人間の形に盛り上がり――そこから突き出された掌がスケアクロウの脇腹に深々とめり込む!跳ね上がった銃身から散弾が撒き散らされ、天井を穿った。
「制服が、焦げた!」
掌を放った体勢のまま、怒りの炎を背負い真凛が吼える。纏わり付く火の粉まではかわしきれなかったか、身に纏ったお嬢様学校のブレザーは所々煤と焦げ目でボロボロだった。
「あれヲかわすとは!ファンタスティックなレディでスネ!」
スケアクロウが己の右の銃身をまるで戦槌のように薙ぎ払う。多分両腕だけではなく、全身にも駆動パーツが埋め込んであるのだろう。その膂力と速度は到底人に為し得るものではなかった。だが、真凛は銃身が己に迫るその一瞬、銃身そのものをステップとして跳躍、コンパクトなモーションで回転。
「ずぇあっ!」
がら空きになった顎に、間欠泉のような勢いで踵を撃ち上げた。縦軌道の変則後ろ回し蹴り、常人なら首の骨が折れるほどの打撃だ。だがスケアクロウはたたらを二、三歩踏むにとどまった。着地した真凛に出来た隙を逃さず、左腕から今度は9mmパラベラムを、妙に軽快すぎる音を立ててばら撒く。真凛は着地の瞬間からスケアクロウを振り向くことさえなく横転し回避、さらに跳躍して左銃身の死角となる右側に着地する。
おれには到底信じられないが、あいつは銃弾の類いをすべて見切ることが出来るのだそうだ。だが真凛の打撃にはスケアクロウにそれほど通じているとは思えなかった。このままでは勝負はどちらに転ぶかわからない――
と、真凛が背中を向けたまま怒鳴る。
「なにやってんだよ!」
何ってその、観戦を。
「こいつはボクが潰すから!アンタは邪魔だからさっさと取るもの取りに行く!!」
ふと見れば、おれが背にした壁から少し離れたところに、金庫の大扉が存在していた。
「……了解。んなデクに負けんじゃねえぞ!」
お言葉に甘えて、おれは走り出した
『達人級の武術家といえども、重火器の先制遠距離攻撃ではなすすべもなかろう』
バッグを背負ったまま跳ね起きると、おれ達が先刻まで立っていた場所に炎の海が出現していた。スプリンクラーが作動し、水蒸気が朦々と立ちこめる。だが警報は鳴る気配が無い。こいつが細工して機能を停止しているのだろうか。
『ちぇっ、『シグマ』にゃあそんなのがいるとは聞いてたが、実物拝むことになるたあね!』
炎の海の中に立つ男、『スケアクロウ』が、おれの声に反応しこちらを向く。迷彩服に包まれたアングロサクソンの巨体はそのまま。だがその両腕は、オレンジ色を照り返す禍々しいクロームの輝きに包まれていた。今しがたものごっついナパーム弾を打ち込んできやがった長大な銃身が二本、男の両の腕から生えている。炎に浮かぶ、まるで腕の代わりに二本の棒が突き出ているかのごときそのシルエットは、まさしく『スケアクロウ』だった。機械化人間。あまりと言えばあまりに安っぽい言葉だが、他に適当な言葉も思いつかない。炎が酸素を貪り、呼吸が苦しくなる。陽炎の中、換気システムが作動する音が妙に間抜けに響いた。
シグマ・コーポレーション。
ここ十年足らずで日本に大々的な進出を果たした、外資系の大手警備会社である。欧米系の軍隊経験者や元警察関係者を中心に組織された営利団体で、こと瞬発的な機動力に関しては日本の警察では到底歯が立たないとされている。その職務内容は要人護衛、各種警護、人質奪還等。あらゆるセキュリティを総合的に手がけるプロ集団である。
そして世間一般には知られていないことだが、精鋭揃いの連中からさらに選抜された数十名のメンバーで構成された、ごく特殊な任務を担当するチームが存在する。通称、『特殊警備班』。一般的とは言いがたい能力の持ち主も多数所属し、中には漫画紛いのSF野郎も紛れ込んでいる、という噂は確かにおれも聞いたことがある。半分以上信じちゃいなかったが、流石に実物を見せられては納得せざるを得まい。
『戦争で生身の部分が殆どダメになってしまってな。だが感謝もしている。コイツの精度はたいしたものだし、AIが戦況と俺のフィーリングを応じて自動的に最適な弾薬をリロードしてくれるという優れものさ』
がじゃり、と突きつけられる左腕。
『散弾だ。こいつは避けられないぞ?』
こりゃやばい。ここから回避する方法はちっと思いつかないぞ。
「バイ」
スケアクロウの銃身の奥から鉛弾が吐き出されるその瞬間。
スプリンクラーと炎の鬩ぎ合いで生み出された水蒸気の緞帳が一つの人間の形に盛り上がり――そこから突き出された掌がスケアクロウの脇腹に深々とめり込む!跳ね上がった銃身から散弾が撒き散らされ、天井を穿った。
「制服が、焦げた!」
掌を放った体勢のまま、怒りの炎を背負い真凛が吼える。纏わり付く火の粉まではかわしきれなかったか、身に纏ったお嬢様学校のブレザーは所々煤と焦げ目でボロボロだった。
「あれヲかわすとは!ファンタスティックなレディでスネ!」
スケアクロウが己の右の銃身をまるで戦槌のように薙ぎ払う。多分両腕だけではなく、全身にも駆動パーツが埋め込んであるのだろう。その膂力と速度は到底人に為し得るものではなかった。だが、真凛は銃身が己に迫るその一瞬、銃身そのものをステップとして跳躍、コンパクトなモーションで回転。
「ずぇあっ!」
がら空きになった顎に、間欠泉のような勢いで踵を撃ち上げた。縦軌道の変則後ろ回し蹴り、常人なら首の骨が折れるほどの打撃だ。だがスケアクロウはたたらを二、三歩踏むにとどまった。着地した真凛に出来た隙を逃さず、左腕から今度は9mmパラベラムを、妙に軽快すぎる音を立ててばら撒く。真凛は着地の瞬間からスケアクロウを振り向くことさえなく横転し回避、さらに跳躍して左銃身の死角となる右側に着地する。
おれには到底信じられないが、あいつは銃弾の類いをすべて見切ることが出来るのだそうだ。だが真凛の打撃にはスケアクロウにそれほど通じているとは思えなかった。このままでは勝負はどちらに転ぶかわからない――
と、真凛が背中を向けたまま怒鳴る。
「なにやってんだよ!」
何ってその、観戦を。
「こいつはボクが潰すから!アンタは邪魔だからさっさと取るもの取りに行く!!」
ふと見れば、おれが背にした壁から少し離れたところに、金庫の大扉が存在していた。
「……了解。んなデクに負けんじゃねえぞ!」
お言葉に甘えて、おれは走り出した
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