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第2話:『秋葉原ハウスシッター』
◆10:その研究者−1
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埼玉県草加市。
埼玉でも特に南部に位置するこの街には、おれ達が居た千代田区のマンションからドアツードアで四十分とかからずに到着することが出来た。時刻は夕方。東武伊勢崎線の駅を出て、おれ達は羽美さんが打ち出してくれた地図を頼りに駅前の商店街を進んでゆく。草加といえば煎餅が有名なのだそうだ。帰りに余裕があれば事務所の面々にお茶受けでも買って行ってやるとしようか。
「んで、またお前とかよ。鬱陶しいからおれの側を歩くんじゃねえよ」
「他人の台詞を横取りするな。今日は真凛君と仕事がてらのんびり街を散策しようと考えていたのだぞ?何故貴様のようなリアルキュビズムと歩かなければいかん」
何気にすげえこと言われてる気がするぞ。ちなみに真凛はと言えば、宅配便のおっさんがどうやら昨日攻め込んできた黒いコートの男だとわかった途端に『ボクが留守番します!』と猛烈に主張し出した。……まあ、動機はわかりすぎるほどわかるのだが。このため、おれとコイツとが外に出ることになったのである。
「はん、どーせ平面の女の子しか興味が無いんだろ?」
それを耳にした直樹、やれやれ、なんて哀れみを込めた目でこちらを見やる。
「亘理。女性に好意を向けられた事の無い貴様には到底理解し得ない心情だろうがな。俺は世の少女達は全て愛しいと思うぞ。二次元三次元問わず。これは真実だ」
だから『少女』って限定するなよ。そんなおれの言葉も届かないのか、奴は嘆かわしげに額に手をやる。
「しかし万物は移ろい往くもの。愛した少女も時が過ぎ行くほどに成長し、いつかは大人になり巣立ってゆくものよ。その度に俺が味わう身を斬られるかの如き辛さ、貴様ごときにはわかるまい」
素直に○学生以下しか愛せませんって言えよこの××野郎。
「その点!ゲームやアニメの中の少女達は素晴らしい。彼女達は何と年を取らぬのだ!!常に永遠の無垢を持ってそこに在る。人類は二十世紀に到って性的衝動と浪漫を類別することについに成功したのだ!」
「おっ。あれが笹村さんの実家だな」
おれは歩を進める。コイツと一緒に補導されるのは真っ平ゴメンだ。通路を曲がってすぐ、角の所にその家はあった。うぉっほん、ここからは営業モード。インターホンを押す。
「失礼します。当方笹村氏にご依頼頂きました『フレイムアップ』という会社のスタッフのものなのですが」
生垣に囲まれたその家はちょっとしたものだった。門越しに見える庭園は純和風。坪数も大したものだ。石灯籠の側に掘られた池には間違いなく鯉が飼われていると見て良いだろう。インターホン越しのおれの問いかけは沈黙を持って報われた。仕方が無い、予想されたことだ。では次の行動に移ろうか、と考えていると、
『ああ、フレイムアップの方ですか。どうもご苦労様です。お入りください』
そんな声がして、門のオートロックが外れた。思わず直樹と顔を見合わせてしまう。
「失礼ですが、笹村周造様はご在宅でしょうか?」
やや警戒交じりのおれの声に対する回答は、
『ええ、私が笹村周造です』
いともあっさりしたものだった。
埼玉でも特に南部に位置するこの街には、おれ達が居た千代田区のマンションからドアツードアで四十分とかからずに到着することが出来た。時刻は夕方。東武伊勢崎線の駅を出て、おれ達は羽美さんが打ち出してくれた地図を頼りに駅前の商店街を進んでゆく。草加といえば煎餅が有名なのだそうだ。帰りに余裕があれば事務所の面々にお茶受けでも買って行ってやるとしようか。
「んで、またお前とかよ。鬱陶しいからおれの側を歩くんじゃねえよ」
「他人の台詞を横取りするな。今日は真凛君と仕事がてらのんびり街を散策しようと考えていたのだぞ?何故貴様のようなリアルキュビズムと歩かなければいかん」
何気にすげえこと言われてる気がするぞ。ちなみに真凛はと言えば、宅配便のおっさんがどうやら昨日攻め込んできた黒いコートの男だとわかった途端に『ボクが留守番します!』と猛烈に主張し出した。……まあ、動機はわかりすぎるほどわかるのだが。このため、おれとコイツとが外に出ることになったのである。
「はん、どーせ平面の女の子しか興味が無いんだろ?」
それを耳にした直樹、やれやれ、なんて哀れみを込めた目でこちらを見やる。
「亘理。女性に好意を向けられた事の無い貴様には到底理解し得ない心情だろうがな。俺は世の少女達は全て愛しいと思うぞ。二次元三次元問わず。これは真実だ」
だから『少女』って限定するなよ。そんなおれの言葉も届かないのか、奴は嘆かわしげに額に手をやる。
「しかし万物は移ろい往くもの。愛した少女も時が過ぎ行くほどに成長し、いつかは大人になり巣立ってゆくものよ。その度に俺が味わう身を斬られるかの如き辛さ、貴様ごときにはわかるまい」
素直に○学生以下しか愛せませんって言えよこの××野郎。
「その点!ゲームやアニメの中の少女達は素晴らしい。彼女達は何と年を取らぬのだ!!常に永遠の無垢を持ってそこに在る。人類は二十世紀に到って性的衝動と浪漫を類別することについに成功したのだ!」
「おっ。あれが笹村さんの実家だな」
おれは歩を進める。コイツと一緒に補導されるのは真っ平ゴメンだ。通路を曲がってすぐ、角の所にその家はあった。うぉっほん、ここからは営業モード。インターホンを押す。
「失礼します。当方笹村氏にご依頼頂きました『フレイムアップ』という会社のスタッフのものなのですが」
生垣に囲まれたその家はちょっとしたものだった。門越しに見える庭園は純和風。坪数も大したものだ。石灯籠の側に掘られた池には間違いなく鯉が飼われていると見て良いだろう。インターホン越しのおれの問いかけは沈黙を持って報われた。仕方が無い、予想されたことだ。では次の行動に移ろうか、と考えていると、
『ああ、フレイムアップの方ですか。どうもご苦労様です。お入りください』
そんな声がして、門のオートロックが外れた。思わず直樹と顔を見合わせてしまう。
「失礼ですが、笹村周造様はご在宅でしょうか?」
やや警戒交じりのおれの声に対する回答は、
『ええ、私が笹村周造です』
いともあっさりしたものだった。
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