人災派遣のフレイムアップ

紫電改

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第3話:『中央道カーチェイサー』

◆01:諏訪の夜に麺をすすり−1

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「ぅえっくしっ!!」

 おれは唐突に盛大なくしゃみを上げ、周囲の人々――長旅の疲れを癒す善良なドライバー諸氏から冷たい目を向けられた。左右に首を振りながら愛想笑いと目礼で謝る途中、もう一回大きなくしゃみをする。

 おれはたまらず、ささやかな夜食、たった今トレイに載せて運んできたみそラーメンに箸を伸ばした。世にラーメン数在れど、体を中から温めるという点に於いてみそラーメンに勝るものはあるまい。シャキシャキのもやしと甘いコーンが入っていれば及第点。その点、このレストランのラーメンは充分以上の出来だった。いやもうホント、どうせインスタントだと覚悟していたのだが。今日は結構ツイているらしい。

 立ちのぼる湯気にあごを湿らせ、幸せいっぱいに麺をすすりこむ。一気に三分の一を平らげてスープを飲み込み、熱交換を終えた肺の空気を一気に吐き出す。五臓六腑に染み渡るとはこのことだ。寒い夜のラーメンは格別である。つい先程まではアイスクリームも買おうか等と迷っていたのだが、戯けた考えを自粛して本当に良かった。

 
 ――正直に告白しよう。八月だからと言って、Tシャツ一枚にショートパンツとサンダルという格好は、あまりにもこの時この場所をナメておりました。この窓際の席からよぉく見える、街の灯火に縁取られた夜の諏訪湖を見下ろし、おれは素直に反省した。

 そう。ここは長野県。

 八ヶ岳に抱かれたいにしえの湖を眼下に望む、中央高速自動車道諏訪湖サービスエリアが、只今このおれ亘理陽司の存在している場所なのだった。

 とはいえ、時刻は日付も変わろうかと言う深夜。せっかくの絶景も既に闇に沈んでおり、おれの感覚を占めているのは、本当にかすかにざわめく水の音ときらめく灯り、そして店内の喧騒と、響き渡る有線の音楽だった。世間様は夏休み真っ最中だが、さすがにこの時間帯になれば、店内も観光客より地元の若者やトラックの運転手の占める割合が多くなってくる。

 セルフサービスの無料のお茶|(ホット)の紙コップを三つほど積み上げラーメンを堪能しながら、TVで流されているニュースと画面の右上に浮かんだ時刻を見やった。ザックに仕舞い込んだ週刊誌も粗方読みつくしている。

 おれがこのサービスエリア内のレストランに陣取ってから、すでに六時間以上が経過しようとしていた。もう一つ、盛大なくしゃみ。まったく、夜の高地がここまで急激に冷え込むものだとは。……まあ、半分以上は不可抗力だと思っている。何しろ夕方三時に、まるで税務署の酷吏のように住民をぎゅうぎゅうと締め上げる東京の焦熱地獄を脱出した時には、とてもこんな肌寒さを予想するどころではなかったのだから。

 
「ちゃらら~ちゃちゃっちゃらちゃ~ら~ちゃ~っちゃちゃ~♪」

 
 麺を半分ほどすすり終え、お楽しみに取っておいた大きめのナルトをいただこうとしたところで、『銭形警部のテーマ』がポケットから響き渡る。

「はいはい、亘理ッス」

 それに対する返答は、受話器ではなくレストランの入り口から響いてきた。

「いたいた、おーう陽チン、待たせたな!」
「陽チンはやめてくださいって、仁サン」

 おれは苦笑しつつ手を振る。玄関のドアが開き、レストランの入り口に一人の男が入ってきた。とりたてて美形と言うわけではないが、不思議と人目を引く男だ。二十代前半、長身に纏った薄手のシャツの下には、分厚い、実用的な筋肉がうねっているのがわかる。

 野生を感じさせるその面構えも相まって、ハードレザーでも着せて夜の街に立たせておけばさぞかし同性にモテるだろう。本人はさぞかし嫌がるだろうが。そんなおれの勝手な想像を知る余地もなく、青年はおれの視線を捕らえるとにやりと笑い、真っ直ぐ歩を進めてきた。
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