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第4話:『不実在オークショナー』
◆04:スニーキング・ミッション(やっつけ)-3
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「えーと。はい。そうそう。たしか糸川。特別顧問の糸川克利だったわ」
「糸川、克利ですね……。おっかしいなあ。こちら、フタバ商事さんからのお手紙だから間違いないと思うんですが……」
「フタバ商事?うち、そんな立派なとこと取引ないわよお」
入れ食い状態である。
「もしかしたらこちらで間違えたかも。御社とお取引があるのはどちらでしょう?」
「うちに来る手紙っていったら普通のお客さんと、仕入先のナガツマ倉庫だけだし」
「田中さん、いつまでしゃべってるのー」
「あら小島さんごめんなさいね」
……ここらが潮時だな。
「ああっ!!」
「な、何よいきなり」
「こちら、もしかして『みどりローン』様のオフィスではないんですか?」
おばちゃんが、ああ、と納得の表情を浮かべる。
「『みどりローン』なら四階。この一つ上よ。ここはミサギ・トレーディングって言ったでしょ」
「し、失礼しました。焦って一フロア間違えてしまったみたいです」
「あらー。せっかちさんねえ」
「すいません、勘弁してください」
おれは誠心誠意アタマを下げる。
「んふふふ、赤くなっちゃってカワイイ。あなた新人さん?今度ここらへんに来た時は遊びにいらっしゃい。お茶とお菓子出してア・ゲ・ル」
はっはっは、それは本当にカンベンだ。おれは適当に言葉を濁すと、さも恥ずかしそうにミサギ・トレーディングを出た。
「あ、来音さんですか?あ、所長は留守ですか。いえいえいえ。ぜーんぜんOKです、っていうかむしろそっちの方がいいです」
おれは手短に状況を説明する。
「……というわけで。ええ。その実佐木社長と言うのは実権の無いダミー社長。それを定期的に監視しにくるのが、特別顧問の糸川克利じゃないかと思うんですよ、ええ、はい。糸川の名前で情報を探してみて欲しいんです。ヤクザ関係者かも知れませんので、警察情報から重点的にお願いします。
それから……ええ。はい。主要の仕入先であるナガツマ倉庫の資本関係も洗ってください。あ。そうですね。倉庫の住所をまずメールで送ってください。おれ達は昼食を食べて、そのまま倉庫の方に行ってみます」
事務的な連絡を一通り終えると、おれは違法改造携帯『アル話ルド君』を閉じた。先ほど変装道具を調達した百円ショップの隣にあるコーヒーショップ、ドトールに入る。
「こっちこっち」
アイスコーヒーの巨大なグラスを抱え込んだ真凛が手を振っている。
「どうだった?」
「大当たりだったな。とりあえず次に行くべき所が見えたよ。飯を食ってる間に来音さんに調べものをして貰ってる」
おれはザックを受け取ると、変装道具を仕舞い込んだ。
「じゃあさあ。ここでゴハン食べてっちゃおうよ。なんか安心したらお腹すいちゃった」
「ああ。ごく個人的な意見としては、コーヒーだけ飲むならスタバだが、パンも食べるならドトールだしな。……って、なんだ安心て」
「え!?いや。何でもない何でもない。えーと、この『べーこんすぱいしーどっぐ』っておいしいのかな?」
「そりゃ美味いが。今食べるにはちょっと重いかもな。おれはベーシックにイタリアンサンドの生ハムにしよう」
「じゃあボクもそれにする!」
さっきからやたらと元気な真凛であった。とても朝と同一人物とは思えん。不機嫌だった理由はよくわかるのだが。上機嫌になった理由がわからん。……変な奴。なんか悪いモンでも食ったんじゃなきゃいいが。
「糸川、克利ですね……。おっかしいなあ。こちら、フタバ商事さんからのお手紙だから間違いないと思うんですが……」
「フタバ商事?うち、そんな立派なとこと取引ないわよお」
入れ食い状態である。
「もしかしたらこちらで間違えたかも。御社とお取引があるのはどちらでしょう?」
「うちに来る手紙っていったら普通のお客さんと、仕入先のナガツマ倉庫だけだし」
「田中さん、いつまでしゃべってるのー」
「あら小島さんごめんなさいね」
……ここらが潮時だな。
「ああっ!!」
「な、何よいきなり」
「こちら、もしかして『みどりローン』様のオフィスではないんですか?」
おばちゃんが、ああ、と納得の表情を浮かべる。
「『みどりローン』なら四階。この一つ上よ。ここはミサギ・トレーディングって言ったでしょ」
「し、失礼しました。焦って一フロア間違えてしまったみたいです」
「あらー。せっかちさんねえ」
「すいません、勘弁してください」
おれは誠心誠意アタマを下げる。
「んふふふ、赤くなっちゃってカワイイ。あなた新人さん?今度ここらへんに来た時は遊びにいらっしゃい。お茶とお菓子出してア・ゲ・ル」
はっはっは、それは本当にカンベンだ。おれは適当に言葉を濁すと、さも恥ずかしそうにミサギ・トレーディングを出た。
「あ、来音さんですか?あ、所長は留守ですか。いえいえいえ。ぜーんぜんOKです、っていうかむしろそっちの方がいいです」
おれは手短に状況を説明する。
「……というわけで。ええ。その実佐木社長と言うのは実権の無いダミー社長。それを定期的に監視しにくるのが、特別顧問の糸川克利じゃないかと思うんですよ、ええ、はい。糸川の名前で情報を探してみて欲しいんです。ヤクザ関係者かも知れませんので、警察情報から重点的にお願いします。
それから……ええ。はい。主要の仕入先であるナガツマ倉庫の資本関係も洗ってください。あ。そうですね。倉庫の住所をまずメールで送ってください。おれ達は昼食を食べて、そのまま倉庫の方に行ってみます」
事務的な連絡を一通り終えると、おれは違法改造携帯『アル話ルド君』を閉じた。先ほど変装道具を調達した百円ショップの隣にあるコーヒーショップ、ドトールに入る。
「こっちこっち」
アイスコーヒーの巨大なグラスを抱え込んだ真凛が手を振っている。
「どうだった?」
「大当たりだったな。とりあえず次に行くべき所が見えたよ。飯を食ってる間に来音さんに調べものをして貰ってる」
おれはザックを受け取ると、変装道具を仕舞い込んだ。
「じゃあさあ。ここでゴハン食べてっちゃおうよ。なんか安心したらお腹すいちゃった」
「ああ。ごく個人的な意見としては、コーヒーだけ飲むならスタバだが、パンも食べるならドトールだしな。……って、なんだ安心て」
「え!?いや。何でもない何でもない。えーと、この『べーこんすぱいしーどっぐ』っておいしいのかな?」
「そりゃ美味いが。今食べるにはちょっと重いかもな。おれはベーシックにイタリアンサンドの生ハムにしよう」
「じゃあボクもそれにする!」
さっきからやたらと元気な真凛であった。とても朝と同一人物とは思えん。不機嫌だった理由はよくわかるのだが。上機嫌になった理由がわからん。……変な奴。なんか悪いモンでも食ったんじゃなきゃいいが。
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