人災派遣のフレイムアップ

紫電改

文字の大きさ
117 / 368
第4話:『不実在オークショナー』

◆04:スニーキング・ミッション(やっつけ)-3

しおりを挟む
「えーと。はい。そうそう。たしか糸川。特別顧問の糸川克利だったわ」
「糸川、克利ですね……。おっかしいなあ。こちら、フタバ商事さんからのお手紙だから間違いないと思うんですが……」
「フタバ商事?うち、そんな立派なとこと取引ないわよお」

 入れ食い状態である。

「もしかしたらこちらで間違えたかも。御社とお取引があるのはどちらでしょう?」
「うちに来る手紙っていったら普通のお客さんと、仕入先のナガツマ倉庫だけだし」
「田中さん、いつまでしゃべってるのー」
「あら小島さんごめんなさいね」

 ……ここらが潮時だな。

「ああっ!!」
「な、何よいきなり」
「こちら、もしかして『みどりローン』様のオフィスではないんですか?」

 おばちゃんが、ああ、と納得の表情を浮かべる。

「『みどりローン』なら四階。この一つ上よ。ここはミサギ・トレーディングって言ったでしょ」
「し、失礼しました。焦って一フロア間違えてしまったみたいです」
「あらー。せっかちさんねえ」
「すいません、勘弁してください」

 おれは誠心誠意アタマを下げる。

「んふふふ、赤くなっちゃってカワイイ。あなた新人さん?今度ここらへんに来た時は遊びにいらっしゃい。お茶とお菓子出してア・ゲ・ル」

 はっはっは、それは本当にカンベンだ。おれは適当に言葉を濁すと、さも恥ずかしそうにミサギ・トレーディングを出た。
 
 
 
「あ、来音さんですか?あ、所長は留守ですか。いえいえいえ。ぜーんぜんOKです、っていうかむしろそっちの方がいいです」

 おれは手短に状況を説明する。

「……というわけで。ええ。その実佐木社長と言うのは実権の無いダミー社長。それを定期的に監視しにくるのが、特別顧問の糸川克利じゃないかと思うんですよ、ええ、はい。糸川の名前で情報を探してみて欲しいんです。ヤクザ関係者かも知れませんので、警察情報から重点的にお願いします。

 それから……ええ。はい。主要の仕入先であるナガツマ倉庫の資本関係も洗ってください。あ。そうですね。倉庫の住所をまずメールで送ってください。おれ達は昼食を食べて、そのまま倉庫の方に行ってみます」

 事務的な連絡を一通り終えると、おれは違法改造携帯『アル話ルド君』を閉じた。先ほど変装道具を調達した百円ショップの隣にあるコーヒーショップ、ドトールに入る。

「こっちこっち」

 アイスコーヒーの巨大なグラスを抱え込んだ真凛が手を振っている。

「どうだった?」
「大当たりだったな。とりあえず次に行くべき所が見えたよ。飯を食ってる間に来音さんに調べものをして貰ってる」

 おれはザックを受け取ると、変装道具を仕舞い込んだ。

「じゃあさあ。ここでゴハン食べてっちゃおうよ。なんか安心したらお腹すいちゃった」
「ああ。ごく個人的な意見としては、コーヒーだけ飲むならスタバだが、パンも食べるならドトールだしな。……って、なんだ安心て」
「え!?いや。何でもない何でもない。えーと、この『べーこんすぱいしーどっぐ』っておいしいのかな?」
「そりゃ美味いが。今食べるにはちょっと重いかもな。おれはベーシックにイタリアンサンドの生ハムにしよう」
「じゃあボクもそれにする!」

 さっきからやたらと元気な真凛であった。とても朝と同一人物とは思えん。不機嫌だった理由はよくわかるのだが。上機嫌になった理由がわからん。……変な奴。なんか悪いモンでも食ったんじゃなきゃいいが。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...