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第4話:『不実在オークショナー』
◆08:作戦会議(その1)-1
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「最近のネットカフェは随分快適になったもんだなあ」
六時を過ぎても残暑の陽射しはしぶとく大地を照らし続けている。おれはと言えば、ナガツマ倉庫の最寄駅前まで移動し、そこにあるネットカフェで飲み放題のソフトドリンクを飲み干しているという次第。なんか今日は昼からコーヒーとかソフトドリンクとか、そんなのばかり飲んでいる気がするな。
ネカフェの簡易ホテル化はますます進み、ネットに接続したりマンガを読んだりはのみならず、シャワーも使用可能、ダーツにビリヤードにカラオケといたれりつくせりである。もっとも今おれがいるのはカウンター席。そしてただいまおれは注目の的。なぜならおれの隣にいる、
「最近は女性向けのネットカフェも整備されてきているんですよ」
笠桐・R・来音さんがホットコーヒーを味わっているその姿が、あまりにも簡易ホテル……もとり、ネットカフェ独特のよどんだ空気にそぐわないからである。
カウンターに座ってマンガを読んでいたお客さん達の半ばはその横顔に見とれ、半ばはものすごい勢いで退散していった。気持ちはわかる。なんというかこう、一人暮らしの男のトテモ汚い部屋にいきなり美人の訪問販売員がやってきた時のようなアレだ。
「しかし、来音さんには、こういう原価一杯一円以下のコーヒーは飲んで欲しくないですねえ」
「そうですか?私はこっちの方が気軽に飲めて好きですけど」
どうでもいい会話をしつつ、おれはカウンターに置いてあるネットに接続出来るパソコンと『アル話ルド君』の画面を交互に見やる。今ここには、おれの手がかりを元に来音さんが調べ上げてきてくれた最新のデータが詰まっていた。
「昨年経営難に陥ったナガツマ倉庫を資金援助したのは……あちゃあ、『イエローチェーン』か。こりゃ首輪をつけられたも同然ですね」
『イエローチェーン』とは社名で、商工ローンを中心に展開する金融業者である、表向きは。おれ達の業界では、奴等は金融業者ではなく、『乗っ取り屋』と呼ばれている。
言葉巧みに資金を貸し付け、グレーゾーンギリギリの利息と商売方法で借金の額を増やし、最終的には借金のカタとして、その企業の設備や特許諸々を全て捨て値で買い叩くのだ。ここに金を貸し付けられた企業は、『黄色い首輪をつけられた』とよく呼ばれる。
「そうですね。案の定、この一年でナガツマの債務は雪ダルマ式に膨れ上がっています。亘理さんが調べてくれた糸川克利。彼がイエローチェーンから派遣されて経営に食い込んでいました」
「ああ、なるほどね。首輪の監視役か」
「警察の資料を借りて彼の背後を洗ってみたら、後に『狂蛇』が控えていることがわかりました。上海と日本に縄張りを持ち、最近急速に勢力を拡大している中国系のシンジケートです」
ホットコーヒーを飲み終えた来音さんが、カウンターのすぐ傍にあるドリンクバーで今度はレモンスカッシュを注ぐ。
「『狂蛇』と言ったら人身売買の老舗じゃないですか。となると、連中の狙いは最初からナガツマの倉庫だったと見ていいわけですかね」
メロン果汁が一滴も入っていないメロンソーダを飲み干し、おれは資料をたぐる。
「そう考えてよいでしょう。陽司さんの報告を総合すれば、やはり偽ブランド品や密入国者の一時保管場所として使っていることは間違いないと思います」
「ふむ……。『狂蛇』の最近の動向なんてわかりますかね?」
来音さんは我が意を得たりとカバンからスクラップブックを取り出す。これをおれに渡す為に、わざわざ高田馬場からここまで来てくれたのだ。レモンスカッシュを飲み終え、ファンタオレンジのグラスに口をつけながら言葉を続ける。
「陽司さんは話の展開が早くて助かります。仁さんは何だか私の話を聞いてくださるのですけど、上の空と言うかー」
あの男の事だ、顔ばっかり見て話を聞いてないんだろう。
「直くん……こほん、直樹は私の言うことを全然聞いてくれないし。逆に顔を会わせる度に私に小言を言うんですよおあの子」
「奴はあとできっちりシメときますからハイ。……じゃあ須江貞さんは?」
おれは意地の悪い質問をした。案の定、来音さんが慌てふためく。
六時を過ぎても残暑の陽射しはしぶとく大地を照らし続けている。おれはと言えば、ナガツマ倉庫の最寄駅前まで移動し、そこにあるネットカフェで飲み放題のソフトドリンクを飲み干しているという次第。なんか今日は昼からコーヒーとかソフトドリンクとか、そんなのばかり飲んでいる気がするな。
ネカフェの簡易ホテル化はますます進み、ネットに接続したりマンガを読んだりはのみならず、シャワーも使用可能、ダーツにビリヤードにカラオケといたれりつくせりである。もっとも今おれがいるのはカウンター席。そしてただいまおれは注目の的。なぜならおれの隣にいる、
「最近は女性向けのネットカフェも整備されてきているんですよ」
笠桐・R・来音さんがホットコーヒーを味わっているその姿が、あまりにも簡易ホテル……もとり、ネットカフェ独特のよどんだ空気にそぐわないからである。
カウンターに座ってマンガを読んでいたお客さん達の半ばはその横顔に見とれ、半ばはものすごい勢いで退散していった。気持ちはわかる。なんというかこう、一人暮らしの男のトテモ汚い部屋にいきなり美人の訪問販売員がやってきた時のようなアレだ。
「しかし、来音さんには、こういう原価一杯一円以下のコーヒーは飲んで欲しくないですねえ」
「そうですか?私はこっちの方が気軽に飲めて好きですけど」
どうでもいい会話をしつつ、おれはカウンターに置いてあるネットに接続出来るパソコンと『アル話ルド君』の画面を交互に見やる。今ここには、おれの手がかりを元に来音さんが調べ上げてきてくれた最新のデータが詰まっていた。
「昨年経営難に陥ったナガツマ倉庫を資金援助したのは……あちゃあ、『イエローチェーン』か。こりゃ首輪をつけられたも同然ですね」
『イエローチェーン』とは社名で、商工ローンを中心に展開する金融業者である、表向きは。おれ達の業界では、奴等は金融業者ではなく、『乗っ取り屋』と呼ばれている。
言葉巧みに資金を貸し付け、グレーゾーンギリギリの利息と商売方法で借金の額を増やし、最終的には借金のカタとして、その企業の設備や特許諸々を全て捨て値で買い叩くのだ。ここに金を貸し付けられた企業は、『黄色い首輪をつけられた』とよく呼ばれる。
「そうですね。案の定、この一年でナガツマの債務は雪ダルマ式に膨れ上がっています。亘理さんが調べてくれた糸川克利。彼がイエローチェーンから派遣されて経営に食い込んでいました」
「ああ、なるほどね。首輪の監視役か」
「警察の資料を借りて彼の背後を洗ってみたら、後に『狂蛇』が控えていることがわかりました。上海と日本に縄張りを持ち、最近急速に勢力を拡大している中国系のシンジケートです」
ホットコーヒーを飲み終えた来音さんが、カウンターのすぐ傍にあるドリンクバーで今度はレモンスカッシュを注ぐ。
「『狂蛇』と言ったら人身売買の老舗じゃないですか。となると、連中の狙いは最初からナガツマの倉庫だったと見ていいわけですかね」
メロン果汁が一滴も入っていないメロンソーダを飲み干し、おれは資料をたぐる。
「そう考えてよいでしょう。陽司さんの報告を総合すれば、やはり偽ブランド品や密入国者の一時保管場所として使っていることは間違いないと思います」
「ふむ……。『狂蛇』の最近の動向なんてわかりますかね?」
来音さんは我が意を得たりとカバンからスクラップブックを取り出す。これをおれに渡す為に、わざわざ高田馬場からここまで来てくれたのだ。レモンスカッシュを飲み終え、ファンタオレンジのグラスに口をつけながら言葉を続ける。
「陽司さんは話の展開が早くて助かります。仁さんは何だか私の話を聞いてくださるのですけど、上の空と言うかー」
あの男の事だ、顔ばっかり見て話を聞いてないんだろう。
「直くん……こほん、直樹は私の言うことを全然聞いてくれないし。逆に顔を会わせる度に私に小言を言うんですよおあの子」
「奴はあとできっちりシメときますからハイ。……じゃあ須江貞さんは?」
おれは意地の悪い質問をした。案の定、来音さんが慌てふためく。
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