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第5話:『六本木ストックホルダー』
◆09:「どちらが強いの?」−4
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「……いずれにせよ、今度奴が襲ってきたらどうするかだな。電気ショックなんて手が二度通じるとは思えんし」
「ボクも、関節も目も無いのが相手だとちょっと分が悪いかなぁ」
珍しく考え込む真凛。まあもともと武術というのは対人スキルなので、大蛇や水の精霊との戦闘を想定してはいないのだろう。この娘の興味対象は強い相手との戦闘であって、意志のない使い魔との戦いではないのだ。
「となると、俺の力で凍結させる必要があるが……」
周囲を見回す直樹。屋内で絶対零度を展開するのは色々と被害が大きすぎるのだ。ここらあたりが、必ずしも強力な能力者=有能なエージェントを意味しない要因である。
「肝心な時に役に立たない野郎だな」
「黙れ、お前が奴と戦えば、悠長に言葉を並べているうちに十回は殴殺されているだろうが。だいたいこの中で一番弱いお前が偉そうにするな」
あ。今の一言はいくら紳士なおれでもちょっとムカっときましたよ?
「ふふん、てめぇごときにゃ負けねえよ。なんなら試してみるか?」
「望むところだ。身の程知らずの大言壮語は高くつくぞ」
まるで不良高校生のように至近距離でガンを飛ばし合うおれ達と、それを見守る女子高生。だがこの女子高生は、おれ達なぞより余程ガン飛ばしも喧嘩も慣れっこなのであった。のほほんと問う。
「そう言えば、二人はフレイムアップに来る前に戦った事があったって聞いたけど」
「……誰からそんなこと聞いたんだ?」
「ん、浅葱所長。前に直樹さんとアンタがどこで知り合ったのか、って話になったときに。それくらい知っておいた方がいいって」
まったく、余計なお世話を。この時ばかりは直樹と二人して苦い顔になる。
「で、どっちが勝ったの?」
「そりゃあおれに決まってるだろ。コイツ弱ぇくせにやたらとしぶといから、全身コマギレにして夜の河からばら撒いて海に流してやったのさ。それでも再生しやがるんだから便利なモンだよ」
前髪をかきあげ、あさっての方向を向いてフッと嘲笑してみせるおれ。その姿をまるで汚いモノでも見下すような視線を向けてほざく直樹。
「ほほう。お前の脳味噌の記憶部分がゆるいとは常々思っていたが、とうとう事実を都合良く捏造するまでに衰退していたとはな。橋の上で全身氷漬けにされた挙げ句、どうしても死ぬわけにはいかないと俺に泣いてすがったのはどこのどいつだっただろうな?これなら当初の予定通り氷詰めにして冥王星まで放逐しておけばよかったか」
「ははっ、そんときゃてめえを対転移で太陽核に放り込んでやってたぜ」
「なんか小学生の口喧嘩みたいだね」
おれ達の低レベルな争いを眺めて真凛がぼやいた。
「あ、お前おれの言うこと信じてないな?」
「だって。アンタがどうやって直樹さんを細切れに出来るんだよ」
「ハイ、すいません、おれには無理です」
昔は出来たんですけどね。直樹も冷静さを取り戻したのか、眼鏡をかけなおす。
「子細はともあれ、我々は今同一陣営にいる事は事実だからな。このような男と組むのは腹立たしいが、仕事とあれば必要な働きはする」
「今月も生活苦しいしなあ」
「互いにな」
ため息をつくおれ達。まったく、漫画や小説の中の魔法使いや吸血鬼が羨ましい。連中の住む古城だの大迷宮だのの光熱費や人件費はいったいどこから出ているのであろうか(そう言えばルーマニアの城に住んでいる別の吸血鬼は、いつまで経っても自宅がブロードバンドにならないとぼやいていた)。
現実世界のおれ達はとりあえず自室の家賃と水道代となんとか通信費まで払うのが精一杯。食いつなぐためには因縁の宿敵とも手を組まなければいけない昨今であった。貧乏だ、みんな貧乏が悪いんだ。
「話が大脱線してるようだが、そもそもの議題はこれからどうするかということだろう」
「ああ、それならたぶん、今頃水池氏のところはそろそろ大変なことに……」
その時、視線を離さずにいた十階の窓、水池氏の部屋のあたりから妙な音がした。地上のおれ達に聞こえるとなれば、相当大きかった音に違いない。
続いて夕日を反射して舞い落ちる輝きの破片。それはつまり、水池氏の部屋のガラスが割られたのだ。それも内側から。慌てて振り返ると、おれより感覚の鋭い二人はすでに表情を引き締めている。おれの携帯が鳴った。着信は門宮さんからだった。内容を確認するまでもない。
「やれやれ、読み通りなのはありがたいが、ちょっと早すぎるぜ!」
舌打ちする時間も惜しんで、おれ達はマンションの玄関に向かって駆け出した。
「ボクも、関節も目も無いのが相手だとちょっと分が悪いかなぁ」
珍しく考え込む真凛。まあもともと武術というのは対人スキルなので、大蛇や水の精霊との戦闘を想定してはいないのだろう。この娘の興味対象は強い相手との戦闘であって、意志のない使い魔との戦いではないのだ。
「となると、俺の力で凍結させる必要があるが……」
周囲を見回す直樹。屋内で絶対零度を展開するのは色々と被害が大きすぎるのだ。ここらあたりが、必ずしも強力な能力者=有能なエージェントを意味しない要因である。
「肝心な時に役に立たない野郎だな」
「黙れ、お前が奴と戦えば、悠長に言葉を並べているうちに十回は殴殺されているだろうが。だいたいこの中で一番弱いお前が偉そうにするな」
あ。今の一言はいくら紳士なおれでもちょっとムカっときましたよ?
「ふふん、てめぇごときにゃ負けねえよ。なんなら試してみるか?」
「望むところだ。身の程知らずの大言壮語は高くつくぞ」
まるで不良高校生のように至近距離でガンを飛ばし合うおれ達と、それを見守る女子高生。だがこの女子高生は、おれ達なぞより余程ガン飛ばしも喧嘩も慣れっこなのであった。のほほんと問う。
「そう言えば、二人はフレイムアップに来る前に戦った事があったって聞いたけど」
「……誰からそんなこと聞いたんだ?」
「ん、浅葱所長。前に直樹さんとアンタがどこで知り合ったのか、って話になったときに。それくらい知っておいた方がいいって」
まったく、余計なお世話を。この時ばかりは直樹と二人して苦い顔になる。
「で、どっちが勝ったの?」
「そりゃあおれに決まってるだろ。コイツ弱ぇくせにやたらとしぶといから、全身コマギレにして夜の河からばら撒いて海に流してやったのさ。それでも再生しやがるんだから便利なモンだよ」
前髪をかきあげ、あさっての方向を向いてフッと嘲笑してみせるおれ。その姿をまるで汚いモノでも見下すような視線を向けてほざく直樹。
「ほほう。お前の脳味噌の記憶部分がゆるいとは常々思っていたが、とうとう事実を都合良く捏造するまでに衰退していたとはな。橋の上で全身氷漬けにされた挙げ句、どうしても死ぬわけにはいかないと俺に泣いてすがったのはどこのどいつだっただろうな?これなら当初の予定通り氷詰めにして冥王星まで放逐しておけばよかったか」
「ははっ、そんときゃてめえを対転移で太陽核に放り込んでやってたぜ」
「なんか小学生の口喧嘩みたいだね」
おれ達の低レベルな争いを眺めて真凛がぼやいた。
「あ、お前おれの言うこと信じてないな?」
「だって。アンタがどうやって直樹さんを細切れに出来るんだよ」
「ハイ、すいません、おれには無理です」
昔は出来たんですけどね。直樹も冷静さを取り戻したのか、眼鏡をかけなおす。
「子細はともあれ、我々は今同一陣営にいる事は事実だからな。このような男と組むのは腹立たしいが、仕事とあれば必要な働きはする」
「今月も生活苦しいしなあ」
「互いにな」
ため息をつくおれ達。まったく、漫画や小説の中の魔法使いや吸血鬼が羨ましい。連中の住む古城だの大迷宮だのの光熱費や人件費はいったいどこから出ているのであろうか(そう言えばルーマニアの城に住んでいる別の吸血鬼は、いつまで経っても自宅がブロードバンドにならないとぼやいていた)。
現実世界のおれ達はとりあえず自室の家賃と水道代となんとか通信費まで払うのが精一杯。食いつなぐためには因縁の宿敵とも手を組まなければいけない昨今であった。貧乏だ、みんな貧乏が悪いんだ。
「話が大脱線してるようだが、そもそもの議題はこれからどうするかということだろう」
「ああ、それならたぶん、今頃水池氏のところはそろそろ大変なことに……」
その時、視線を離さずにいた十階の窓、水池氏の部屋のあたりから妙な音がした。地上のおれ達に聞こえるとなれば、相当大きかった音に違いない。
続いて夕日を反射して舞い落ちる輝きの破片。それはつまり、水池氏の部屋のガラスが割られたのだ。それも内側から。慌てて振り返ると、おれより感覚の鋭い二人はすでに表情を引き締めている。おれの携帯が鳴った。着信は門宮さんからだった。内容を確認するまでもない。
「やれやれ、読み通りなのはありがたいが、ちょっと早すぎるぜ!」
舌打ちする時間も惜しんで、おれ達はマンションの玄関に向かって駆け出した。
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