人災派遣のフレイムアップ

紫電改

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第6話:『北関東グレイヴディガー』

◆20:埋葬されていたモノ−3

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 『世の中には同じ顔をした人間が三人いる』という。

 迷信だ。迷信のはずだ。

 だが、それならば、『同じ顔』が一所に三つも揃っている今のこの状況は、なんと理由づけたら良いのだろうか。

「だ……誰だ、お前は!?」

 小田桐がナイフを突きつけて問うその先には、埋まっていた遺体からついさっき奪い返したはずの己の顔があった。すると、その顔は笑みを形作り口を開いた。

「誰だ、とは心外だな。俺だよ。わかるだろう?」

 小田桐の眼球がめまぐるしく動き、事態を検証する。この顔でこの物言いをする人間はただ一人しか居ないはずだ。だが、まさか。

「貴様、『役者アクター』か……!?」
「そうとも呼ばれているな」

 小田桐と同じ顔をした男が、芝居がかった仕草で優雅に一礼する。本来の小田桐にまったく似合わぬその仕草は、なまじ顔が同じな分だけ違和感を際だたせていた。

「馬鹿な、お前は死んだはずだ。あの時、俺の目の前で土砂崩れに呑まれて!それに、あの霊の声だって……!」

 相手の顔に笑みが浮かぶ。思考の鈍い者を見下す、憫笑。

「”死んだ”……か。それは、”誰が”死んだという意味で発言しているのかね?」

 人一倍自尊心の強い小田桐は、他人の憫笑には敏感だった。たちまち驚きよりも怒気が勝る。

「くだらん言葉遊びはやめろ!貴様は何者だ。『役者アクター』の野郎は、間違いなくあそこでくたばってる死体のはずだ!」
「仮にあそこに埋まっている遺体が『役者』だとして。それがなんだ?ここに今、『役者アクター』たる私が居れば、その役割は継承される・・・・・・・・。なんの問題もない」
「どういう……意味だ?」
「言葉通りの意味だよ。”キャラクター”のを正しく理解し、必要な知識を備えている役者・・であれば、なんの問題もなく演技を継続してゆける」

 いつのまにか男は、まるで鏡に映したように、小田桐と左右対称の同じポーズを取っていた。ナイフはもっていないし服装も違うというのに、それは奇妙に舞台装置めいた効果を醸し出してゆく。

「人は皆、人生という舞台において、大なり小なり与えられた『役』がある。そしてね、これが肝心なのだが」

 鏡の中の悪魔が嗤う。

「当人がどんな夢だの誓いだの義務だのを抱え込んでいようとね。結局他人が期待しているのは『役』。同じ役を果たせるのであれば、幾らでも換えが効く」
「おい、貴様……」

 話題がすり替えられている。わかってはいるのだが、その独特の会話のペースが、口を挟む隙を与えない。

「ここで逆に言えば。役を果たせないのであれば、役者・・が同じでも、それはもう別のキャラクターだ。舞台には立てない」

 この口を塞がなくてはならないと、そう思った。だが遅かった。

「つまりは」

 鏡の中の悪魔は、舞台の効果を高めるかのように、絶妙の間で台詞を挿入して流れを作り上げ。

 
「君にはもう『小田桐剛史』の役は務まらないということだよ」

 致命的な言葉の一突きを抛り込んだ。



「――ダマレ」
「君が取り戻そうとしている『小田桐剛史』という役は、すでに変質を果たしている」
「黙れと言っている」
「君自身もわかっているだろう。この四年間で築き上げられた時間に、もう入り込む余地など無いと言うことを」
「黙れぇっ!!」

 手にしたナイフを縦横に振るう。しかしそれは虚しく空を切り、小田桐の顔をした何か・・は、するするとまるで影のように距離をあけ、雑木林の葉陰へと移動した。

「高望みはするな。『貼り付けた顔ティエクストラ』とやら、君にはもう別の役があるはずだ。それを果たせ。配役を違えた舞台は、役者も観客も誰も喜ばない」

 声が遠くなり、急速に、何か・・が葉陰の中へと埋没していく。どこにも移動していない。隠れようともしていない。まるで陰に溶けるように、それは急速に気配を薄れさせた。

「消えた……?」

 もう一度目を凝らしてみる。そこにはもう人影はなく、ただ鬱蒼と茂る枝葉と、それが形作る濃厚な葉陰があるだけだった。

「役が違う、だと?」

 血走った目で唾を吐き捨てる。

「それを言うならそもそも、他人の役を奪いやがったヤロウが元凶じゃねぇか……!」

 小田桐が、すでに血の気を失いつつある土直神に向き直る。確かに今なら、ここを真っ直ぐ立ち去り、『第三の目』の本部まで高飛びするという選択肢はあった。組織の中で成功が認められ、彼の立場も少しは改善されるだろう。だが、

「人生が舞台だと?ああ、そうかも知れないな」

 それから先に、どんな展望があるというのだ?

 どんな惨めな人生を送っている人間だろうと、その人生は、当人の努力や才能、運や環境によって織り上げられた一つの物語である。負けたまま終わるにせよ逆転勝ちを目指すにせよ、それはある意味では納得が出来るだろう。だが。

 俺はずっと、違う人間が自分の人生を織り上げられていくのを遠目に見ていることしかできなかった。

 ならばきっと、どこまで行っても。

 多分、このままでは俺に納得はない。

「だから。主役に戻るんだ。俺の人生という舞台の……!」

 もう一度ナイフが振り上げられる。

 数奇な運命を断ち切るべく掲げられたその一撃は、


「――いやあ。やっぱ客観的にもその計画には無理があり過ぎる気がしますよ」

 
 だがまたしても、唐突に横合いからかけられた声に遮られたのだった。

 慌てて視線を向け、小田桐は今日立て続けに、心底からの驚愕を味わう羽目になった。

「貴様の説明とは、やや状況が異なるようだな」
「結局、お前の読みも半分当たって半分外れたってとこか、亘理」
「土直神さん、大丈夫ですか!」
「うわっ、本当に同じ顔の人がいる!」

 何しろそこには、向こう側で死闘を繰り広げているはずの男女の姿があったのだから。
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