人災派遣のフレイムアップ

紫電改

文字の大きさ
303 / 368
第7話:『壱番街サーベイヤー』

◆12:ルート・ジャンクション-3

しおりを挟む
 ちょいと注視すれば一人は世にも類い希な高貴さ漂わす美少女であると気づいたはずだが(もう片方のお子様も少年に見えるがまぁ面立ちは整っていると認めてやらんでもない)、大分煮詰まっている雰囲気の先輩はそーか、と呟いたのみで、すぐに手元の昼食とエントリーシートに没入してしまった。

 おれは軽く会釈すると、引き続き二人を連れてさらに奥へと案内した。
 
 
「ねぇ陽司」

 道すがら真凛が問うてくる。

「なんだよ」
「陽司も、来年はああやってシューショク活動するの?」
「……どうだろうな」

 今現在、おれは二年生。欠席による留年さえなければ来年には三年だ。三年生となればそろそろ”大学以後”を真面目に考えなければならない時期だ。――真っ当な学生なら。

「例えばさ、なんかやりたいことがあるぞ、とか、おれの夢はこれ!とか」
「夢、ねぇ」

 おれは視線を遠くへ飛ばす。そういやそろそろ、学生には『面接官を説得するためのエントリーシートの書き方~志望動機を明確にしましょう~』なんて資料が回ってくる頃合いだ。

「そうさなぁ~若ぇ頃はそんなのも持ってたような気がするのぅ~」

 ダメ学生よろしく韜晦してみせる。

「冗談なしで。どうなの?」
「……おおい、そこは『なに年寄り臭いこと言ってんの』とかツッコむところだろうがよ」

 苦笑いしながらふり返り――真凛の表情が存外にマジだった事に気がつく。

「陽司ってさ、アタマはいいと思うけど、逆に得意な教科も苦手な教科もなさそうだよね。文学部ってことは、現国、とか?」
「おまえさん妙に食い下がるね」

 教科だの現国だのという言い方に、ああコイツ高校生なんだなぁと妙に実感もしたり。

「だってさ。……シューショク活動するんだったら、いつまでもフレイムアップの仕事を続けるわけにもいかないんじゃない?それに――」

 語尾はアヤツらしからぬもごもごとした言葉に化けてしまって聞き取れなかった。先ほどの先輩のコメントにあてられたか、おれも少し態度を改める。

「……そうだな。いずれマジメに考えなきゃいかんよなあ」
 


 ――嘘をつくな。

 ヒビの入った欠陥品の分際で。何が、いずれ、だ。

 
 脳裏から覗き込む、の声。

 それを努めて無視し、思考を走らせる。


 
 夢。

 一生をかけて捧げてもよいと言えるだけの目的。

 それに関わり続ければ幸せだと信じられるだけの趣味や嗜好。さて、そんなものおれにあっただろうか。現国……いわゆる現代文学なんぞには実のところとんと興味はない。はて、じゃあおれは何で相盟大学文学部に入学したんだっけか。確かに進学の際は文学部を志望していたはずなのだが。


 
 ――いいや、それも偽りだ。

 
 勉強なんてどうでもよかった。

 ただ、前みたいに三人で居られれば。

 姉みたいな晴霞さん、そして、兄みたいな、彼女とお似合いの――



「どうしたの?」
「……いや、なんでもない」

 脳裏に走ったノイズに顔をしかめる。いかんいかん、くだらないことを思い出すところだった。話題を転換する必要があるな。

「人に夢云々を聞く前に、お前はどうなんだよ真凛」
「え!?ボ、ボク?」
「ふふん、そうだ。お前の夢ってヤツも、まだおれは聞かせてもらってないぜ」

 どうせ宇宙最強とかそんなだろうが。

「えっと、それはその……」

 何故そこで顔を赤くするのだろうか。ともかく話をそらすことに成功したおれは質問をたたみかける。

「進路はどうなるんだ?お前のところは確か大学まで一直線だったはずだが」

 気を抜くとすぐ忘れてしまいがちになるが、こいつはこれでも元士族のお嬢様であり、学校は小中高大一貫のエスカレーター教育。本来であれば、朝の挨拶はごきげんようでもおかしくないのである。

「あ、うん。……大学にはいかないかも。家を継ぐから」
「ああ、そうか」

 おれは納得した。コイツは元士族のお嬢様である以前に、武術の流派の後継者なのだ。流派本来の姿は情無用の殺人技術だが、オモテの顔として一般向けの『普通の』護身術道場、またその理にかなった立ち居振る舞いに基づく礼法の家元としての顔も持っている。

 格式はかなり高いらしく、上流階級の子女を中心に門弟の数も中々。真凛はいずれ伝統に則り正式な頭首となり、以後は門弟の指導、公式行事や神事への出席が義務づけられることとなる。ある意味おれなぞよりずっと、社会に『組み込まれて』いるのかも知れない。

「そう考えると、おれ達が組む期間も、長くてあと一年前後ってとこかー」

 おれが就職活動するにせよ、コイツが家を継ぐにせよ。

「そう、だよね」
「やれやれ、こりゃあ尚更さっさと一人前になってもらわないと困るな。頼むぜおい?」

 おれは真凛の肩をかるく肘でつついた。真凛は少しだけ大人っぽい表情で、わかってる、と言うと、

「あ、ほら、あれがそうじゃない?」

 そう言って、真新しい建物を指さした。金属のプレートには『相盟大学国際インターナショナル留学エデュケーションセンター』と刻まれていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

負けヒロインに花束を!

遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。 葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。 その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...