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第7話:『壱番街サーベイヤー』
◆25:オープン・セサミ-2
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「……やれやれ。やはり気分転換をしたほうがいいぞ。二人揃って云々唸られていても、こちらの気が散るだけだ」
「二人?」
言われてはじめて気がついた。隅っこの方で体育座りをして鬱々と何やらつぶやいている真凛に。
「お前、まだ帰ってなかったのかよ。門限が厳しいんだ、そこは割り切って、とりあえずお疲れ様でした続きはまた明日から、って感じで……」
いけるはずもないか。決してあいつのせいではないのだが、自分が催眠術にひっかかってファリス王女を捕まえて敵に差し出した、となれば自責の念もひとしおだ。
いつもなら転げ回って後悔しているところ、どうやらさらに一段階悪化しているようで、壁の模様を見つめながら「無能者め」「技が鈍い。あと一拍削れた」「会話をしようと思ったのが間違いだった。まず初手で目を抉るべきだった」などと、物騒なひとり反省会を声出ししながら脳内で繰り広げているのだった。
「暗号が解けないなら、せめてセゼルの思考が読めればな……」
倉庫でアルセスの隠した『箱』を見つけたように、モノを隠したときの人間の心理がトレースできればある程度の絞り込みはできる。だが、ほとんど歴史上の人物として生き、すでに数年前にこの世を去った異国の人物の心理を洞察するのはさすがに不可能だった。
「そもそも!そもそもぜんぶセゼルさんが悪いんじゃないか!」
突如なにかのスイッチが入ったかのように、真凛が叫ぶ。
「うおい、どうした急に」
「アルセスさんって、ファリスさんの話からして、優しいいい人だったんでしょ?そういう人を捕まえて処刑しておいて、なんで今さらその人が残した『箱』なんて探させるのさ。いっそ最初から全部掘り出しとけば、ファリスさんがこんな目に合うはずもなかったのに」
「いい人だからって、国の機密を国外に漏らせばそりゃ犯罪だからな……」
それに金脈が掘り出されていれば、ファリスが日本に派遣されることはなかっただろうが、ルーナライナの資金は枯渇し、国として詰んでいたことだろう。
セゼルが何を考えていたのかがわからない、か。
おれはため息をついた。わからないといえば、『箱』の裏側に書いてあった妙に長い詩の意味も不明だった。一応、内容の推測は出来ているが、その意図がさっぱりわからない。『箱』をさらに解読するための『鍵』かと思いソフトで解析をかけてみてはいるが、結果はさっぱりだった。
「それにアルセスさんのことだってわからないことが多すぎるよ。いい人だったのに、なんで国の情報を売ろうとしたのさ」
「そりゃあ、単純にカネに目がくらんだか、彼は彼なりの思うところがあって金脈の情報を――」
待て。
よく考えろ。
ループしていたおれの思考回路に亀裂が走り、新たな方向へと展開する。
必要なのは、暗号の解読じゃない。これまで先送りにしていた疑問への回答だ。
セゼル大帝は、虎の子の金脈の情報を後継者候補であるアルセスに教えた。だがアルセスはそれを漏らそうとした罪で捕らえられ、処刑された。ならば、そもそも。
「羽美さん、ちょっとメインフレーム借りますね」
作業用PCからLANを介して解析ソフトを立ち上げ、おれは二つの数列を投入した。
解析ソフトは……あっさりと、解読結果を吐き出した。
「陽司、これ……!!」
「はっはっは、なるほど、これは一本取られたものだ。いやいや電算任せの力技では解けんわけだ」
「羽美さん、この数字、関連データと照合できます?」
「もともと答えが出たときに備えて紐づけてある。自動で出来とるよ。ほれ」
「…………わかりました。ええ、わかりましたよ、すべて」
ディスプレイに映し出された解析結果を、おれは脳裏に収めた。
「……さてと」
おもむろに立ち上がり、背伸び。ラジオ体操でこわばった関節をほぐすと、冷めきった牛丼を給湯室のレンジに放り込む。
立ち上がりざまに、画面の前で固まっているアシスタントに声をかけた。
「真凛、タクシー呼んでやるから今夜はもう帰って寝ろ」
おれの命令に、真凛は逆らわなかった。
「……了解。ちゃんと食べてお風呂入って寝る。で、集合は?」
ふふん、わかってきたじゃないか。
「そうさな、学校終わってからでいいぞ。午後三時に、またここで」
お泊り用の洗面キットを机の引き出しから引っ張り出す。そう、飯を食って、風呂に入って、十分な睡眠を取る必要がある。何しろ。
「気合入れろよ?明日はそのまま横浜、MBSの本拠地に殴り込みだからな」
「二人?」
言われてはじめて気がついた。隅っこの方で体育座りをして鬱々と何やらつぶやいている真凛に。
「お前、まだ帰ってなかったのかよ。門限が厳しいんだ、そこは割り切って、とりあえずお疲れ様でした続きはまた明日から、って感じで……」
いけるはずもないか。決してあいつのせいではないのだが、自分が催眠術にひっかかってファリス王女を捕まえて敵に差し出した、となれば自責の念もひとしおだ。
いつもなら転げ回って後悔しているところ、どうやらさらに一段階悪化しているようで、壁の模様を見つめながら「無能者め」「技が鈍い。あと一拍削れた」「会話をしようと思ったのが間違いだった。まず初手で目を抉るべきだった」などと、物騒なひとり反省会を声出ししながら脳内で繰り広げているのだった。
「暗号が解けないなら、せめてセゼルの思考が読めればな……」
倉庫でアルセスの隠した『箱』を見つけたように、モノを隠したときの人間の心理がトレースできればある程度の絞り込みはできる。だが、ほとんど歴史上の人物として生き、すでに数年前にこの世を去った異国の人物の心理を洞察するのはさすがに不可能だった。
「そもそも!そもそもぜんぶセゼルさんが悪いんじゃないか!」
突如なにかのスイッチが入ったかのように、真凛が叫ぶ。
「うおい、どうした急に」
「アルセスさんって、ファリスさんの話からして、優しいいい人だったんでしょ?そういう人を捕まえて処刑しておいて、なんで今さらその人が残した『箱』なんて探させるのさ。いっそ最初から全部掘り出しとけば、ファリスさんがこんな目に合うはずもなかったのに」
「いい人だからって、国の機密を国外に漏らせばそりゃ犯罪だからな……」
それに金脈が掘り出されていれば、ファリスが日本に派遣されることはなかっただろうが、ルーナライナの資金は枯渇し、国として詰んでいたことだろう。
セゼルが何を考えていたのかがわからない、か。
おれはため息をついた。わからないといえば、『箱』の裏側に書いてあった妙に長い詩の意味も不明だった。一応、内容の推測は出来ているが、その意図がさっぱりわからない。『箱』をさらに解読するための『鍵』かと思いソフトで解析をかけてみてはいるが、結果はさっぱりだった。
「それにアルセスさんのことだってわからないことが多すぎるよ。いい人だったのに、なんで国の情報を売ろうとしたのさ」
「そりゃあ、単純にカネに目がくらんだか、彼は彼なりの思うところがあって金脈の情報を――」
待て。
よく考えろ。
ループしていたおれの思考回路に亀裂が走り、新たな方向へと展開する。
必要なのは、暗号の解読じゃない。これまで先送りにしていた疑問への回答だ。
セゼル大帝は、虎の子の金脈の情報を後継者候補であるアルセスに教えた。だがアルセスはそれを漏らそうとした罪で捕らえられ、処刑された。ならば、そもそも。
「羽美さん、ちょっとメインフレーム借りますね」
作業用PCからLANを介して解析ソフトを立ち上げ、おれは二つの数列を投入した。
解析ソフトは……あっさりと、解読結果を吐き出した。
「陽司、これ……!!」
「はっはっは、なるほど、これは一本取られたものだ。いやいや電算任せの力技では解けんわけだ」
「羽美さん、この数字、関連データと照合できます?」
「もともと答えが出たときに備えて紐づけてある。自動で出来とるよ。ほれ」
「…………わかりました。ええ、わかりましたよ、すべて」
ディスプレイに映し出された解析結果を、おれは脳裏に収めた。
「……さてと」
おもむろに立ち上がり、背伸び。ラジオ体操でこわばった関節をほぐすと、冷めきった牛丼を給湯室のレンジに放り込む。
立ち上がりざまに、画面の前で固まっているアシスタントに声をかけた。
「真凛、タクシー呼んでやるから今夜はもう帰って寝ろ」
おれの命令に、真凛は逆らわなかった。
「……了解。ちゃんと食べてお風呂入って寝る。で、集合は?」
ふふん、わかってきたじゃないか。
「そうさな、学校終わってからでいいぞ。午後三時に、またここで」
お泊り用の洗面キットを机の引き出しから引っ張り出す。そう、飯を食って、風呂に入って、十分な睡眠を取る必要がある。何しろ。
「気合入れろよ?明日はそのまま横浜、MBSの本拠地に殴り込みだからな」
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