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第7話:『壱番街サーベイヤー』
◆29:竜虎相打つ(絶技応酬)-3
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呼気、吸気。颯真が勁を集約し、くずおれた真凛の頭に劈掌を振り下ろす。
本来は掌を振り下ろし鞭のように敵を打ち据える技法だが、気力充実した今の颯真のそれであれば、もはや崖から落下する巨岩を受け止めるに等しい。
間一髪で両腕を掲げるのは間に合った。『痛み受け』――鍛えられた手足で受けることにより、敵の手首や足首を痛めつける積極的防御。
だが。
みしり、と震えた。
真凛でも颯真でもない。
この紅華飯店の堅牢な建物が、震えたのである。
カーペットの下で、異様な硬質の音がいくつも響き渡った。
おそらくは床材の大理石がひび割れ、砕けたのであろう。
「…………ぐッ」
直接受け止めた両手ではなく、真凛の服の背中が裂けた。
凄まじい力積が体内を通り抜けた証拠だった。
『坊ちゃま、ついにその技を。いいえ、実戦で使いこなせるとは……』
「……今度はおれにもわかりましたよ。文献に目は通しておくものですね」
おれの首筋を、冷や汗が伝った。
劉颯真、やはりこいつも、曲がりなりにも化物だ。
四征拳六十五手の四十八、『碧雲發鬼』。
四征拳は三つのプロセスを取る。
一つは体を沈み込ませ勁を得る『沈墜勁』。
得た勁を拳などに載せて前後左右に放つ『十字勁』。
そして最後。
――得た勁を全身に巡らせ纏う『纏糸勁』。
颯真はついに、この領域に達したのだ。
勁を直線に放つのではなく、体内を螺旋状に駆け巡らせる。
これにより、腕や脚を掴まれたとしても弾き飛ばすことが可能とされ、また相手に拳や肩ではなく、皮膚の一部が触れていれば、そこから勁を流し込む事もできるという。『沈墜勁』『十字勁』が剛とすれば、それを全身に速やかに巡らせる柔が『纏糸勁』である。
スコップで地面を掘りながらピアノを弾くようなもの、といえばどれだけ無茶なことをやっているか多少は伝わるかもしれない。
真凛は颯真の直線的な攻撃を躱したと思い、その腕に流れる高圧電流めいた罠に気づかなかったのだ。つかんだ瞬間にそこから膨大な勁……運動量がつたわり、内臓をかき回されるようなダメージを受けたはずである。
押し込まれる颯真の腕を受け止めたまま、じりじりと立ち上がる真凛。颯真も手首にダメージ。恐らく折れた。だが構わず押し付けてくる。下肢をローギアに。トルクを最大で掛けて、徐々に姿勢を正す。肺腑にだるさ。勁によるダメージの影響。問題ない。脳を揺らされている。神経伝達に遅延。問題ない。損害は軽微。敵の負傷と大差なし。
「吩ッ!!」
真凛が完全に立ち上がった刹那、颯真が右腕経由で今一度『纏糸勁』を流し込んだ。
異音。
体内で無数の振動が弾け、毛細血管が破裂。真凛の目が赤く染まる。皮膚の薄いまぶたや粘膜が裂け、鼻血が顎を伝って地面に垂れた。
「がァッ!!』
頓着せず、再度『痛み受け』を敢行。
異音。
颯真の手首があらぬ方向に曲がった。
ノックバックで発生した隙間に己の両腕を差し込み、真凛が強制的に仕切り直す。
「……まだだ!」
「……当然だ!」
両者が吠える。互いの手の内は明かした。
そして一気に間合いを詰める。
額と額がぶつかる距離。
超近接状態からの嵐めいた圧倒的な攻防が、開始された。
本来は掌を振り下ろし鞭のように敵を打ち据える技法だが、気力充実した今の颯真のそれであれば、もはや崖から落下する巨岩を受け止めるに等しい。
間一髪で両腕を掲げるのは間に合った。『痛み受け』――鍛えられた手足で受けることにより、敵の手首や足首を痛めつける積極的防御。
だが。
みしり、と震えた。
真凛でも颯真でもない。
この紅華飯店の堅牢な建物が、震えたのである。
カーペットの下で、異様な硬質の音がいくつも響き渡った。
おそらくは床材の大理石がひび割れ、砕けたのであろう。
「…………ぐッ」
直接受け止めた両手ではなく、真凛の服の背中が裂けた。
凄まじい力積が体内を通り抜けた証拠だった。
『坊ちゃま、ついにその技を。いいえ、実戦で使いこなせるとは……』
「……今度はおれにもわかりましたよ。文献に目は通しておくものですね」
おれの首筋を、冷や汗が伝った。
劉颯真、やはりこいつも、曲がりなりにも化物だ。
四征拳六十五手の四十八、『碧雲發鬼』。
四征拳は三つのプロセスを取る。
一つは体を沈み込ませ勁を得る『沈墜勁』。
得た勁を拳などに載せて前後左右に放つ『十字勁』。
そして最後。
――得た勁を全身に巡らせ纏う『纏糸勁』。
颯真はついに、この領域に達したのだ。
勁を直線に放つのではなく、体内を螺旋状に駆け巡らせる。
これにより、腕や脚を掴まれたとしても弾き飛ばすことが可能とされ、また相手に拳や肩ではなく、皮膚の一部が触れていれば、そこから勁を流し込む事もできるという。『沈墜勁』『十字勁』が剛とすれば、それを全身に速やかに巡らせる柔が『纏糸勁』である。
スコップで地面を掘りながらピアノを弾くようなもの、といえばどれだけ無茶なことをやっているか多少は伝わるかもしれない。
真凛は颯真の直線的な攻撃を躱したと思い、その腕に流れる高圧電流めいた罠に気づかなかったのだ。つかんだ瞬間にそこから膨大な勁……運動量がつたわり、内臓をかき回されるようなダメージを受けたはずである。
押し込まれる颯真の腕を受け止めたまま、じりじりと立ち上がる真凛。颯真も手首にダメージ。恐らく折れた。だが構わず押し付けてくる。下肢をローギアに。トルクを最大で掛けて、徐々に姿勢を正す。肺腑にだるさ。勁によるダメージの影響。問題ない。脳を揺らされている。神経伝達に遅延。問題ない。損害は軽微。敵の負傷と大差なし。
「吩ッ!!」
真凛が完全に立ち上がった刹那、颯真が右腕経由で今一度『纏糸勁』を流し込んだ。
異音。
体内で無数の振動が弾け、毛細血管が破裂。真凛の目が赤く染まる。皮膚の薄いまぶたや粘膜が裂け、鼻血が顎を伝って地面に垂れた。
「がァッ!!』
頓着せず、再度『痛み受け』を敢行。
異音。
颯真の手首があらぬ方向に曲がった。
ノックバックで発生した隙間に己の両腕を差し込み、真凛が強制的に仕切り直す。
「……まだだ!」
「……当然だ!」
両者が吠える。互いの手の内は明かした。
そして一気に間合いを詰める。
額と額がぶつかる距離。
超近接状態からの嵐めいた圧倒的な攻防が、開始された。
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