人災派遣のフレイムアップ

紫電改

文字の大きさ
364 / 368
第7話:『壱番街サーベイヤー』

◆29:竜虎相打つ(絶技応酬)-3

しおりを挟む
 呼気、吸気。颯真が勁を集約し、くずおれた真凛の頭に劈掌を振り下ろす。

 本来は掌を振り下ろし鞭のように敵を打ち据える技法だが、気力充実した今の颯真のそれであれば、もはや崖から落下する巨岩を受け止めるに等しい。


 間一髪で両腕を掲げるのは間に合った。『痛み受け』――鍛えられた手足で受けることにより、敵の手首や足首を痛めつける積極的防御。

 だが。


 みしり、と震えた。

 真凛でも颯真でもない。

 この紅華飯店の堅牢な建物が、震えたのである。

 
 カーペットの下で、異様な硬質の音がいくつも響き渡った。

 おそらくは床材の大理石がひび割れ、砕けたのであろう。

「…………ぐッ」

 直接受け止めた両手ではなく、真凛の服の背中が裂けた。

 凄まじい力積が体内を通り抜けた証拠だった。



『坊ちゃま、ついにその技を。いいえ、実戦で使いこなせるとは……』
「……今度はおれにもわかりましたよ。文献に目は通しておくものですね」
 おれの首筋を、冷や汗が伝った。

 劉颯真、やはりこいつも、曲がりなりにも化物だ。


 四征拳六十五手の四十八、『碧雲發鬼かがやくくもがましょうをあばく』。


 四征拳は三つのプロセスを取る。

 一つは体を沈み込ませ勁を得る『沈墜勁』。

 得た勁を拳などに載せて前後左右に放つ『十字勁』。

 そして最後。


 ――得た勁を全身に巡らせ纏う『纏糸勁』。

 
 颯真はついに、この領域に達したのだ。

 勁を直線に放つのではなく、体内を螺旋状に駆け巡らせる。

 これにより、腕や脚を掴まれたとしても弾き飛ばすことが可能とされ、また相手に拳や肩ではなく、皮膚の一部が触れていれば、そこから勁を流し込む事もできるという。『沈墜勁』『十字勁』が剛とすれば、それを全身に速やかに巡らせる柔が『纏糸勁』である。

 スコップで地面を掘りながらピアノを弾くようなもの、といえばどれだけ無茶なことをやっているか多少は伝わるかもしれない。


 真凛は颯真の直線的な攻撃を躱したと思い、その腕に流れる高圧電流めいた罠に気づかなかったのだ。つかんだ瞬間にそこから膨大な勁……運動量がつたわり、内臓をかき回されるようなダメージを受けたはずである。

 押し込まれる颯真の腕を受け止めたまま、じりじりと立ち上がる真凛。颯真も手首にダメージ。恐らく折れた。だが構わず押し付けてくる。下肢をローギアに。トルクを最大で掛けて、徐々に姿勢を正す。肺腑にだるさ。勁によるダメージの影響。問題ない。脳を揺らされている。神経伝達に遅延。問題ない。損害は軽微。敵の負傷と大差なし。


「吩ッ!!」

 真凛が完全に立ち上がった刹那、颯真が右腕経由で今一度『纏糸勁』を流し込んだ。

 異音。

 体内で無数の振動が弾け、毛細血管が破裂。真凛の目が赤く染まる。皮膚の薄いまぶたや粘膜が裂け、鼻血が顎を伝って地面に垂れた。

「がァッ!!』

 頓着せず、再度『痛み受け』を敢行。

 異音。

 颯真の手首があらぬ方向に曲がった。

 ノックバックで発生した隙間に己の両腕を差し込み、真凛が強制的に仕切り直す。

「……まだだ!」
「……当然だ!」

 両者が吠える。互いの手の内は明かした。

 そして一気に間合いを詰める。

 額と額がぶつかる距離。

 超近接状態からの嵐めいた圧倒的な攻防が、開始された。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

負けヒロインに花束を!

遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。 葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。 その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...