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偽善者と策略する日々 三十三月目
偽善者と奉仕活動 中篇
しおりを挟む夢現空間 和室
昼になり、飯を挟んでから再びご奉仕の時間となった。
今回仕える相手は、特に何もしないまったりとした時間をご所望だ。
「…………」
「…………」
「……なあ、なぜに和室?」
「む? 特に意識はしていなかったのだが、そうだな……ここはたしか、メルスの自国の雰囲気なのだろう?」
「まあ、日本風と言われればたしかにそうだが……それがどうした?」
「いやなに、あまり来たことの無い場所だったからな。せっかくメルスと共に居られる機会ができたのだ、メルスの世界の話を己に聞かせてほしくてな」
夢現空間における和風な部屋は、小さい家屋の中みたいな和室と宴会で使うような座敷の二種類。
俺と彼女──クエラムが居るのは和室。
襖や障子、畳に掛け軸……いろいろと日本的な物が揃っているぞ。
ついでに茶菓子と緑茶を並べ、コタツに入りまったりと。
そして、クエラムのご要望通りに日本に関する話を語る……のだが、その前に。
「さて、何から話すか。正直、ジャンルが広すぎてどうすればいいか分からん」
「何でもいい。いや、ジャンルそのものに意味など無いのだ。己は、メルスからこうして話を聞けるこの時間を、話そのものよりも求めているからな!」
「……! クエラム、その発言はいろいろと恥ずかしくないか?」
「恥ずかしい? むっ、そんなことはない。メルスが傍に居て、己と向き合い、己のことだけを考えてくれている……少しぐらい、欲張りをしても良いだろう?」
「……グハッ!」
思わず吐血してしまいそうになるくらい、純粋な胸の内を語るクエラム。
そんなことをすれば、全力全開で心配してしまうだろうから、心の中だけに留める。
急沸騰中な脳みそはすぐに{感情}が強制的に冷却する……こういうときは、非常に便利なんだよな。
「と、とりあえず、クエラムが気になることから話を広げていこうか」
「では、メルス周辺の話からだ」
「……俺周辺って言われてもな。まあ、どういう地域だったかでも話すよ」
それからは、ただ俺が一方的に話していくだけの時間が過ぎていった。
話を一つ終えると、そのたびに新たな質問が入って再び説明が始まる。
そう、会話ではなく説明だ。
なのに、クエラムは話の一つひとつを興味津々と言った表情で聞くものだから……つい余計なことまで言ってしまう。
「──なるほど、それがメルスが偽善に執着する理由か」
「まあな。そりゃあこんな理由でもないと、狂人認定されるだろ。いきなり偽善がしたいと願って生まれたわけじゃない。ただ、あのときの想いが忘れられない……そう思っただけなんだ」
「ふむふむ、よく分かったぞ。重ねて尋ねたいのだが、ハーレムを求めるのにもまた何か理由があるのか?」
「…………いや、そっちは普通に」
普通にやりたかったから、そんな安易な理由をこの流れで言いたくはない俺だった。
◆ □ ◆ □ ◆
精霊の間
各属性の部屋と似た作りだが、自然風靡が豊かな環境でいっぱいなこの『精霊の間』。
普段なら微精霊しか寄ってこないのだが、今日だけは特別……下位精霊もやって来る。
「さすがの人気っぷり。お見事です」
「メル君……」
「こればっかりは、仕方がありませんから。でも、いいんです。こうして、姫様が……ごめん、シャルが精霊たちに好かれている姿が見れるなら。ボクはそれだけで充分です」
今の俺はメルスではなくメル、それも妖女型ではなく少年タイプだ。
それはかつて、赤い頭巾を被った少女と共に過ごした姿である。
何度か関係が変化し、略称で呼ぶことを命令されてしまった俺。
かつての口調で、呼び方だけをその新たな関係性を意図するものに変えて話を行う。
「ところで、今回はどうしてこちらへ? ボクの方から出向いても良かったのですが」
「……ダメだよ、逃げようとしちゃ。そ、それに、見せたいものがあるんだ」
「見せたいもの……ですか?」
「うん、だからちゃんと視てて」
その意味を理解して、両方の瞳を一時的に精霊眼へ。
薄っすらとしか把握していなかった精霊たちの姿が、色鮮やかに映し出される。
「すーはー、すーはーーー。よし、それじゃあみんな、お願い!」
『!!』
精霊たちはシャル──【精霊妖姫】の指示に合わせて、宙を舞い踊っていく。
彼らの属性に合わせた色の軌跡が、綺麗な紋様を描き出す。
「! これは……」
「ちゃんと見ててね」
「……はい」
「──~~~~♪」
シャルの歌声へ応えるように、精霊たちがさらに輝きを増す。
紋様──魔法陣のような描画もまた、その光を浴びることで効果を発揮する。
──それは精霊召喚の陣、精霊たちを媒介に呼び出されるのはより多くの精霊たち。
精霊の間には、俺を嫌厭しない微精霊たちばかりが居た。
だが、シャルの乞いはより上位の精霊たちへ届き、その結果──この部屋は賑やかに。
「前にメル君、言ってたもんね。ここにも上級精霊が居てほしいって。それって、ユラルさんのためなんでしょ?」
「……お恥ずかしながら」
「ううん、全然だよ。メル君の事情は分かっているし、眷属のみんなのためにいろいろとやってるメル君は……ごにょごにょ」
「?」
呼び出された上級精霊は、何と言うか割り切っているというか覚悟を決めているというか……俺の方を一瞥後、特に何もしてこないことを確認してから消えていく。
消えると言っても、あくまで精霊眼でも視えない次元に潜んでいるだけ。
きっと、ユラルや精霊との感応性が高い眷属が来れば姿を現してくれるだろう。
「ありがとうございます……このお礼は、必ずや。差し当たっては、今日のこのご奉仕の時間、シャル殿下の思うがままに」
「で、殿下って…………えっと、お願いしても、いいかな?」
「はい、お望みのままに」
まあ、その後は彼女の望むままに。
彼女、そして精霊たちへひたすらご奉仕していくのだった。
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