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【強者の権利】面倒事対処 その05【最下の義務】
スレ81 ヒーローショーは民衆の娯楽
しおりを挟む歓声が至る所から上がる。
そのすべてが、『ジャスティス』──我らが生徒会長の登場に歓喜するものだ。
「おうっ……なんだこれ」
テレビで見ていた戦隊ものと、こうして現場で見るのとでは全然違うようだ。
経験はないが、撮影の時とかはこんな感じなのかもしれない。
『お嬢さん、ここは危険だ。すぐに安全な場所まで下がってくれ』
「は、はい……その、あ、ありがとうございます!」
『君のような可憐な少女が、悪党たちの手にかけられなくてよかったよ。さぁ、早く遠くに行くんだ』
「わ、分かりました!」
ヒーローという概念を知る異世界人としては、そのヒーロースーツから何からツッコみたい要素が満載だ。
だが、こちらの人々からすればそうではないのだろう。
誰一人として、その格好に嘲笑の声を向ける者はいない。
純粋に、悪事を許さない正義の味方に感謝しているようだ……まあ、知らないのかプラスな形で受け止められているのか。
「ふ、ふざけんな! おい、オメェらやっちまうぞ!」
『へ、へい!』
いつの間にか集まっていた悪党の仲間、彼らと共に悪役はヒーローに挑む。
さすがに黒タイツに身を包んではいないものの、その纏う空気と台詞……物凄く雑魚っぽい雰囲気なんだよな。
『ふんっ、纏めてかかってこい』
「や、やっちまえ!」
そこから始まるのは、当然ヒーローによる一騎無双である。
番組的に言えば、幹部の怪人も登場していない状況なのだから仕方がない。
「そして、そんな戦いを喜ぶ人々……刺激に餓えてるんだな」
娯楽が少ない異世界だ。
どれだけ地球の知識を俺たちが持ってこようと、そのすべてを再現することは不可能。
だからこそ、はるか昔から求められていたもの──血と闘争を楽しんでいる。
「そういうところから考えると、戦隊も仮面も……女戦士もバトルだしな」
というか、バトル要素でもないと売りづらいのだろう……って、こういう話は気にしてはいけないな。
今も会長は、悪党たちと戦っている。
さすがに光線銃は持っていないし、このような場で剣を使うこともない。
『──残るのはお前だけだ。大人しく、衛兵たちに捕まれ』
「誰が……誰が諦めるかよ!」
『なら、一撃で終わらせてやる』
「うぐっ……かはっ!」
肉弾戦のみで会長は悪党を掃討した。
パンチとキック、つまり魔法は使わなかったわけだが……そういえば、必要以上に攻撃魔法を使うのは禁止だったっけ?
『あとはお任せします』
「ハッ! ……おい、すぐに連行するぞ」
気絶する悪党たちを、衛兵たちは縄で縛りあげて詰所に連れていった。
会長は一息吐いたあと、観ていた人々と先ほどの被害者に声をかけて去っていく。
「ふぅ……本当に気づかれなかったな」
かつてブラウン先生に言われた通り、何もしていない状態の俺はどうやら気配がとても薄いようだ。
常時展開していた“虚無重圧”を解除し、その当時の状態を再現していた。
──意識しているせいか、当時よりも存在感が無くなっていたけどな。
観るべきものが無くなったことで、人々は元の生活へ戻っていく。
被害者の少女もまた、本来の目的であった買い物をこなしている。
「ずっと不思議だったんだよな……怪人が暴れた後の街がどうなっているのか」
正義の味方の拠点が同じ場所だとしたら、現れる場所も大して変わらないだろう。
つまり、悪党は何度も街に害を及ぼす……なのに人々が減る様子はない。
「信じているんだよな。信じる英雄を」
彼らが居れば、安全だと。
わざわざ別の場所に引っ越さずとも、平和な日々で居られるんだと。
「…………」
そんな正義の味方に目を付けられ、嫌われているっぽい俺っていったい……。
少々悲しくなるが、アイツらとの出会いにはそういうパターンもあったからもう慣れた気がする。
「帰るか」
必要な物は買った。
遠征に向けて支度を始めようじゃないか。
◆ □ ◆ □ ◆
そして、遠征当日である。
俺たちXクラス、そして一学年の生徒たちは、かつて入学式が行われた講堂に集められていた。
そのときと同様、学園長によるありがたいお言葉が授けられる。
「新たな序列者が現れた! それだけの実力が彼にはあり、それをこの街が認めた。入学式で言った通り、この学園は強さ至上主義。彼はその力を以って、自身が序列に相応しいと認めさせたのだ」
今回は俺もちゃんと聞いていた。
……寝ようと思ったんだが、俺の話題が出たせいでサーシャが起こしたんだけどな。
「彼は従者、そして素性も分からない。だがそれでも、この学園は彼を受け入れる。なぜなら、彼は強いからだ!」
そんなに力強く言うことでもないと思うんだが……しかし、そう思うのは俺だけらしく周りはいろいろと考えている。
「さぁ、本題に移ろう。君たちは遠征を経て確実に強くなる、彼に挑戦した者ならそこに圧倒的な力の差を感じただろう。彼はこの学園に来る前に単独で迷宮を攻略していた。つまり、それだけの実力があったのだ」
学園に入学する際、そういえば経歴を書いた気がするな……実績の部分に、サーシャが居た迷宮を攻略したと書いた気がする。
「遠征は君たちの実力を確実に高める。そのサポートには上級生も付く、今は失敗してもいいんだ。迷わず試せ、そして強くなれ! ──これより、遠征を開始とする!!」
そう言って、学園長は始まりを告げた。
……俺にとって、面倒事ばかりのイベントの幕開けを。
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